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第52回 潮流を読む!・・・Simple is best

歯科医療に携わる1人として、”刻々と変化、進化する潮流(治療法)を冷静に受け止め、自身の日々の診療にどのように取り入れていくか?”は、非常に難しい課題である。なぜなら、新しいもの=良いものとは限らない。流行り物のように皆が飛びつき、潮が引くのもアッと言う間というのは、どこの世界でもよくあることです。かといって、保守的になりすぎると、全く治療レベルの上がらない後れの歯医者になってしまいます。

歯並び、矯正治療に関しては、診断力が全て!、と言っても過言ではないくらい重要であることを、”歯並びの話”のページで何度もお話しました。
診断力には、多種多様の知識と経験が必要であることは、言うまでもありません。良い意味でも悪い意味でも氾濫しているいろいろな矯正のテクニックを使い分けることが最も質の高い、患者さんに貢献できる治療法だと信じています。

そして、結果が同じならば、治療法は、タイトルにある”Simple is Best”なのです。ただ、画一化されていない”人”を扱う治療においては、なかなか難しいケースが多いのですが・・・。

抽象的な表現になりましたが、症例の中で私の考え方を述べさせて頂きます。いろいろな治療法の提案ができる場合に、何を選択基準にするのか?ということです。
結果が同じという前提に立てば、治療法や矯正装置が”Simple”であれば、治療期間が”早く”、治療費も”安く”、装置の不快感が少ないので、患者さんも”楽”という公式が成り立ちます。

できるだけシンプルな装置で効果を最大限に!もちろん治療期間も短く!というコンセプトで行った下記の症例をご覧下さい。

図A~Jが、初診時の口腔内の状態です。主訴は、”両方の奥歯が引っかかる感じで、噛み合わせがおかしい”でした。甲子園常連の野球部に所属していた彼は、当医院へわざわざ2時間かけての来院でした。部活が忙しく頻繁には通えないことや、嘔吐反射があり、大きな装置は無理です、と最初におっしゃていました。また、見えない装置にしてほしいことや、しゃべりにくいのは困る、安く早くなど多岐にわたる要望がありました。

図Aの正面観、図Bの口元の横からのアップは、全く問題ありませんでした。図C(上顎咬合面)は、一見異常がないようですが、左右第二大臼歯(図Dの黄色丸)の歯牙が、頬側(図Dの青矢印)へ大きく転位している状態でした。

図E(下顎咬合面)においても、一見異常がなさそうですが、左右第二大臼歯(図Fの黄色丸)が、舌側(図Fの青矢印)へ転位、傾斜していました。

図Gが右側面観です。上顎右側第二大臼歯(青の四角の歯)が、頬側へ大きく飛び出ていました。真横から見た術前の模型(図H)の赤四角の歯牙です。下の歯とは全く噛み合っていない状態でした。

図I(左側面観)の上顎左側第二大臼歯(青四角の歯)も頬側に飛び出ていました。真横から見た図Jの赤四角の歯牙です。下の歯牙とはすれ違った咬合(鋏状咬合という)状態で、早期接触して咬合干渉している状態でした。

図K、Lは、裏側(舌側)から見た図です。図K(右側臼歯部舌側面観)において、赤四角の箇所(上下第二大臼歯部)が交叉した咬合になっています。下顎第二大臼歯が舌側(内側)に傾斜しています。

図Lの赤四角部の右下第二大臼歯部も同様に下顎第二大臼歯が舌側傾斜していました。

この患者さんの主訴は、上記しましたように、”かみ合わせの不具合”です。”口の開閉時に顎がカクカクする”ともおっしゃっていました。図Mが顎関節の左右開閉時のレントゲン写真です。
このレントゲンの診かたについては、院長のメッセージの第26回 レントゲン写真をしろう!・・・②第41回”かみ合わせ”治療への取り組み!(顎関節の話)をご覧下さい。顎関節部の骨形態、位置異常は見当たりませんでした。

次に、図N(パノラマレントゲン)についてですが、図Oの赤丸と青丸の4本の親知らず(第三代臼歯)に問題があります。パノラマ像の見方の詳細については、院長のメッセージの第26回 レントゲン写真を知ろう!・・・②をご覧下さい。

図Oにおいて、赤丸の両側の親知らずが、一つ前の歯牙(第二大臼歯)の下に潜り込んで、引っかかっています。青丸の親知らずは、ほぼ真横に埋まっています。このように親知らずの埋まっている向きに問題がある場合、前の歯牙である第二大臼歯を押して、正常な生え方を阻害する場合がよく見受けられます。

