第18回 よくある歯列不正ですね!(開咬)・・・②
歯列不正は、ある日突然現れる病態ではありません。最初に歯並びの異常に気が付くのは、親御さんの場合がほとんどです。
歯列不正に気が付いた時が、治療の開始時期です。詳細については、歯並びのページの 第2回「矯正治療はいつ始めるの」・・・①、第3回「矯正治療はいつ始めるの」・・・②をご覧ください。
今回は、前回に引き続き、よく見受けられる歯列不正を列挙し、実際の治療例や、放置すると治療が複雑化、長期化する具体例に触れてみたいと思います。
歯並びのきれいな人と、そうでない人の違いはどこにあるのか?
一言でいえば、歯1本1本の大きさや形は、十人十色ですので、生えてきた歯が全部並ぶだけの顎の大きさがあれば叢生(乱杭歯)になりませんし、上下の顎の大きさのアンバランスや、上下的、前後的、左右的な位置のずれがなければ、上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)、開咬(前歯がかみ合っていない)にはなりません。
今回は、上下の顎の発育異常、位置異常の早期治療の必要性について症例を挙げて説明したいと思います。
症例1(開咬)
C
また、最近の子供さんは、前歯を使う食事が減ってきているのも要因といえます。前歯は歯が生えてから咬んだ経験がないのです。歯に咬む記憶を覚えさせることが治療法の一つです。
図Cのようにチューブで咬む訓練をすることにより歯に正しい刺激を与えてやれば図Bのように、正しい位置に並びます。治療期間は3ヶ月でした。
症例2(開咬)
D
E
F
G
症例2の図Dように、開咬の程度が中程度で、この患者さんの場合、昼夜を問わず、舌の前突癖が著明でした。
ここまで開咬が進んだ場合は、図Gのような舌が前へ出ないような機械的な装置を装着しないと、咀嚼訓練だけでの治癒は、なかなか難しいです。図Eが治療中(4ヶ月)、図Fが治療後(6ヶ月)です。
前歯が開く「開咬」は、舌などの姿勢が悪いために、前歯が舌に突き上げられて、歯が上方にあがってしまいます。口と頬の周囲の筋肉と舌の筋肉の安定のよい場所に歯は並びます。
前歯が生えてきた時に、前歯への咬む刺激が不十分なために起こります。ですから、症例2の場合も、装置をはずした後に、前歯に咬む刺激を十分与える咀嚼訓練をしないと、後戻りしてしまいます。
症例3(開咬)
図Hは、一見図Aや図Dと同じ歯列不正のようですが、大きな相違点があります。症例1、症例2が小学生なのに対し、症例3は、成人という点です。
顎が成長しきっていない場合は、咀嚼訓練(症例1)や、簡単な悪習癖防止装置(症例2)によって完治しますが顎の成長が終了した時点で「開咬」が認められる場合、歯列の異常とともに、顎の形態や位置異常が確立されているため、機能的な装置(各種訓練や図Gのような直接歯を動かさない装置)では、治療は難しいのです。
図Hが治療前、図Iのような上下の歯牙全部に装置をつけて治療していくようになります。図Jが治療後です(1年半の治療期間)。
「開咬」という歯列不正は、顎の成長が終わるまで放置してしまうと、顎の形態や位置の異常が不変的に近い形で残ってしまいます。
そのため、図Jのように治癒したように思える症例でも、術後のメインテナンスには、要注意です。後戻りが非常に起きやすいため、半永久的に何らかの保定装置を入れないといけないケースが多いです。わかりやすくいえば、変形した顎は、簡単にはもとに戻らないということで、再発しやすいケースは、外科処置を併用した矯正処置をする場合もあります。
歯列不正には、歯牙だけ(歯性)の位置異常の場合と、顎の骨の異常(骨格性)が認められる場合と、両者が混在したタイプがあります。家族歴(親、兄弟等に同タイプの歯列不正がいる人)があり、遺伝的に骨格性の開咬になる人もいますが、大部分の人は、悪習癖などから歯性の開咬が最初に起こり、経年的に骨格性の要素も加わっていきます。骨格性の異常が重症になると、外科的な治療も必要ですし、後戻りも起きやすくなります。
「開咬」という歯列不正は、乳幼児期に治療し、顎の骨の発育異常、位置異常を未然に防ぐことが重要です。全て永久歯に生え変わってからの治療では、骨格的な異常を伴っている場合が大半で、非常に後戻りしやすく難症例となりかねません。
次回から、上顎前突(出っ歯)、下顎前突(受け口)について、触れたいと思います。