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第98回 歯牙の保存、天然歯を活かすために!・・・②

今回は50枚の写真、図を使用してお話してみたいと思います。

私たち臨床家が、毎日の診療の中で最も留意しなければいけないことは、”歯牙の保存への取組み、こだわり”である。

”歯牙を抜歯せずに如何にして保存し、軟組織・硬組織ともに良い環境を整え長期的に機能する状態を維持させるか?”が、最も歯科医の力量が試される重要事項であると声を大にして言いたい。

戦略的抜歯という名の下、安易な抜歯を行い欠損部へのインプラント治療は必ずしも好結果が持続されるという保証は全くないことは、経験を積むほどに実感する。

閉塞感漂う歯科業界ではあるが、歯科医による治療介入の原点の発想に立ち返って、天然歯を残すことへの努力に精魂を費やしてみてはどうだろうか?

A

B

上の図Aの女性の患者さんは、当クリニック来院の初診時、28才であった。図Bが等クリニックでの治療終了後3年経過時の口腔内の正面観である。

図Aのように修復物(被せや詰め物)が多数装着されているが、全て不適合で、歯肉と歯の境から歯根方向の歯肉の中へカリエス(虫歯)が進行している状態でした。前医の診断では、左上の3本は抜歯してインプラントを提案されていました。抜歯はしたくないとの本人の強い要望をお持ちでした。

”本当に抜歯する以外方法はないのか?”さまざまな角度から診査し、生物学的なルールにのっとり治療計画を立案します。

歯科臨床の4本柱である「保存、補綴、外科、矯正」をバランス良くコンビネーションしながら、抜歯は1本も行わず治療を進めていきました。

具体的には、歯周初期治療を行った後、上下全顎的な確定的外科処置(臨床的歯冠長延長術の前に矯正的挺出を左上犬歯に行いました。
歯周外科処置後の歯肉の成熟期間中にプロビジョナルレストレーション(仮歯)の改変を重ね補綴物の最終形態や咬合関係を模索・構築していきます。上図の一番下段の3枚は修正を繰り返している最中のプロビです。

図Cが上顎の不適合な被せを除去した状態の咬合面観です。歯肉縁下への虫歯が進行し、歯肉の発赤が全体的に観察できます。

被せの再作製をいきなり行っても歯科医、患者さん双方にとってに満足の得られる結果には絶対になりません。病的な歯周組織の環境を正常化することをまず行わなければいけません。

図C赤丸の3本の歯牙に関しては前医にて保存はできないので抜歯してインプラントにするとの前医の提案でした。果たして保存することは不可能なのでしょうか?

図Dが最終補綴物(被せ)を装着する前の、印象採得時の上顎咬合面観です。歯の周囲の歯周組織(歯肉)が健全なピンク色の色調に回復しているのがわかります。この歯周環境を整える治療を施すことがとても重要なことです。

単に虫歯を取り除いたのではこのような環境にはなりません。歯科臨床を行う上ではいくつかのルールがあります。先人の歯科医が築き上げてきたエビデンスにのっとり、一つ一つ確実にベーシックな基本治療を丁寧に行っていきます。

Dentogingival complexという言葉があります。歯槽骨・セメントーエナメル境・歯肉縁の3者を複合体として捉え、歯と歯周組織の関係を常に意識した処置を行う必要があります。

歯周組織の恒常性についての理解も必要です。Total biologic width の概念を念頭において処置することも求められます。

図Eが最終補綴物を装着して3年を経過した上顎の咬合面観です。審美面を配慮して生物学、構造学に立脚した機能的な咬合面形態を付与します。

Longivety(長期安定性)への配慮は、臨床家が最も留意すべき項目のひとつです。丁寧に仕事をするよう心がけることが求められます。

C

D

E

具体的にどのような治療を行ったかをお話します。図Fの真ん中の歯が左上3番(犬歯)になります。図Gのように3本連続して残根状態ですが、歯牙の保存のために、最終的な被せを作製する前に2つの前処置を行いました。

図H、Iのように”矯正的挺出”という手法で、歯肉から歯を引っ張り出します。残根状態の根管内へワイヤーを仮着し、主線へ向かってエラスティック(ゴム)を調整しながらゆっくりと矯正力をかけていきます。

健全な歯質(象牙質)が歯肉縁から全周1.5~2.0㎜上方に出ることを目標にします。

図Jが中央の歯牙を矯正装置により挺出を行った時の治療経過のX線像の変化です。約3か月かけて行いました。

根管内のワイヤーが徐々にメインワイヤーに近づいていき、最終的には接触していることが観察できます。約4㎜の挺出が行えました。

その後、目的とした方向、移動距離かを確認した上で、後戻り防止の保定(約3カ月))を行いました。

F

G

H

I

J

矯正的挺出後、図Kのように”臨床的歯冠長延長術”と呼ばれている歯周外科処置を上顎歯牙全体に行いました。付着歯肉を減じないようコンビネーションフラップ(全層+部分層)で歯根側へ歯肉を移動させます。

