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第65回 「ダイナミック・アプライアンス」という選択肢

今回は、少し専門的ですが、治療上はとても大切な話をしてみたいと思います。一般の方にはわかりにくい内容かもしれませんが、写真を多用(45枚使用)しましたので、時間のある時に熟読して頂ければ大筋はおわかり頂けると思います。

矯正専門医でない一般GPしかいない歯科医院で多くの矯正治療が行われるようになってきました。特殊なケースを除いて、順序立ててスキルを磨き自身の技量にあったケースに取り組めば、一般歯科医院で矯正治療が行われることは、コストパフォーマンスやタイムセービングの面からも患者さんに多くの受益をもたらします。

そのためには、”確固たる診査・診断の下に治療方針が決定され、ゴールを目指すこと”、そして”治療中に治療内容の変更が余儀なくされた場合への柔軟なオプションを数多く持ち合わせていること”が必須となります。

当クリニックでは、歯並びの異常のタイプにもよりますが、下は3~4才のお子さんから矯正治療の必要性についてお話するようにしています。

乳歯が生え揃って(約3才前後)から永久歯に生え変わる(12才前後)までの時期”混合歯列期”といいます。
この第1期治療の時期に、”顎骨の成長・発育””習癖の有無”の評価を行った上で、治療の必要性について考察し、治療方針を決定します。

タイトルの”ダイナミック・アプライアンス”(以下DAと略する)というのは、混合歯列期から思春期成長時期に使用される装置の一つです。臨床家の1人として、非常に効果があると実感していますので、この2,3年頻用しています。その装置の話を中心にさせて頂きます。

まず、基礎知識として、何点か押さえておいてほしいことがあります。
乳歯と永久歯の混在した“混合歯列期”は、上下顎骨の大きな不調和(大きさ、成長方向)の是正が矯正治療の第一目的になります。
上顎前突(出っ歯)の場合、下顎を前進させる機能的矯正装置(ファンクショナル・アプライアンスという)を通常使用します。可撤式(取り外し)の装置としては、アクチベーターから派生したバイオネーターを筆頭に、FKO、ビムラー、フレンケル、ツインブロック、トーシャ、ファンベッグ、BJAなど30種類以上が考案されてきました。

その中で、上下一体の装置をモノ・ブロックといい、バイオネーターが最も有名で、フレンケル、ビムラーなどがこれに属します。それに対して、上下が別々の可撤式装置をツイン・ブロック・アプライアンスといい、BJA(バイト・ジャンピング・アプライアンス)やDAなどがこれに属します。

可撤式(取り外し)装置の最大の欠点は、患者協力に依存する点です。コンプライアンス(患者協力度)が低い場合、効果が出にくいばかりか、治療期間が延長しますので、患者さん自身の治療への意欲(モチベーション)も維持されなくなります。

あくまで私見になりますが、モノ・ブロックタイプの装置は、日常生活において会話もままならないほど大きな装置ですので、なかなか長時間使用して頂けないというのが実感としてあります。一日の使用時間にもよりますが、通常6ヶ月以上は必ず使用し続けなければいけません。治療の予知性に疑問符がつきまといます。

一方ツイン・ブロックタイプの装置(上下が別々の装置)は、慣れれば会話は支障なくできますので、コンプライアンスが得やすいといえます。

下顎骨を前方へ誘導するための可撤式の装置として構造がシンプルな”咬合斜面版”がよく使用されるのですが、患者さんは長時間装着しているにも拘らず効果がでない場合があります。そういった経験はないでしょうか?

その理由について触れるとともに、そういった場合にDAが有効であること、そして両者の違いはどこにあるのか?などについて、当クリニックのケースでお話していきたいと思います。

1ケース目ですが、図A~Dが初診時の6才のお子さんです。前歯の咬み合わせが深い(過蓋咬合という)状態でした。

図Aの正面観で、下の前歯が全く見えない状態でした。この乳歯列期には、上下の前歯の先(切端という)がかみ合っている状態が正常です。

図Bの横からの口元の拡大でも、下の前歯を上の前歯が覆っている状態で前方へ出ている状態でした。

図C(右側面観)、図D(左側面観)からも上下の前歯は、出っ歯の状態というのが見てとれます。

そこで、下顎歯列弓は永久歯が生えるスペースが足りなかったので、側方へ拡大した後、図Eのような”咬合斜面版”と呼ばれる下顎骨自体を前方向へ誘導する装置を装着しました。前方部分を拡大したのが図Fです。

