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第43回 不定愁訴への対応!・・・①

今回のテーマは、日々診療している私が、最近自問自答をしている面をあえて取り上げてみたいと思います。

一般の方へというより、歯科医の先生方へ、そして自分自身への戒め、メッセージ的要素を含んでいるような気がします。

歯医者は、口の中のことだけを知っていれば良い、という時代ではなくなってきている、というお話は、何度かしてきましたし、実感として感じている歯科医が大半のはずです。
なぜなら、「口の中に症状があっても、原因が口の中にない場合」や、逆に、「口の外に症状がある場合に、原因が口の中にあることも少なからずある」ということです。現代人の病は、非常に病態が複雑化していることと、原因が一つではないことに起因していると、思われます。

例えば、”歯に大きな穴が開いていて、明らかに虫歯があることが原因で歯が痛い”。あるいは、”歯茎が腫れていてその場所から膿が出ているのが原因で歯がうずいている”。といった即座に確固たる診断が下せた後に治療が行える場合はいいのですが、中には、正直診断がすぐにはつかない方がおられます。その場合、私を含めた歯科医の先生方は、どうしておられるのでしょうか?

医療の分野では、分業化と専門性が常に追求されています。各分野の専門医は、高度な知識と技術は持っていますが、広い視野から患者さんを診ることが不得意です。

歯科の場合でいえば、小児歯科や矯正、口腔外科等の専門医が存在する一方で、歯科全般をカバーできる歯科医師の重要性が再認識されています。治療の選択肢が増えるので、結果として患者さんのためになる、患者さんの利益になる可能性が高いからです。さらに言えば、内科や耳鼻咽喉科、脳外科領域等の疾患との関連性が重要になる口腔症状もしばしばあります。

特に、今回のテーマである不定愁訴で来院された患者さんの場合、精神科の分野の知識、そして連携が必要となってきます。



■症例1■
先日当医院へ来院された症例1の患者さんの図Aが口腔内の正面観です。
主訴は、「耳鳴り、めまい、下唇の左半分のヒリヒリ感、左腕のしびれと痛み」です。
歯科医なら、図Aをの咬合状態が不良であることは、誰でも認識できます。
 図Bの赤のラインのように、上下の歯牙の正中が大きくずれています。また、臼歯部(奥歯)の咬合様式が、右は正常咬合なのに対して、左は交叉咬合になっており、明らかに下顎が、左側へ偏位しています。

次に、顔貌ですが、図Cが閉口時の正面観です。開口時の図Dの時には、下顎が左側へ大きく偏位します。
 開口時に右側のクリッキング(下顎頭が前下方へ滑走する時に引っかかってカクッと音がすることをいいう)が著明で、左側の下顎顎はほとんど回転運動のみという状況でした。顎関節の運動の詳細については、院長のメッセージ<第41回 ”かみ合わせ”治療への取り組み!(顎関節の話)>をご覧ください。
 右側のクリッキング、開口時の偏位が著明で、MRIにおいても左側の関節円盤の損傷は著明ですので、現症からいえば、顎関節症の分類のⅢ型(顎関節内障)ないしⅣ型(変形性顎関節症)と診断をつけるのが妥当なところだと思います。

症例1の患者さんの場合、”咬合異常による顎関節症”というのが診断名で、耳鳴り、めまい、下唇のヒリヒリ感、左腕のしびれと痛みが発症しているのは、そのためである、と断定できるでしょうか?

本人は、顎の異常に関しては、全く訴えられていません。咬合治療により全てが解決するといえますか?

