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第34回 審美歯科へのアプローチ

審美歯科”という言葉が叫ばれるようになって、 まだ数年しかたっていないのではないでしょうか?

 歯科といえば、一昔前は、小児歯科、矯正歯科、口腔外科 くらいしか思い浮かびませんでしたが、最近では、患者さんの口元への関心の高まりも影響してか、”審美面”への配慮を考慮 した歯科医療なくして質の高い治療はあり得ない時代にはいってきました。

 ”審美歯科”と検索をかければ、数百の歯科のサイトが立ち上がります。医療法上看板などで不特定多数の人に対して、 ”審美歯科”と傍標することは認められていませんが、審美歯科治療を行っていると自認している歯科医院はいくらでもあります。”審美歯科”という言葉からは、歯の色や形などの見た目に主眼をおいた美容的な治療を連想するでしょうが、確固とした定義がないのが実情です。各歯科医院、各歯科医が勝手に決めているだけです。

 エステ感覚で見た目だけにとらわれた治療を行うことは、多くの危険をはらんでいます。

 私見を述べますと、”審美歯科治療”は、全ての患者さんに日頃行っている行為であり、限られた方へ行う特殊な治療ではないと 思います。治療することによって、治療前より見た目が良くなるのは当然ですが、歯科医療で求められている 「理想的な美」とは、歯牙や歯周組織など口の中の色や形と いった形態的な美しさだけではない、と考えます。咀嚼機能の回復が主眼の機能的な面や、 最近一番私が重要視しているのは、口唇を中心にした顔貌との調和だと思います。

 歯はきれいに並んだが、”口唇の形がおかしい”とか、”顔つきが不自然”だとか、”以前よりうまく咬めなくなった” といった主訴で来院される方がとても多いです。形態美だけを求めるのではなく、機能美を伴った形態美でないとトータル としての健康美にはつながりません。

 口腔内外の不調和を、診査、診断し、顔貌、身体の一部としてとらえ、各種テクニックを用いて健康美を追求するトータル ケアを審美歯科治療と考えます。

”審美歯科治療”の具体例を言葉にしますと、

①歯を白くする・・・クリーニング、ホワイトニング、ラミネート・ベニア、
           セラモメタル・クラウン、オールセラミック・クラウン
②歯の形をかえる・・・ラミネート・ベニア、セラモメタル・クラウン、オールセラミック
③歯の隙間をなくす・・・ラミネートベニア。矯正
④欠損部の修復・・・インプラント、セラミックを使用したブリッジ
⑤歯周組織の改善・・・歯周治療、レーザー等による色素沈着の除去、歯肉整形
⑥口唇、顔貌との調和・・・リップトレーニング、顔体操等
⑦咀嚼機能の改善・・・咀嚼筋機能訓練、適正な咬合様式の確立、十分な咬合力、
              咬合接触面積の確保等

などが考えられます。上記の①~⑤に関しては、ほとんどの歯科医院で治療可能です。
 
”審美歯科治療”というと、歯科医の間では、狭義では、 セラミックを使用した治療、というイメージが浸透しています。ただ、 人工的な材料であるセラミックを使用する、ということは、歯牙の切削という最大の欠点をはらんでいます。患者さんの 治療期間、治療費への要望もありますが、私的には、全くの健全歯を切削してセラミックの歯にするのには、非常に抵抗感が あります。できれば、広義の”審美歯科治療”に分類される矯正やインプラントで対応したい、という思いがあります。

 ⑥、⑦に関しては、”審美歯科治療”としては、、ほとんど行われていない分野ですが、定量的に治療前後の比較をする ことも少しずつですが、可能になってきました。口の中だけでなく、口元や顔貌全体の機能美への改善も積極的に歯科医が取り 組んで行く必要があると考えます。
 

 以下の2症例は、当医院で最近行った”審美歯科治療”です。 主訴、患者さんの要望はほとんど 同じです。”できるだけ短期間で白い歯できれいな歯並びにしてほしい” 、ということでした。私自身多くのことを学ばせていただきました。詳細は、以下をご覧ください。 


