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第120回 臨床力を身につけるトレーニング・・・③

上記の口腔内の患者さんは、先月の歯科医のスタディーグループであるODC例会で症例検討という形で、会員全員でグループディスカッションした当クリニックのケースである。
さまざまな不快症状を訴えて当クリニックに来院されました。何をどのように思考し、治療介入へと導けば良いのでしょうか?さまざまな歯科の分野の知識を多角的に考察し、治療プランを作成した上で実行できるスキルと、各ステップで総合的に再評価し修正していくことも必要となってきます。

そして、日々歯科臨床を行う上で、”診断力を磨くこと”が、治療を実際行っていく上での準備段階で最も大切な工程であることは言うまでもない。

患者さんの現症を十分に把握・理解した上で、各種診査、データ収集を行い、問題点の原因がどこにあるのか?そして解決するための治療法を模索しゴール設定をする、という命題を順序立てて探る必要がある。


図Aの初診時の口腔内写真の正面観3枚の内、上が習慣性咬頭嵌合位(終末位)、左下が左側側方運動時、右下が右側側方運動時誘導される歯牙での接触状態である。左側運動時は左側中切歯が、右側側方運動時は左側上顎犬歯が早期接触して咬合干渉していた。

私たち歯科医が人為的に修復処置(被せや詰め物といった人工物)を行う際、いくつかの大原則がある。しかし、歯科医なら誰でも知っているであろう守るべき準となる咬合理論を全く無視した補綴物がほぼ全顎的に装着されていた。

しかも保険適応外のセラミック冠でほぼ全てが行われ、高額な治療費が発生していた。セラミックを使用したからと言って良質な治療が行えるわけでは全くない。同業者として恥ずかしい限りである。

多くの医原性の問題がある場合は、非常にデリケートに対処しなければならず、患者さんへの精神面でのケアを含め、信頼関係を築くまで苦慮することが多い。

医療事故と医療過誤は全く異なる範疇である。言うまでもなく、人が行う行為である限り、不可抗力的な要因で問題が発生してしまうことはある。そのような場合のリカバリーはしかたないにしても、このケースは、全く次元が異なる。

はっきり言えば、補綴治療だけでなく根管治療(歯の根の治療)、歯周治療(歯肉の治療)を含め、全く歯科臨床のベースとなる当然行うべき処置が適切に行われていませんでした。

診査・診断には、資料採得がスタートラインです。問診、口腔内診査に始まり、口腔内写真、各種レントゲン(パノラマ、デンタル14枚法、セファロ{正面、側方}、CT)、歯周組織検査、顎運動記録、診断用模型作製、フェイスボウトランスファーによるCOとCRでの咬合器へのマウントなどが必要です。

特に、CO(中心咬合位)とCR(中心位)とのずれが大きい場合、円滑な下顎運動に影響を及ぼしているかの模型診査が非常に重要になります。

図B、C、Dを一見すれば、臼歯部のバーティカルストップが失われ、明らかに、咬合高径が低下していることが窺えます。どうしてこのように上下歯牙の全顎的な崩壊が起こってしまったのか?を、診査データや歯科的既往歴から推察し、治療目標、予後判定に反映していくことが求められます。

高齢ではないこの患者さんが、坂道を転げるように口腔環境が悪化していった原因は本当にご本人の問題なのであろうか?

この患者さんは最近まで、2週間に1度歯科医院へ通院されていました。図EのデンタルX線から、根管治療の不備による根尖病巣が多数歯に認められました。装着されていた補綴物は、全て不適合でした。

40代前半の男性、非喫煙者で全身的なリスクはない方で、歯周組織的には、軽度慢性歯周症と診断されました。ブラッシングは朝晩行っており、プラークコントロールは良好でした。

A

B

C

D

E

図Fの顎運動記録では、右側作業側での動きが悪く、咬合平面の彎曲化や特定の歯牙による側方運動時の咬合干渉により、臼歯部(特に右側)での咀嚼が困難で咬合不全を引き起こしていると推察されました。正面観にて顔貌が左側へ約3㎜偏位していました。