APF(apical position flap)での歯周外科時の注意点としては、最終的な歯肉ラインを意識した歯槽骨整形・削除を行うことです。

また内縁上皮の厚みの調整、1~3次切開の設定位置なども部位別に繊細な配慮が必要となります。上顎前歯部の審美ゾーンは術前のモックアップを基に、確固たる基準にのっとっての手技が要求されます。

”肉を切らせて骨を造る”という私の歯周外科の師の言葉があります。歯肉・歯槽骨の処理は経験が必要なとても繊細な領域といつも感じます。

図L、Mが左上345エリアのAPF直後の唇側面観、咬合面観です。フェルール獲得が主目的となります。最終補綴物の設計は、プロビジョナルレストレーションの修正を繰り返して治療中に何度も変更することになります。

K

L

M

図Nが歯周組織の安定を図った後に支台歯へのファイバーでのコアアップ(支台築造)を行い、グロスのプレパレーション(慨形成)を行ったところです。

各歯牙の全周に2㎜以上のフェルールが獲得できていることが最も重要な点です。

繰り返しになりますが、図Oが治療前の上顎前歯部の正面観のアップです。全ての歯牙に歯肉縁からの2次カリエスが見られます。医原性が疑われる低品質な補綴処置の罪と言えます。

確固とした治療計画の下、丁寧な精密な治療を心がけなければ好結果は得られません。「保存・外科・矯正・補綴」の4つの分野がバランスよく行えることが求められるのです。

図Pが治療後3年です。左上3番の歯肉にわずかに歯肉の発赤が見られます。ブラッシング指導により改善されました。

補綴物の適合には問題なく、歯肉の退縮(リセッション)は見られず、良好な状態が持続されています。

私たち歯科医は、難しい状況の病態、状態になった場合ほど一つ一つのステップを丁寧に行うこと、こだわることが求められます。歯科臨床に正解はなく、悩ましい面もあります。時間と手間をかけないと、良質な歯科医療は行えない場合が多々あることを十分説明しなければいけないと感じます。

だからこそ、真摯にそして真剣に治療を行わなければいけないと、日々痛感します。

N

O

P

次のケースは、前医のリカバリーケースといえる症例です。京都在住の18才の女性です。主訴は歯肉からの出血ですが、何本かの挿し歯が1年も絶たずにすぐ取れることへの担当医への不信感も訴えていました。姑息的な処置では根本的な問題は解決しません。原因に対する対策をしっかり行うことにより、Longivety(長期安定性)という命題への回答に結びつきます。


図Qが初診時の正面観です。上下顎ともに歯と歯肉の境である歯肉縁が全体に腫脹していて、不適合な修復物、補綴物が多数存在していました。

若年者で全身的な基礎疾患がないことから、局所的な因子による炎症症状であると判明しました。

図R(上顎咬合面観)、図S(下顎咬合面観)で、右上5、右下4は残根状態で保存不可能なほど歯肉縁下深くに虫歯(カリエス)が進行していました。前医には、さらにあと3本の歯の抜歯を告げられていました。

若年者であることも考え、不可逆的な治療である抜歯を極力せずに治療したいことを伝え、幾つかの治療計画を提案させて頂きました。

図Tは上顎6前歯を拡大したところです。歯と歯の隣接面の充填物が全く適合しておらず、歯間乳頭部(歯と歯の間に入り込んでいる歯肉)が高度に腫脹している所見が見て取れます。

患者さんのプラークコントロールが悪いことが問題ではなく、誰の目にも粗悪な低品質な治療による歯科医の作った歯周炎という様相を呈していました。

この患者さんのように多数歯を補綴している場合、顎位の診査(CO、CR、ICPのずれ)は必須となります。

咬合関係、前方・側方時のガイドティースが適切か?ディスクルージョンの良否?などを評価します。

Q

R

S

T

初診時の図U(右側側方面観)、図V(右側作業側時)で、犬歯ガイドの誘導面傾斜角度が顆路傾斜に比較し強すぎること、また図W(左側側方面観)、図X(左側作業時)においては側切歯が参加しておりガイドティースの歯種や与え方自体の問題が顕著で、適切な顎運動が阻害され、咬合干渉が何箇所かに存在する状態でした。

上下全顎的な咬合再構成を行う際、顎位の問題(COとCRのずれ)は初診時に十分に診査しておくことはルーテーンとして必要です。

U

V

W

X

そして、正面セファロ(図Y)側方セファロ(図Z)で上下顎骨の頭蓋骨に対しての骨格的なずれ、アンバランスにも言及しておき、改善すべき点及び目標とする治療咬合についてプランニングしておくことが求められます。