図C~Lのように、位置異常を来たした第二大臼歯を放置していると、この歯牙だけの問題だけでなく、口腔全体の咬合や、顎関節の問題などの機能障害に波及します。また、顔貌の偏位まで来たす可能性も十分秘めています。

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

K

L

M

N

O

では、治療方針をどのように立案、提示、決定していくか?について考察してみましょう。
患者さんは全顎的な矯正を希望して来院しているわけではなく、かみ合わせの不具合の改善を希望しています。
歯科医側からの考えとしても、下顎前歯部に軽度叢生はあるものの、治療の必然性があるほどの審美的な問題ではありません。
ですから、第二大臼歯の咬合関係を正常にすることのみを行えば、機能的には正常な状態にすることができます。

次に、装置の選択になります。”すれ違い咬合”の改善にはいくつかの手法があります。
歯並びの話の第48回 MTM(小矯正)は実は難しい!の後半に提示している症例の治療法が一般的ではあるのですが、若干装置が複雑で大きくなります。

タイトルにあるように”Simple is best”ということで、できるだけ小さな、簡単な一つの装置で治療を行うことにしました。

今回の症例では、図Pの赤矢印のように、上顎の第二大臼歯の頬側転位を内側(口蓋側)に移動させることが、治療の主眼でした。

そこで、図Qのような矯正用のミニ・インプラントを固定源として使用しました。矯正治療で使用するミニ・インプラントの詳細については、歯並びの話の第30回 最新の治療法(インプラント矯正)や、第45回 ”矯正用インプラント”は必需品をご覧下さい。

図Rが実際に装置を装着したところです。左右一箇所に、ミニ・インプラントを埋入し、黄色矢印の方向に、ゴムの弾性とワイヤーを調整することにより第二大臼歯に矯正力をかけました。

図S4ヵ月後の動的治療終了時の上顎咬合面観です。左右の第二大臼歯(最後臼歯)が歯列内に納まっているのがおわかり頂けると思います。
これ以上シンプルでかつ効果的な装置は存在しません。ですから、患者さんの違和感はありませんし、他の歯牙にアンカー(固定源)を求めていませんので、第二大臼歯だけが純粋に移動します。圧下しながら口蓋側へ移動してくれます。

図Tが装置装着直後の右側第二大臼歯部で、図Uが4ヵ月後の同部位です。咬合面は咀嚼によって切れないように細いワイヤーにしています。ワイヤーと主線間をゴムにして、主線を口腔内でベンディングすることにより矯正力を調整(アクチベイト)しました。

ミニ・インプラントの埋入方法について少しお話しますと、埋入する長さを決定するために、粘膜麻酔下にて、まず図Vのようにストッパーのついたファイル(根の中の治療の時に使用する細い針金)で粘膜の厚みを測定します。部位、埋入方向によって、粘膜の厚みが異なることから、骨内への5㎜の支持を基準に決定します。可動粘膜への埋入(頬骨下稜や臼後パット後方部など)の場合は、完全埋入型のインプラントを推奨しています。図Wが埋入直後の状態です。

図Xは、反対側への埋入を行っているところです。図&のような専用のドライバーでセルフタッピングで行います。ドリリングは全く不要というか、いろいろなリスクを伴いますし、行う必要はありません。補綴で使用するインプラントとは考え方、手技は全く異なります。

図Yが今回アンカー(固定源)に使用したミニ・インプラントです。粘膜の厚みを考慮して左右長さを替えました。注目して頂きたいのは、タップの切り方(ねじ山の方向)が左右のミニ・インプラントで逆になっています。非常に重要な点です。時計回りに閉めこんでいくタイプ(CW)と、反時計回りに閉めこんでいくタイプ(CCW)があり、使い分けています。

図Zがヘッドの形状です。このメーカーのある種のミニ・インプラントには、ブラケットと同じスロットル様の溝があるため、角ワイヤーを挿入できます。つまり、ミニ・インプラントのヘッド部分に挿入されたワイヤーの3次元的な調整が可能ということです

P

Q

R

S

T

U

V

W

X

&

Y

Z

図①は、右側大臼歯部の咬合面観ですが、頬側へ転位した第二大臼歯を青矢印の方向(口蓋側)へ矯正力をかけると、その反作用で赤矢印の方向へワイヤーが動こうとします。ワイヤーの赤矢印の方向への動かないようにしている固定源がミニ・インプラントなのですが、このミニ・インプラントは、黄色矢印の時計回りに回転しようとします。ところが、時計回りにタップ(ねじ山)が切ってあるものを使用することにより、骨内へネジかまれる力の方向ですので、実際に黄色矢印に回ることはありません。

