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第102回 総合治療医の真髄①・・・一症例入魂

上図の口腔内写真(正面観)は、当クリニック初診時の66才の女性である。赤丸の歯牙(右上2番)の咬合痛(咬んだ時痛い)を主訴に来院された。レントゲン診査の結果、当該歯牙は垂直的に破折していて、保存不可能な状態であった。

しかし、この患者さんの場合、この歯牙の破折は大局的(一口腔全体の治療を行うことを想定する)な見地から言うと、実はとても小さな問題である。もし、抜歯してこの部位へすぐにインプラント治療を行う、という発想をもつ歯科医がいたとしたら、全く歯科臨床の本質を理解していないと断言できる。ところが、実際に前医では、右上2番部位へのインプラント治療の提案のみがなされていた。

赤丸の歯牙が破折した原因を考察することが出発点であることは当然であるが、この患者さんの場合、口腔全体の咬合(咬み合わせ)があまりにも多くの問題を秘めていることを認識しておく必要がある。

そして、歯科医による治療介入後、長期に渡って良好な経過を保てる歯列全体の保全を念頭においた治療計画を立てていかなければいけない。

上図の6枚の口腔内写真の方もそうであるが、のここ1,2年セカンド・オピニオン(別の歯科医の意見を聞く)を求めてさまざまな症状を抱えた患者さんが相談に来られる。情報は得やすいが、本当に正しい情報は何か、判断するのが難しい時代です。
前医による適切とは言い難い治療によってとても複雑な歯科的既往歴を携えている方がほとんどです。歯医者不信に陥っている方も多く、メンタルのケアからのスタートになります。

1)非抜歯による矯正治療で明らかに上下顎前突になってゴリラ顔に変わっってしまったとの訴え
2)何百万円もかけて上下全顎的な治療が施されているが、咬合理論を無視した術者主導のかみ
   合わせのため全く噛めない、毎日”おかゆ生活”であるという訴え
3)セラミックによる補綴(被せ)が広範囲に行われているが、不適合なのため、歯周組織の炎症
   (腫れ・発赤・出血など)が全く改善されないとの訴え

などコミュニケーション不足とは次元の違う医療人としての”モラル”を疑ってしまう場面に遭遇する機会が多い。

数年前まで、医療サイドには、患者さんに対し”インフォームドコンセント(説明と同意)”が重要と叫ばれていた。しかし、この言葉は、術者主導であり、一方的に患者サイドにある治療法のみの説明をし、同意を求めている場合がほとんどではなかろうか?

実は、今ではインフォームドコンセントより一歩進んだ”患者本位・患者主導”の“インフォームドセレクション”が必要であり重要と言われるようになってきた。つまり、基礎資料を採得して、診査・診断の後、あらゆる治療選択肢を全て提示し、医療サイド、患者サイド双方で治療法を模索した上で治療法を決定し、その上で治療介入し、その結果においても双方で責任を負う、という発想である。

ここで問題になってくるのが、”あらゆる治療選択肢を平等に提示する!”という部分である。私が目指している”高度かかりつけ総合歯科医”と共通する部分である。

どんな治療法にもメリット・デメリットがある。医療人として常に100点を目指すのか?80点を目指した場合には患者と歯科医双方がお互いどんなリスクを背負わなければいけないのか?MI(Minimal Intervation:低浸襲)は全てに優先される事項なのか?患者の要望は治療上の最優先ファクターなのか?

多角的な視野に立って始めて多くの問題点を冷静に、そして客観的に観察・判断することが可能となります。この症例を通じてこの辺りについて考察してみたいと思う。

繰り返しになるが、上図6枚(正面、側方拡大、左右側方、上下咬合面)の方は66才の女性である。主訴は”右上2番の咬合痛”である。また、左右共に奥歯で咬むことができない!ことも訴えられていた。なぜ右上2番は垂直的に歯根破折したのか?紐解いていかなければいけない。


図Aが初診時のパノラマレントゲン写真である。上顎歯牙の下面を連ねた平面(黄色ライン)と下顎歯牙の上面を連ねた平面(赤ライン)が全く異なっている。それ以前に波のごとくうねった湾曲化していることが問題である。

このように咬合平面が湾曲化している場合、適正なアンテリアガイダンス(歯牙による前方・側方誘導)が付与されておらず、さまざまな部位に咬合干渉を起こし、正常な咀嚼機能は全く行えない。