例を挙げますと、図①は、初診時の右上臼歯部(3~6)のレントゲン像です。右上5番の残根歯は骨縁下約4㎜まで虫歯が進行していて、残念ながら保存することが不可能な状態でした。

該当歯は根管治療がされておらず、不適切な支台築造がなされていたことは明白でした。

注目すべきは、同じ部位である図②の3か所の赤丸の個所です。被せと歯質との境界部分が全く合っていません。

このまま放置すると右上5番と同じ運命(近い将来抜歯となる)になってしまいます。補綴(被せ)はセラミック系の保険適応外の材料が使用されていました。

また、右上4番は根管治療が全くされていない状態でセラミックによる補綴物が装着されていました。

補綴物に良質な材料を使用するのなら、当然基礎工事である根管治療や歯周環境を高品質に行い、支台歯の形成にも十分な配慮が必要なはずです。

トータルでの品質の高さは、各ステップを高品質で行ってその積み上げでのみ成り立つはずです。

もっと言えば、セラミックを使用したからと言って高品質な治療が行えるのではないです。

Y

Z

図③、④のように、歯周初期治療が終了してから再評価した後、”臨床的歯冠長延長術”を施術し、健全象牙質を歯肉縁上へ出すフラップサージェリーが求められます。若年者であることも考慮し、歯間乳頭部の歯肉を温存するよう切開を工夫します。

図⑤が歯周外科処置3ヶ月後の状態です。健全な象牙質が歯肉縁上に設定されると、若年者程生体の反応は顕著に良い方向に向かいます。

プラークコントロールも適切に行えるようになり、歯肉は引き締まった正常な状態になるのにそんなに時間はかかりません。

図⑥は左上3(犬歯)唇側面を拡大視野であるマイクロスコープ(16倍)下にて窩洞形成が終了したところです。図⑦は右下23間の窩洞形成をマイクロスコープ下(16倍)で行う直前の状態です。如何に歯間部の充填方法に問題があるかが見て取れます。

図⑧、⑨はマイクロスコープ下でカリエスを除去中ですが、拡大視野であるマイクロスコープ下での治療は非常に精度よく精密な治療が行えます。高品質を求めるためには必須の医療機器といえます。

図⑩は、レジン充填終了後の状態です。丁寧に精密な治療を心掛けることにより精度が上がります。そして、歯周組織も適切に反応し、健康な歯肉に賦活されます。

臼歯部については前歯部の処置と平行して図⑪、⑫のようにバーティカルストップの確立を行いつつ、咬合面形態をプロビジョナルレストレーションに付与していきます。

図⑬のように、治療中の各ステップごとで歯牙に誘導されないCR(中心位)を採得して咬合器へのリマウントを繰り返し、CO(中心咬合位)とのずれを最小限にする補綴形態を探していきます。

歯科医により与えられた不適切な病的咬合を改善するためには、試行錯誤と生体の反応を待つ期間が必要です。

図⑭は最終補綴物を装着したところです。歯周初期治療に始まり、根管治療、歯周外科処置、欠損部へのインプラント埋入、プロビジョナルレストレーションの改変を繰り返し最終補綴物の装着へとたどり着きます。

近道、ましてや魔法のような簡単に結果を出す方法はありません。地味なようですが、基本的治療を高いレベルで丁寧に繰り返すことが良い結果に到達します。

図⑮が治療後のパノラマX線像です。インプラントは残存歯牙を守るために最小限の埋入(3本)に留めています。支台歯に問題のない左下臼歯部の欠損部は、ブリッジの再製にて対応しています。

一番重要なのは、補綴方法や補綴材料ではなく、歯周組織を健全な状態に改善させ、適合の良い補綴物を作製すること、そして適切な咬合様式・咬合面形態・上下顎咬合面の接触状態を付与することにつきます。

さまざまな新しい材料やテクニックが考案されようとも、守らなければいけない基本的なルールは20数年前から何ら変わっていません。地に足のついた歯科臨床を心がけることが、良質な治療結果への近道と考えます。

全ての歯科医は、”歯牙保存への取り組み、天然歯を守ることへ努力を惜しまないでほしい”と思います。。そのためにできることは何か?自身に足らないスキルは何か?いつも考えて仕事に臨んで頂きたい。もちろん私自身も毎日が勉強で、歯牙保存への取り組みを試行錯誤している。

安・近・単(安い・近道・簡単)は必ずしも医療には当てはまりません。
歯科メーカー主導で新しい器材・材料が毎日のように販売されているが、歯科臨床の上達には、”ベーシックスキルの反復学習により精度を高い次元に上げることに尽きる!”、と最近頓に感じるのは私だけであろうか?

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