図GがICP(咬頭嵌合位)での咬合器へのマウント状態です。顆路傾斜に比較し、ガイド歯牙の歯種・誘導面傾斜角の問題から臼歯部のディスクルージョン(離開)が適切にされない状態のため、前方位での前咬み状態になっていました。

図Hは、咬合挙上してCR(中心位)マウントした状態です。咬合器上で、診断用ワックスアップを行い、平均値に近いアンテリアガイダンスを付与します。また、前歯部の歯肉ラインを審美を考慮しシンメトリーにした場合の、不足している軟組織のボリュームを測定します。こうして、初診時の歯冠補綴物と目標とする修復物の形態とのずれを歯科技工士とともに協議し、実際の治療に反映していきます。

セファロレントゲンからフェイシャルタイプは、FMA=28°と軽度ブラキオタイプ(短顔型)であたっため、若干のバイト挙上は問題なしと判断しました。許容される咬合高径の範囲は、開閉口時の上下唇の接触状態からも判断基準にします。

図Iが上下の咬合面観の初診時(上図)と目標とする歯列弓・歯牙のポジション(下図)との比較になります。

F

G

H

I

側貌やセファロX線、正面顔貌・スマイルなどから、上顎切歯部の前後的・上下的のインサイザルエッジラインを決定します。この方の場合、本人の意向も汲み取りながら協議の上、初診時より若干前方へ位置するこことしました。

さまざまな問題点の解決法を具現化し、プロビジョナルレストレーションへ反映し装着・調整していくことが治療中必要となります。歯科医の不適切な治療介入により理想的な歯牙のポジションや形態、咬合様式が全く不明なため、エンドやぺリオの治療を進めていきつつ、プロビの改変を繰り返し行います。非常に時間のかかる工程です。

図Jは、上顎前歯部の根尖部の病巣をCTで診査しているところです。CTの唇舌的なセクション像では、骨の吸収エリアや拡がりの程度が鮮明に判定できます。

支持骨が歯根全周に渡って失われている保存がどうしても困難であった歯牙1本(左上2)は抜歯させて頂きましたが、その他の歯牙は外科的歯内療法にて対応して保存的治療を試みることとしました。

図Kが、治療開始6カ月目のエンド・ぺリオの治療と平行して欠損部へのインプラント埋入により、臼歯部での咬合高径が確立しつつある状況です。臼歯部でのバーティカルストップが整備されることにより、下顎位の安定、円滑な咀嚼運動が行えるようになり、患者さんからは毎日の食事がおいしいとの評価を頂けるようになりました。

図Lの上段2枚が治療前、下段2枚が治療開始9ヶ月目のプロビの状態です。両側臼歯部での咬合関係の獲得によりセントリックストップが安定してきました。この時点で、食生活には全く不自由がないとの感想を頂きました。

その後、左上23部への軟組織の移植により審美ゾーンの歯肉ラインのシンメトリー化、及びプロビにてガイドティースの微調整後最終補綴に移行しました。

J

K

L

ODC例会では、会員とともに個々の診査項目の着目点や治療プランに反映するための留意点について活発なディスカッションを行いました。

診査・診断に重きを置いた診療システムを、是非このページを読んでいる歯科医には、自医院に取り入れてほしいと思います。

私たち歯科医は、”治療を通じて患者さんを幸せにすることが使命である!”ことに異論がある同業者はいないはずである。
治療後に治療した歯が長持ちするためには、良質な治療行為を行えるすべ(知識・技術・経験)を高い次元で持つことが求められる時代である。そして、少なくとも同業の歯科医が診て、明らかに医原性の疾患、と思われる状態は決してつくってはならない。

そのためには、あらゆる分野のスキルアップへの自己研鑽は、全ての歯科医に最優先で行ってほしいし、患者さんを診る以上は、当然行うべき義務でもある。

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