 私も含め、歯科医はどうしても口の中に全ての原因がある、と考えてしまいがちです。というより、考えるしかないのです。口腔外のことを知らないからです。自分の知識、経験上知りえる限りの病名から該当するものを探すしかないのです。しかし、この考え方は、とても危険をはらんでいます。
 因果関係がはっきりしていないのに、すぐ処置にはいることは、症状を悪化させることもしばしばありますし、患者さんの立場からすれば、歯科医が処置を始めるということは、治療行為ですので、症状が改善するはず、という期待をもっています。症例1の患者さんは当医院で5件目でした。大学病院へも行かれています。”精神的なものだろうから、気にしないように!”といわれたそうです。
 転医を繰り返す患者さんのことを、”ドクターショッピング”といいます。性格や環境の問題だ!と一蹴されるとさらに不信感が強まります。咬合治療も2年ほど受けたが、一向に良くならない、とのことでした。

私の親戚に、外科医がいます。”歯科の場合は、患者さんの自覚症状の原因がはっきりしないのに、少しでも異常がありそうな場合、積極的に治そう、という処置をするよね。歯科以外では、意外と少なんだよ”、ということを言われたことがあります。例えば、歯科医からみれば問題のない入れ歯に対して、患者さんからここを削ってほしい、こちらの噛み合わせが高い感じだから人工歯を削ってほしい、といわれれば、処置してしまう歯科医が大半です。

 普通、医師が何か処置をすれば、患者さんは原因除去のためと考えます。処置しても治らないと、”ドクターショッピング”を患者さんが繰り返します。歯科医の責任は大きいのです。
 それから、自分の範疇にない訴えを言う患者さんに対して、”それは、ストレスなどの精神的なものからきているんですよ!”と安易に言ってしまう歯科医も多いと思います。これも非常に問題です。本来は、精神科医が判断するべき領域です。

”セネストパチー”という言葉をご存知でしょうか?
「身体感覚の異常を奇妙な表現で訴えるが、それに対応する身体の異常が見出せない症状」を言います。口腔領域でいえば、「歯の中の神経が動いているのがわかる」とか、「歯茎の中からどろどろしたものが出てくる」といった症状です。”セネストパチー”は、”体感異常”ともいいます。
 症例1でいえば、歯科医側からは、咬合や顎運動に問題があるのですが、患者さんの主訴(耳鳴りやめまい、下唇のヒリヒリ感、左腕のしびれ)との因果関係はないので、急いで処置をしないほうがいいのです。治療の改善具合で診断を明確にしようと試みる”治療的診断”は、非常に慎重に行わなければなりません。

”リエゾン治療”というのをご存知でしょうか?
「他科との連携の下に治療する」ことを言うのですが、身体的な治療をする科(外科、内科等)と精神科との協力のことを一般にはいいます。我々で言えば、歯科医と精神科医が対等な立場に立って診療を進めていくことを意味します。

私の場合、10年来の精神科の親友がいますので、頻繁に相談にのってもらっています。場合によっては、紹介もします。患者さんに精神科への来院を進めても拒否されたり、面接で協力的でない場合がしばしばありますので、リエゾン治療は、現実的には難しい部分もあります。でも、精神科的な診断をつけることは非常に重要ですし、何度もいいますが、自分では判断できない患者さんに対しては、自分の能力の限界であることを患者さんに伝えるべきです。精神的な要因があるかないかは、精神科の医師が判断することです。
 
友人の精神科医が、以前言っていました。”何もやらないと自分が何もできない歯科医だと思われる、みたいな恐怖心が強いので待つという重要さが理解されにくいのではないか”、と言っていたのを思い出しました。その通りだと思います。胸に突き刺さる思いです。

”心療歯科”という分野が必要な気がします。それほど多くの心の病を伴った疾病の方がで来院されます。
”ドクターショッピング”や”ジプシー”と呼ばれる放浪する患者さんをつくらないために、自分自身の力量の限界を認識して、リエゾン治療を積極的に活用しなければいけない時代に入った、と考えます。

私を含め、「ストレスのせいでしょう」というあまりに日常的であるが、医師としては非常識な言葉を、精神医学の知識のない”歯科医”が口にしているのではないでしょうか?

次回は、症例1を含めて、このような方に対して当医院ではどのように取り組んでいるか、お話してみたいと思います。

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