ですから、左側大臼歯部には、反時計回りにタップが切ってあるミニ・インプラントを使用しています。

図②図①から4ヵ月後の第二大臼歯部です。圧下しながら口蓋側へ移動し、歯列内に誘導されたのがおわかり頂けると思います。

当医院では、現在3種類のメーカーの矯正用インプラントを使用しています。各メーカーから、次から次へとバージョン・アップされたいろいろな形状のものが発売されています。私たち臨床家にとっては、症例によっての使い分けができるわけですから、非常に有難いことです。近々海外製の何種類かのミン・インプラントの厚労省の許認可がおりるので、さらなる日本でのミニ・インプラントの臨床への普及は間違いありません。

下顎についてですが、図③の赤矢印の方向へ第二大臼歯を移動させればいいのです。
術前が図④ですが、上顎ほど移動量が大きくなかったため、図⑤のようにリンガルアーチ(LA)という装置で整直(アップライト)させました。図⑥が術後です。

今回は、リンガルアーチのみでの是正ですので、挺出しながら頬側傾斜することを理解した上で使用する必要があることは周知の事実です。装置の特徴、長所、短所は常に念頭においておかなければいけません。

図⑦が治療前の右側臼歯部の側面観で、図⑧が動的治療後です。上下第二大臼歯が正常な歯列内に入り、咬合しているのがおわかり頂けると思います。上顎第二大臼歯へは、圧下力(歯茎の中へ押し込む力)をかけなければいけないのがポイントの一つと言えます。

図⑨が治療前の左側臼歯部の側面観です。図⑩が術後になります。歯列内から完全に飛び出していた第二大臼歯が隣在歯と同じラインに納まっています。対合歯との咬合接触関係が不十分な点については、後述するアクティブな動きのできるリテーナー(後戻り防止装置)にて緊密にしていくことが可能です。

図⑪が、上顎の装置撤去後、透明なリテーナー装着状態の咬合面観です。図⑫が口腔外での装置の全貌です。インディビジュブルリテーナーと呼ばれている装置に、一工夫加えた形状にしています。第二大臼歯部は、頬側に後戻りしないようにワイヤーを歯面に接触させ、咬合面及び口蓋側はフリーな状態にして、生体の機能的な自由な動きが行えるようにしました。

図⑬が下顎の装置撤去後のリテーナー装着状態です。図⑭のように、下顎は、第二大臼歯部は、舌側面だけ歯面とワイヤーを接触させることにより後戻りを防止し、上下の緊密な咬合は、機能的、バイオロジカ的な自由な動ができるように工夫しました。もちろん、この手法は、年齢を考慮した上でのことです。

上記の症例を総括してみましょう。
まず、”Simple is best”という発想を念頭において取り組みました。
もちろんゴールは”第二大臼歯の機能的な正常咬合”ということで設定しています。治療の質を落とすことは、問題外です。
そして、患者さんの要望をできるだけ尊重する治療法を模索しました。”遠方であることや部活が忙しく頻繁には通えないこと、嘔吐反射があり、大きな装置は無理です!また、見えない装置にしてほしいことや、しゃべりにくいのは困る!、安く早く!”などでした。

結果的に、本人、及び毎回同伴して下さった親御さんの満足度は予想をはるかに超えるものでした。”こんな簡単な装置でこんなに短時間で治るのならもっと早くやればよかった!”等等。

治療後に少しだけお話させて頂きました。”この治療法はどこの歯科医院でもできるとは限りません。ご要望等聞いた上で総合的に判断して提案させて頂いた治療法です。予定通り治療が終了して本当によかったです。遠方から大変だったと思いますが、私的には、結果的にベストな選択肢であったと感じています。お疲れ様でした・・・”

装置が複雑になれば、当然高度なスキルが必要になってきますし、いろいろな場面でエラーが生じやすくなります。シンプルな治療で!という発想は常に持っていたいと常々感じています。

「矯正治療というと特殊な専門知識がないと取り組んではいけない未知の領域」、という風潮が未だに一般開業医にあるのは、とても残念なことです。
上記の症例で言えば、”当医院来院のずっと前に、かかりつけ歯科医か学校検診などで第二大臼歯の萌出異常に親御さんが気づく前に歯科医が気づいていたはずです。”見てみぬ振りをしていたか、畑違いという発想で放置していた可能性もあります。もっと早く(萌出初期)治療すれば、さらなるシンプルな治療法で臨めました。

”潮流とは何か?本質からぶれず、患者さん本意の治療への取り組み”が根底にあった上で、”Simple treatment is better or best”への取り組みは、あらゆる医療分野で、今後益々クローズアップされていくことでしょう。

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