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第70回 ”最先端”の前に”最前線”でありたい!

この4月(2007年度)より、大学病院へ原則週一回勉強に出向いている。毎週は難しいのだが、できるだけ時間を作るようにしている。

主に、障害者の方の静脈鎮静下での治療や、オペ室での全身麻酔の流れ、いろいろな外科処置の知識、スキルの習得のためである。

自身で開業すると、どうしても日々の診療に追われ、バリエーションに富んだ臨床の現場に直接出会う機会がめっきり減ってしまう。
チーム医療で臨んでいる現場に、継続的に触れる機会に接することにより、単に刺激を受けるということより、自身、自クリニックで行えること、改善点などの多くのヒントが浮かび上がってくる。

私は補綴科(入れ歯や被せを扱う科)に在籍していたのだが、歯学生の多くは、卒後、どこかの医局に残って、単科の専門知識、技術を習得する。
しかし、私もそうだったように、通常一箇所の医局に何年かいた後に、開業準備、開業へと突き進む。

一つの科目については、それなりに自信がつくが、その他の分野については、素人同然である。自己流、独学を繰り返しながら、その他の分野のスキル向上を図るという図式になる。

タイトルにあるように、開業医にとっては、日々接する患者さんとの真剣勝負からたくさんの教えを請うし、苦悩もする。毎日が最前線である。そこから得られることが、私自身を最も成長させてくれる。

最新、最先端の医療機器、医療技術を取り入れていくことは確かに大切な事であるし、当クリニックでも積極的な取り組みを行っている。
しかし、そのことによって、全てが解決する、最良の歯科医療が行えている、というのは、歯医者の驕り(おごり)以外の何者でもない。


実は、現場(患者さんの口腔内)での変化を、どこまで見落とさず、どこまで把握しているのか?そして、次の一手を如何に的確に打てるかが、一番問われているはずである。診査、診断に全精力をつぎ込み、毎回の来院時に起こっている口腔内の変化の原因、対処法を、自身の全科の知識を総動員して決定する。

”最前線を診る目!が如何に大切か?”つい先日、本当にびっくりする出来事がありました。
当クリニックで矯正治療だった方なのですが、仕事の関係で、ご家族全員でオーストラリアへ渡航のため一時治療を中断し、1年ぶりに当クリニックへ来院されました。


図A,Bが治療前の正面観、上顎咬合面です。
渡航直前は、治療の中盤戦でした。重度の叢生でしたので、抜歯しての矯正で、抜歯スペースを閉じている時期でした。本来なら装置をはずしたくないのですが、1年ブランクが空くとの理由で、患者さんと相談の上、一度装置を全て除去することにしました。

図C,Dが渡航直前の状態です。
私が一番危惧していたのは、咬合(かみ合わせ)です。とても不安定な状態でした。口腔周囲の筋肉や顎関節への悪影響を懸念しました。
いろいろ思い悩んだ末、歯牙の位置を変えないための装置(保定装置という)に、一工夫も二工夫もしました。

透明な可撤式装置をご希望でしたので、原型はインディビジュアルリテーナー(透明な馬蹄形の可撤式装置)なのですが、非常にフレキシブル(可動性のある状態)にしました。

A

B

C

D

教科書的には、リジッド(しっかりと固定させる)にすると書かれています。全てのエリアをルーズにつくるのではなく、前歯の切端はしっかりサポートさせ、歯頚部にかけてだんだんルーズにし、臼歯部に関しては、頬舌側のサポートのみで、バーティカル(垂直的)にはルーズな形状としました。もちろん自分で作製しました。私の経験値に裏打ちされたものです。

上の図E,Fが一時帰国時のつい先日の口腔内です。大臼歯はしっかりと、犬歯、小臼歯辺りも、かなり咬合してきていました。
1年ぶりの患者さんの第一声は、”先生、もうこの歯並びでいいんじゃないですか。満足してます。奥歯もしっかり咬めるし、かみ合わせは悪くないですよ!”でした。

E

F

口腔内を診てみますと、1年前とは比べものにならにくらい、しっかりとした咬合が確立されていました。1本1本の歯牙の傾きは理想的とは言い難いのですが、奥歯の上下の接触状態は、治療中断時(図C,D)とは比べものにならないくらいしっかりしたかみ合わせになっていました。

抜歯スペースもほとんど閉じており、機能的には全く問題ない状態でした。24本の歯牙にもう一度ブラケットをつけて、1年近く微細な歯牙移動を施す必要があるのか?その必然性は?自問自答しました。

機能と審美、どちらが優先されるか?と問われれば、患者さんとしては”審美”であろうし、歯科医としては、”機能です!”という答えになる。歯科専門誌には、”機能をともなった審美的な仕上がりを追求せよ!”という言葉がよく使われているが、機能的とは、100人100通り存在するのではないか?と最近考えるようになってきた。人の手(歯科医)が加われば加わるほど、機能的なゴールへは遠のいていっているのではないか?とも考えてしまう。

今回の方の場合、矯正治療途中にも拘らず、非常にフレキシブルな装置しか入れなかったことにより、口腔周囲組織との最もバランスの取れた位置へ歯牙が移動していったと考えられる。時代の先駆者たちは、歯牙の位置はこうあるべきだ!とか、各歯牙の傾き、咬合はこの位置が一番安定するのだ!とかさも論理的に語ってきたが、実際、歯牙は一生かけて矯正治療するしないに拘らず動き続けるのである。

理想と言われる審美的なゴールは時代とともに変化する。機能的な調和、ゴールは、口腔環境やライフスタイルなどによって、刻々と変化し続けるのである。

”最小限の人の手しか加えないようにする”、という選択肢も、治療の一法かと考えることがある。歯科医が勝手に考えるゴール、自己満足、歯科医のエゴのために治療を長引かせたり、浸襲の多い処置や手術を何回も行うことは、絶対避けなければいけない、と今回のケースで教えて頂きました。

最低でも来年春まで、オーストラリアから帰国できないとのことで、新しい保定装置を作製しお渡ししました。もちろん私なりに一工夫加えています。
約1年後、Mさんの歯並び、咬みあわせがどうなっているか?、もちろんご本人とお会いし、オーストラリアのでの生活の裏話を聞くのもとても楽しみにしています。

Mさんから、下記のお土産を頂きました。幼児向きの英単語習得(反対語)用の掲示板だそうです。凹凸あり、カラフルな色使い、早速キッズルームに掲示させて頂きました。子供たちにとても好評です。有難うございます。オーストラリアの歯科事情についても、在住者ならではの視点での話、興味深く聞かせて頂きました。

歯科医ができることなんてたかが知れている。現場(最前線)、患者さんから多くの事を学ぶ姿勢、そこから経験することをフィードバックして、次の診療、次の患者さんの治療に活かす、このスタンスこそ、患者本位、患者主導の治療を行うための原点という気がする。

そして、低浸襲でシンプル、形態よりも機能を重視した生体に優しい治療を心がけたいと思うこの頃である。

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