第35回 インフォームド・コンセント
昨日の夕方来院された患者さん(以下S.A.さん)と、新人スタッフとのやりとりの一コマです。
S.A.さんは、デンタルIQ(歯科への関心度)が高く、初診時の問診表に、”費用はかかっても理想的な治療をしてほしい”という項目にチェックをされていました。
スタッフ:今治療している上の一番奥の歯の詰め物には、何通りか種類があるのですが
何でしましょうか?
S.A.さん:一番良い方法でして下さい。
(担当スタッフが、デモ用の模型とパンフレット、症例集などを使い説明を始め、約15分経過)
S.A.さん:いろいろあって悩みますねー。セラミックが一番費用がかかるので理想的な方法なんですか?
スタッフ:強度が少し劣りますね。奥歯ですので強い力がかかると割れることが稀にあります。
S.A. さん:金属は見た目が悪いよねー。金歯っていうのもねー。
スタッフ:どちらも一長一短ありますけどー・・・。
(その後、金属、セラミック、ハイブリッド等の詰め物についてさらに詳しく話し始め、15分経過))
S.A. さん:うーん。あなたなら、どうします?
スタッフ:・・・・・・・。
(私のところへ聞きに来た。院長、どのように答えましょうか?)
(正直に思った通り答えるのが良いと思うよ、とだけ助言した。)
スタッフ:私なら奥歯で見えないところなので、強度があって、適合性の良い金歯にします。
S.A. さん:わかりました。じゃー金歯でお願いします。
以上が、S.A.さんと新人スタッフとの会話の概要ですが、ほとんどの方が、インフォームド・コンセント(説明と同意)としては、不十分で未熟だと感じたのではないでしょうか?
治療法をいくつか提示したときに、迷われている患者さんから、よくある質問に、”先生ならどうします?”スタッフに、”あなたならどうします?”と言います。
当然、答えを用意しておかなければいけません。正直に答えるべきです。すると、間違いなく、患者さんはある治療法に決定してくれます。いろいろな治療法の長所、短所を説明したあげく、きれいな仕上がりになるセラミックは良いですよ!というようなある治療法に誘導する手法は、インフォームド・コンセントとはいえません。
今回の事例でいえば、真面目なスタッフほど、一生懸命何種類かある詰め物の違いを説明します。自分が話せば話すほど、患者さんは、話せなくなります。いくら話し上手でも、全くの一方通行なわけです。
患者さんからどんどん質問が飛んでくることで、始めてコミュニケーションが成立しているといえます。聞き上手なスタッフほど、コミュニケーションが取れている、といえます。
決定権は患者さんにあります。当医院の場合は、”自宅に返ってじっくり考えてみてください”と言い、たくさんの資料をお渡ししています。どんなにリラックスしているようでも、歯科医院では、平常心でなかなか考え、決定することは難しいからです。
インフォームド・コンセントにマニュアルはないと思っています。試行錯誤の毎日です・・・。