■症例1■

治療前(図A,B,C)と治療後(図D,E,F)です。成人の女性で、図Aのように歯の色、形、向きがばらばらで、典型的な審美障害を主訴に来院された患者さんです。短期間での治療を強く希望したため、図Bのような反対咬合(骨格性)でしたが、補綴的に治療することにしました。オールセラミック・クラウンにより、図Dのように上下12本を修復しました。被蓋(咬み合わせ))も、図Eのように、正常に改善しました。
 治療期間は、一ヶ月、患者さんは、感激するほど満足しておられました。
 でも、私的には、反省点が多々あります。図C図Fを比べてみてください。E-line(黄色の直線)が治療前後でほとんど改善されていません。E-lineとは、鼻の最先端部、上唇、下唇、あごの最前方部の4点が一直線に並んだ場合が理想とされるラインです。

上唇の嵌凹感、下唇の突出感が治療後も著明です。口の中だけを見れば、図A、Bから図D、Eへ改善されているものの顔貌との調和ということからすると、不十分ということになります。

 図Dの被せは、上の歯はできるだけ前方(唇側)へ傾け、下の歯はできるだけ後方(舌側)へ傾けて作製しています。上顎骨、下顎骨自体の移動、変化は全く起きていません。

 もし、矯正治療(歯の移動)を行っていれば、もう少しE-lineは、改善されたはずです。ただ、1ヶ月での治療は不可能です。1年単位、しかも抜歯する歯が必要だった可能性が高いです。外科矯正(下顎骨の後方への移動)をすれば、さらに良い側貌になっていたと思います。

 審美歯科治療を行う際は、口の中の見た目だけでなく、口元、顔貌も視野に入れた治療計画を立てる必要があると、痛感した症例です。患者さんへは、 治療前に顔貌の劇的な改善は望めない、と説明はしていたものの、治療の一法として、正しかったのだろうか?と自問自答する症例になってしまいました。 



■症例2■
治療前(図G、H、I)と治療後(図J、K、L)です。成人女性で、図Gのように、歯の色、形、向きがばらばらで、症例1と同じように審美障害を主訴に来院されました。図Iのように、上顎前突開咬という歯列不正も認められました。

 この患者さんも症例1と同様できるだけ短期間での治療を強く希望していたため、矯正ではなく、補綴的にセラミックによる修復を行いました。

 普通のサイトですと、治療前(図G、I)と治療後(図J、L)を掲載して、こんなにきれいに治りました!で終わりでしょうが、当サイトは違います。

 歯を削って被せにより歯の色、形、歯並びをきれいにすることは、日々どこの歯科医院でも行われています。

 症例2のこの患者さんには、被せを仮止めの状態にしておいて、リップトレーニング顔体操3ヶ月していただきました。図Hが治療前、図Kが治療後の口元です。口元が引き締まり、頬っぺたのたるみも取れ、スマイルラインにしっかり上顎の前歯が沿っています。顔の写真が載せれないのが残念ですが、目元もすっきり、パッチリで、見違える顔立ち(美人!)になりました。

私が日々の臨床で行っているリップトレーニングや顔体操の方法については、またの機会に詳しくお話したいと思いますが、 定量的に行うことが、大事だと考えています。自宅療法になりますので、成果が数字として表現されないと、 長続きしません。ですから、一時歯科医の間で大ブームになったが今は下火?の”パタカラ”は使用していません。結果が数字で表現できないからです。 

 症例1、2は、いずれも短期間で、という絶対条件から、矯正ではなく、セラミックによる修復を 行いました。矯正で治療したほうが良かったのではないかと、異論、反論を唱える歯科医も多々いるとは思います。が、私の場合は、 最終的には、できるだけ患者さんの意向、要望に沿った治療法を選択しています。

 歯科医が描いている理想的な治療が、患者さんにとって一番良い治療とは限りません。
 歯科医療として行える全ての治療法を提示した上で、患者さんと十分に相談して決定することが、重要です。

 歯科業界は、今まさに、審美歯科治療ブーム真っ只中です。 美容、エステ感覚で、見た目だけに固守し、形態美だけを求めて歯に侵襲を加える(ホワイトニングや切削)のは危険をはらんでいます。 熟慮した上で、医療人として、機能美も備えたトータルケアをしていかなければいけない、 と自問自答している毎日です。

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