第11回 抜歯か?非抜歯か?・・・第1話
患者さんが、矯正治療に踏み切れない理由に、治療期間、治療費の問題と並んで抜歯するのが怖い、いやだ、という話をよく耳にします。
何本かの歯を抜かないときれいな歯並びにできないケースは、確かにあります。
今回は、どのようなケースの場合、抜歯しなければならないか、抜歯せずに矯正する方法はないのか、歯列不正のタイプ、年齢的なことなどとの関連はあるのか、ないのか等々おりまぜて話を進めていきたいと思います。
歯科医にとっても、「抜歯しないときれいな歯並びにならないですねー」と、患者さんに説明するのは、つらいものです。できることなら非抜歯で全ての患者さんに満足のいく治療ができれば、と思っています。
矯正の世界では、今まさに非抜歯ブームが起こっています。ほぼ、全ての患者さんに対して、非抜歯で治療を行っている矯正医のグループも少数ではありますが存在しますし、それなりの成果を出しています。抜歯のケースか、非抜歯のケースか、一昔前の診断方法が通じなくなってきているのが事実です。
治療のし易さだけを優先して、安易に抜歯するのは、当然避けなければいけませんが、全ての患者さんを非抜歯で治療すると、高いリスクが伴う場合が生じるということも、忘れてはいけないと思います。
ちょっと前置きが長くなりましたが、実際の例を挙げながら 総論的な話をしたいと思います。
矯正治療は何かといえば、「いかにしてスペースを作るか?そしていかにしてスペースを閉じるか」につきるという歯科医がいます。わかりやすくいうと、歯が並ぶ隙間を作って、歯を並べ、 隙間を閉じるということである。隙間を作る一番簡単な方法は、抜歯です。ですから、矯正治療を行う上で、抜歯するかしないか は、治療計画を立てる上での柱とも言うべき事項です。
下図Aは、前歯の並ぶスペースが足りないため、左右の第一小臼歯 (真ん中から数えて4番目の歯)2本を抜歯して、図Bのように 前歯6本をきれいに並べました。図Cは、図Aと同じように前歯の並ぶスペースが足りなかったのですが、顎を側方へ広げて前歯に隙間を作って、図Dのように非抜歯で治療しました。
上図のAもCも歯が並ぶスペースがないので、歯が重なって乱杭歯になっていました。
A、Bが抜歯治療 C、Dが非抜歯治療の症例です。何を基準に抜歯か 非抜歯かを歯科医は、決定するのでしょうか?項目を挙げて説明したいと思います。
①年齢・・・・・顎の成長が終了しているかどうか?個人差も当然考慮されます。
②性別・・・・・男女で顎の成長のピーク、終了時期が異なるので考慮します。
③家族歴・・・両親、兄弟等に同じタイプの歯列不正が、存在する場合、顎の発育のピーク時の治療に特に注意を要する。
④悪習癖の有無・・・悪習癖を除去した上で、抜歯、非抜歯の治療計画を立てます。
⑤上下の顎の大きさ・・・前後的、左右的に拡大の余地があるかないか?
⑥上下の歯の位置・・・特に中切歯(一番前の歯)の前後的な位置、傾きの修正によっては、大きなスペースがつくれる。
⑦上顎と下顎の関係・・・わかりやすく言うと、治療前に、出っ歯か、受け口か、どちらでもないか、で歯の前後的移動に制約ができるため、スペース確保の方法が、限定される。
⑧歯牙の後方移動の余地・・奥歯の後方へ移動できる量の計測
上記のように、項目だけ挙げると、非常にわかりにくくなってしまいます。実際の臨床の場でも、同じ患者さんを目の前にしたとしても、抜歯でも、非抜歯でも治療できる症例は多々あります。ただ、 抜歯するかしないかで、若干、治療後の顔貌や、歯列に違いが出てしまうのは、事実です。
最近では、 治療方法の違いによって、治療後、どのような顔貌になるか予測して、シミュレートするソフトも発売されて います。 下記の患者さんをご覧下さい。かなり重度の叢生(乱杭歯)です。
一昔前までなら、 この患者さんの治療は、100%抜歯しての矯正治療だったと思います。 ところが、前述しましたように、現在、内外を問わず非抜歯ブームです。非抜歯でも治療は可能です。奥歯を後ろへ順次動かして いって前歯にスペースを作ることができます。
上図の患者さんを抜歯して矯正するか、非抜歯で矯正するかは、意見の分かれるところです。どうしてかといえば、其々の方法に メリット、デメリットが、あるからです。詳細については、次回以降に触れたいと思います。
矯正治療での抜歯は、歯が並ぶスペースをつくるためにしかたなく行います。抜歯したほうが、 比較的スムーズに治療が進む場合と、逆に非抜歯でも十分治療できる場合もあります。担当医から十分説明を受けた上で患者さん自身が最終的には納得して決定してください。思春期成長終了以前であれば、ほとんどの症例は、非抜歯で治療できるということは覚えておいて下さい。