咬合異常があるにも拘らず、この咬合関係のまま多数の補綴物が装着されていた。

図Bの黄色の歯牙の歯根破折は、成るべくして起こった事態と推察できる。

図Cの赤丸の右側上下の犬歯関係が上下逆(反対咬合)である。本来、犬歯は偏心運動時に参加させることが基本となる。

図D(前歯部分の横からのアップ)のように、上下の前歯エリアは非常に深い咬み合わせ(Over jet が大きいという)である。下顎の前方・側方運動時に非常に強い接触を受ける。図Eのように右上側切歯はダメージを受けるべくして受け、破折したのである。

図Fが初診時の上顎咬合面観である。図Gの黄色丸の場所には本来1本の歯牙があったのである。初診時は2㎜程のスペースしか存在しなかった。また、図Gの赤ラインのカーブのように、上顎の歯列弓の理想的な形態は、半円形でなけらばいけない

つまり、治療方針としては、上下顎の歯牙のポジショニング(位置)があまりにも不正であるため、治療の初期段階で是正した上で、治療咬合を模索していくことになる。

図Hが上顎ににのみワイヤーを装着し矯正を開始し、4か月が経過したところである。図Gと比べると図Iでは、歯列弓の形態が半円形に近似し、上顎右側4番相当部に元々あったスペースが確保されつつあることに注目して頂きたい。

図J(初診時)に比較し、図K(4ヶ月後)には、赤丸の犬歯関係が正常被蓋に回復し、ディープバイト(咬み合わせが深い)も改善傾向にあることが観察できる。

前歯部の下方からのアップでは、図L(初診時)に比較し図M(4ヶ月後)には、前歯部のアンテリアガイダンスのロック状態が解放されつつあることも見て取れる。

下顎咬合面観では、図N(初診時)に比較し、図O(4ヶ月後)では、上顎歯牙の矯正治療による歯牙移動に合わせて、左右臼歯部のプロビジョナルレストレーションを改変していく工程が必要になってくる。

尚、左下8番(親知らず)に関しては抜歯し、左下67へデンタルインプラントを埋入している。この後、このインプラントを固定源にして下顎平面のフラット化を図る工程に移行する。

図P(初診時)で上顎歯牙を連ねた平面である黄色ラインが彎曲して波打っているのに対して、上顎の矯正治療を行った図Q(治療開始4か月)の黄色ラインはスムーズな彎曲に改善されている。また、歯軸も平行に整列しつつあることが観察できる。

そして、図Qの赤四角の場所に元々存在していた1本分の歯牙のスペースを獲得することにより、適切な咬合治療、補綴治療、下顎運動が行える環境が整ってきたことも見て取れる。

上顎の矯正治療(レベリング、アライメント)と平行して、下顎歯牙の不適合な補綴物(被せ)を除去してプロビジョナルレストレーション(仮歯)に変更していった。

図Rの黄色四角2か所と赤四角2か所にインプラントを埋入し、適正な咬合平面へと誘導するための固定源とする。

図R赤四角の2本のデンタルインプラントが不動固定として下顎歯列の矯正治療に有効に働いてくれることは言うまでもない。

咬合の問題を、補綴前処置として矯正治療にて初期の段階である程度改善させることは、基本治療の一環として捉える必要がある。

この後の治療経過については次回お話します。

各歯牙の歯軸を平行に再配列することも重要で、歯冠補綴した歯牙が将来歯根破折することの防止にも役立つ。治療後の永続性の観点から歯のポジショニングは非常に重要である。

もちろん、エンド(根管治療)・ぺリオ(歯周治療)のコントロール下で行うことが前提となる。そして、中高年の方の支持組織の問題点や歯牙移動時の注意事項に関する造詣が必須であることも追補しておきたい。、

冒頭にお話しましたが、適切な治療が行われないまま歯科治療歴を重ねることは、全ての歯牙を失う道を着実に辿っていることに他ならないのです。ブリッジ→部分入れ歯→総入れ歯へと坂道を転げ落ちていき、最終的には全ての歯牙を失ってしまいます。

私たち歯科医は、なぜその歯牙が保存不可能な状態に至ったのか?一口腔としての問題点を抽出し、総合的に治療方針を計画しなければいけない。歯科医による治療介入により、残存歯牙が欠損への道を辿ることを食い止めなければいけない。

低品質な治療による歯科既往歴のため病態が複雑化している方が多い中、丸投げ分野を持たない総合治療医(歯科の全ての分野に精通していること)が求められる時代と言えるのではなかろうか!

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