図F黄色丸部分のレジン(プラスチック)が斜面になっており、口を閉じていくと、下顎が前方へ誘導されるような設計になっています。

図Gが装置装着時の正面観です。図Hが左側面観です。図H黄色矢印のように装置装着時・閉口時は、下顎が前方向へ行かざるを得ない設計になっています。

図Iが6ヶ月装着した後の治療後の正面観です。上下前歯の咬み合わせが浅くなっているのがわかると思います。図Jが左側面観です。図D図Jを比較すると違いは歴然です。現在経過観察中で、良好な咬み合わせが維持されています。

2ケース目を見てみましょう。図K~Nが初診時(6才)の状態です。図Kの正面観でおわかり頂けるように、下の前歯が上の前歯の裏側の歯茎にあたっている状態で、非常に深い咬み合わせ(過蓋咬合)です。

図Lの左側面観では臼歯部(奥歯)の咬み合わせが上顎前突(出っ歯)の様相と診断できました。

図M、Nの上下顎咬合面観から、永久歯の萌出スペースが不足していることがわかります。特に、下顎は約4㎜と中等度不足していたため、図Oのように側方拡大しながら、位置異常の右下中切歯(図Pの青丸)を黄色矢印の方向にゴムの弾性を利用して左側へ移動しました。

図Q、Rが下顎歯列の側方拡大と右下中切歯の位置異常の不正がほぼ改善されたところです。

その後、1ケース目と同じように、”咬合斜面版”図S、Tのように装着しました。前後的な誘導方向、誘導量を調整しながら、8ヶ月使用してもらいました。

図U,Vが装着時です。元々図Lのように下顎が大きく後方位にあったため、切端咬合よりさらに閉口位を前方位で採得して装着してもらいました。

ところが、8ヶ月装着してもらったにも拘らず、下顎後退位を改善することはできませんでした。患者さんは、装着時間をしっかり守っていたのに・・・???
上記の2ケースの違いは何なのか?????

”咬合斜面版”は、Ⅱ級症例(上顎前突)の上顎歯列にのみ装着します。モノ・ブロック(バイオネーターなどの上下一体型の装置)に比べると比較にならないほど装着感は良いので、私の経験上は患者さんが装着してくれないことはまずありえません。

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次に提示する3ケース目、4ケース目のDA(ダイナミック・アプライアンス)で治療を行ったケースのメカニクス、効果と比較しながらこの疑問に対する私の出した答え、考察をしてみたいと、思います。

図W~図ZがDAを口腔内に装着したところです。床タイプで上下別々のツイン・ブロック構造となっています。

図Wの上顎咬合面観において、黄色丸2箇所に大きめのフックが床に埋め込まれています。このフックが閉口時に図X黄色丸箇所にある斜面にスライドする構造になっていて、下顎を前方へ誘導します。

後で触れますが、フックが左右2箇所にあること、上顎と下顎の両方に調整箇所があること、スライドさせる斜面の強さを簡単に微調整できることなど”咬合斜面版”に比べ有利な点を数多く持っている装置です。

図Yが正面観、図Zが横からの口元のアップです。上下別々の装置のため会話等発音時に特に支障はありません。ですから、食事とブラッシング以外のほぼ24時間を目標に装着を指示します。

図①、②はある患者さんの初診時です。ディープバイト(過蓋咬合)で明らかに下顎が後退している症例でした。

図③、④がDAにて治療後の状態です。下顎が前方に誘導された結果、前歯部の過蓋咬合が改善されています。約7ヶ月の装着期間でした。この年齢ですと、顎関節部のリモデリングが容易に起こります。

図⑤~図⑪がDAの全貌です。図⑤が上顎へ装着する床タイプで、拡大が必要な症例は、拡大ネジを付与しておきます。装置の維持のためのクラスプ、唇側線などからなります。

図⑥が後方から見た概観で、2つのフックがあるのが特徴です。図⑦が側方面観です。三角形の2つのフックが下顎の両側舌側に付与した斜面にスライドするようになっています。

