第58回 アメリカから帰ってきました
アメリカから昨日戻ってきました。余りある収穫のあった6日間でした。一言では語りつくせない多くのテクニックを学ぶことができました。
そして、多くの時間を一緒にすごしてくれたDr.chen、Dr.chaをはじめスタッフたちの人間性にも深い感銘を受けました。
私が今までに受講したインプラントの講習の中では、ずばぬけて内容の質が高く、量も豊富で、そして、少人数のオープン・マインドな雰囲気で進められたこともあり、充実したあっという間の出来事でした。
そこの院長とインテリアや家具の話をしたのですが、日本で輸入家具を買うのに比べ5分の1程度で購入できることがわかりました。照明器具に至っては10分の1でした。あまりに安いので、2,3注文してしまいました。ユニット(診療用の椅子)はおしゃれでカラフルなものが多く、歯科用を使っているところは、少ないとのことです。
コンサルテーションルームに至っては、ラグジュアリーな応接セットが置かれ、高級感を前面に押し出した贅沢なつくりになっているとともに、ガラス張りや吹き抜けを多用していて、ちょっとしたた高級リゾートホテルといった印象でした。その後、ラスベガスへ移動し、時差ぼけだったため、すぐに就寝しました。
翌日、研修施設へ移動しました。The Dental Implant Institute(歯科用インプラント研修施設)の名の通り、研修に必要な全ての設備が完備されており、カフェやパティオまでありました。ユニットは8台ですが、日本の歯科医院でしたら、確実に2倍はおけるだけの空間がありました。トイレにまでモニターがあり、ライブオペをリアルタイムで見れるのには驚きでした。
午前7:00~午後6:00頃まで、ライブオペは毎日あり、2日目は2ケースもありました。ハンズオンも豚骨を使用して長時間行われました。豊富な臨床例中心の私たち臨床家には目から鱗のレクチャーでした。他医院での失敗症例への対応やリペア法にも多くの時間が割かれていて、あらゆるインプラント治療法に接してきたからこそ伝えれる内容ばかりでした。
アメリカではメジャーな”ライフコア”というインプラント材料を扱っているメーカーの他に数社の出展があり、日本では入りにくい器具、商品を常時展示していました。ですから、もちろん私もたくさん購入しました。
これだけの施設をラスベガス市内と郊外のヘンダーソン地区にもう一つあるというのです。しかも2人のドクターで切り盛りしているというから、信じられません。2人で年間3000本インプラントを埋入していて、この10年のトータルで20000本以上は埋めたというから唖然とします。サイナスのケースも2000症例以上で、4000本以上は行っていました。
Dr.chenとは、帰るころには、参加者みんなFamiry!,Brother!Sister!と呼び合えるほどの仲になりました。カクテルパーティーや自宅へも招待して頂き、歯科医として尊敬するだけでなく、サービス精神やとてもFriendlyで家族思いの姿を見せつけられ、彼のもとへたくさんの人が慕ってくる理由がよくわかりました。
奥様のDr.chaは、オペの手際のよさは一級品でした。また、5人のお子さん(全て年子)の母親とは思えない美しい方でした。オペ中にたくさんの質問をしたにもかかわらず、丁寧に答えて下さって本当に有難うございました。
実際の研修ですが、上顎臼歯部への新しいテクニックを習得してきました。ラテラルウインドウテクニックでもオステオトームテクニックでもない第3の方法です。画期的で万能に近い方法だと確信しました。シンプルで、かつ確実な方法です。当医院でも何人かの患者さんがすでに待機していますので、早速このテクニックの恩恵を受けることになります。
上顎の奥歯に、”骨が少ないからインプラントはできない”と言われたといって、多くの方が来院されます。HSCは、侵襲が少なく、リスクや術者の負担も少ないです。サイナスのリフティングと抜歯即日埋入でも1時間もあれば充分にオペは終われます。ですから術後の腫脹や痛みも非常に少ないです。骨量が少ないことは、全く問題ありません。いや、サイナスまで5㎜以下の骨量が少ないほうがある面では適応症例と言えるでしょう。VTTとのコンビネーションで膜も不要なため、さらに術式がシンプルになります。ですから、Primary Closure も得やすいです。
来年春から夏にかけてアドバンスコースの計画もあるそうですので、是非参加したいと思っています。
既成概念や教科書的発想は捨て去りましょう!と何度もおっしゃっていました。
”口腔外科医”、というと、”難しいことができる、複雑なテクニックをやれる”ことが、優れた外科医という風潮がどうしてもあります。しかし、複雑なことをするには、時間はかかりますし、ちょっとしたミスも許されないのです。結果が同じならば、シンプルなほうが良いに決まっています。骨が露出している時間が長ければ長いほど、感染のリスクが高くなります。術後の創傷治癒に影響します。
”どんなオペも1時間以内に終わるべきである。1時間を過ぎると術後の予後に影響が出る”といった著明な口腔外科医がいます。その通りだと思います。
日本の場合、インプラント治療をすると謳っている歯科医の30%はヘビースモーカーの人には治療をしないと先月のインプラント専門誌に載っていました。コントロールされていても、糖尿病の人には、50%以上の歯科医がインプラント治療をしないそうです。
インプラント治療をあまりにも特別な治療、リスク要因が高い人には行ってはいけない、と皆が教え込まれているのではないでしょうか?
では、抜歯はどうでしょうか?ヘビースモーカーを理由に抜歯行為を拒否する歯科医はまずいないでしょう。ヘビースモーカーの方は、抜歯後に必ず創傷部位が感染しますか?そんな話は聞いたことがありません。
予知性の高い治療なのですから、私はインプラント治療をもっと身近なものにしたいです。虫歯になると、歯医者さんに行きますよね。小さな虫歯であれば、その日に詰め物をして終わりですよね。ぐらぐらの歯を抜いてほしいと来られた方が来たとします。コンサルテーションを十分した上で、オプションの一つとして即日インプラント治療ができるくらいの対応をしたいです。予約が一杯であれば、”じゃー明日来てください。30分で終わりますから”、と言えるだけの体制作りをしておきたいです。
骨が少し足りないという理由で、Only graft と言うのですが、顎の別の場所からブロックにして取ってくれば、ものすごく術後腫れと痛みが出ます。腰骨(腸骨)を削って取ってきますから1ヶ月入院することになります、と説明すれば、誰でも尻込みします。つい先日も、”上顎の後方部に骨がないから頬骨インプラント(20~25mmの非常に長いインプラントを頬骨に埋め込む)をしましょう”と説明された方が来院しました。将来インプラントが破折でもしたら誰にも除去できません。もし私だったら今お話したような治療は絶対にやりたくありません。同じ身になって考えた時に、自分自身にできない治療を患者さんに強いるのは間違っているのではないでしょうか?
患者さんがインプラント治療を受け入れやすくためには、医院側のシステム作りがとても重要です。今回の渡米で、マネージメントの手法についてもたくさん教えて頂きました。むやみに恐怖心をあおる必要はありません。フラップレス、即日加重も原則にのっとってやればとても良い結果となります。
インプラントの失敗の原因を一言でいえば、”感染と咬合”です。2時間も3時間もフラップを開けて、骨を露出していれば、感染のリスクが非常に高くなるのは当然です。スレッドが露出した場合のリペアもいくつかのテクニックを使用すれば可能な時代です。
今までのインプラント治療は、時間がかかり、痛みや腫れを伴う、患者さんにとってはとてもつらい治療でした。
これからは、安心で身近な簡単に行える治療の方向への取り組みが、歯科界全体で必要です。
私自身も、オプションをたくさん提示できる患者さんの目線に立ったインプラント治療を心がけたいと思っています。