図⑧がフック部分の拡大ですが、”咬合斜面版”に比べ、黄色矢印の閉口時に下顎が前方に誘導される時の角度を”強く”設定することが可能です。

これは、非常に重要な点です。左右に調整機構がついていることも有利な点です。後ほど詳細を触れます。

図⑨が下顎の装置の咬合面観です。維持用のクラスプからなるシンプルな設計です。

図⑩の黄色四角部分が上顎のフックがスライドする舌側の斜面部分です。この部分のレジンを削除・追加することにより下顎の誘導方向・量を調整できます。

図⑪が、上下装置を模型上に装着して後方から見たところです。黄色丸の2箇所の誘導面にフックが勘合しています。左右のフック、斜面の4箇所の調整により、顎偏位の是正の調整も可能となります。

また、ツイン・ブロックで閉口時に左右へは下顎がある程度動かせるフレキシブルな構造になっていますので、窮屈感はほとんどなく、私の診療室での患者さんの評判は、”咬合斜面版”より良好です。

図⑫、⑬は、DAを実際に患者さんに装着したところです。

図⑭、⑮が4つ目のケースですが、初診時の状態です。オーバージェット(上下の前歯部の前後的なずれ)が12㎜もある方でした。図⑭の術前は下顎歯列が正面からは全く見えない状態でした。

図⑯、⑰がDAを装着したところです。8ヶ月間食事とブラッシング時以外は装着して頂きました。非常に協力度(コンプライアンス)の高い方でした。

図⑱、⑲が治療後です。正面観(図⑱)はほぼ正常な咬合になりました。右側面観もほぼ正常ですが、わずかにⅡ級傾向が残存しているともいえますが、第1期治療としては十分な成果が達成できた、といえます。

今後歯性の問題等を注意深く観察しつつ、良好な永久歯咬合関係になるよう見守っていく予定です。

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話が少し戻りますが、”DA(ダイナミック・アプライアンス)”が”咬合斜面版”より優れている点がいくつかあります。

上記に提示した4つのケースのうち、2ケース目の方は、”咬合斜面版”を装着していたにも拘らず効果がなかったとお話しました。

平常時、つまり食事や会話をしていない時は、誰でも上下の歯牙を接触させていません。2~3㎜隙間が開いています。これを歯科用語では、”安静空隙”といいます。”咬合斜面版”の場合、完全に閉口している時は下顎がかなり前方にあるのですが、下顎前方部舌側の粘膜・歯槽部との距離の関係で斜面の角度に制約があり、あまり切り立った大きな角度にはできません。そして斜面の角度を大きくできないため、完全に閉口した状態より少し口が開いた状態ですと下顎が後下方へ位置してしまいます。

一方、DAの場合、斜面を80°くらいの大きな角度にしても障害はないため、口が若干開いた状態でも下顎の前方位が維持されています。完全に閉口していても左右に少し下顎を動かせので不快感も少ないのです。”咬合斜面版”は閉口時は完全にリジッドな左右へ動かせない状態になりますので違和感が強く、無意識に少し開口した状態になっていることが多いと推察されます。すると、下顎は後方へ少しずれている状態ですので、前方誘導が目的の装置の効果が出にくい、という理屈になるのではないでしょうか?

2ケース目の患者さんはアレルギー性の慢性鼻炎のある方でしたので、口呼吸していることが多い、つまり口を若干無意識に開けているいことが多かったとも推察できます。

少し専門的な話になってしまいました。すいません。上記の話はあくまで私の推測の域を出ませんが、いずれにしても、”ある効果を期待して装置を装着し治療しても効果が出なかった時、次の一手を打てる知識、スキルが必要!”ということです。

可撤式(取り外し)の装置の最大の欠点は、患者協力に依存する点です。そして装着時間が短い場合は、治療期間が延引するケースが出てしまいます。治療効果がなかなかでないと、患者さんとの信頼関係がギクシャクしてしまいます。その際は、半固定式、あるいは固定式の顎機能装置に変更するすべを知っておくことが求められます。

次回は、コンプライアンスの悪い、つまり可撤式装置に非協力的な方への固定式装置(ハーブストジャスパージャンパー)での下顎前方誘導の話をする予定です。少し適用年齢が上がるのですが、非常に有効な装置と考えています。

文献的には、可撤式のモノブロックの機能的矯正装置の成功率は、50%前後です。言い換えれば、2人に1人は失敗する装置ともいえます。原因は患者協力が得にくい点です。私的にも、全ての方に24時間使用を強いるのは非現実的と思います。そして混合歯列期から使用すると、どうしても治療期間が長期に渡ってしまいます。

”治療結果が確実な治療の予知性の高い固定式の筋機能装置を選択する!”というのが現状ではグローバルスタンダードといえます。

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