第23回 外科矯正って???・・・①
矯正治療を行う場合、歯の移動だけでは良好な結果が得られない症例があります。
顎が大きく左右どちらかにずれている場合や、上下の顎の成長のアンバランス大きい場合です。今回は、主に顎の成長の終わった成人の方に行う外科矯正について、お話してみたいと思います。
成人の方の矯正治療が増加している理由として、”美意識の向上”という今日の社会的な環境の変化が、一番の要因と考えられます。年齢を問わず、美しくなりたい、口元もきれいにしたい、という願望を持った人が急速に増えてきたからだと思います。
最近の矯正治療の治療法の進歩には、目を見張るものがあります。上記の記事のように、多くの症例が非抜歯で行えるようになったことや、インプラントや外科を利用すれば、治療期間の大幅な短縮も可能になってきました。
しかし、その一方、成人矯正特有の問題点や注意すべきことがあるのも否めません。その辺りについて少し触れてみたいと思います。
外科矯正治療が必要な症例で、一番多いのは、図Aのような反対咬合(受け口)の方です。外科処置を併用した矯正処置により、図Bのように治療することが可能です。
では、実際の治療がどのように行われるのかについてですが、図Cは、術前の反対咬合のイラストです。
上顎を前方へ、下顎を後方へ移動させます。上顎を前方へ動かす場合、上顎骨の上方部に横切開を加え、前下方に移動させてから図DのようにL型やT型のプレートで固定します。下顎については、後方へ動かすために、図Cの斜線部分を削除してスライドさせます。
A
B
C
D
図Eが術中の口腔内の正面観で、横切開により隙間を作って、図Fのようにプレートで固定します。外科処置により顎を正常な位置にスライドした位置で、上下の歯をしっかり固定(顎間固定という)をすることが重要です。
図Gが術前矯正が終了したところです。上顎の歯、下顎の歯を別々に理想的なアーチに並べます。図Hが外科が終了したところです。術後矯正によって、上下の歯が緊密にかみ合うように微調整します。術前矯正、外科、術後矯正の3段構えで行います。
E
F
G
H
次に、下顎を後方へ移動させる手術法にはいくつかあるのですが、一番よく行われるのは、図Iのように、一部分を骨片として除去した後に、図Jのように下顎骨前方部分を後方へ移動させます。
外科処置は、上顎または下顎のみ行う場合と、上下顎両方行う場合とあります。反対咬合の場合は、下顎のみ行うことが多いです。
I
J
図Kが治療前、図Lが治療後の顔貌です。反対咬合の改善はもちろんですが、顔面高(顔の上下的な長さ)が長くなり、標準的な顔立ちになったのがよくわかると思います。歯の移動だけでの矯正では、ここまで顔貌の改善は望めません。
別の外科矯正の症例ですが、図Mが治療前、図Nが治療後です。重度の反対咬合、というのは、歯列不正の中でも一番本人だけでなく周囲の人にわかるため、顔貌の劇的な改善を治療計画の中に組み込む必要があります。
コンプレックスをもった方も多いため、十分にインフォームドコンセントを行った上で、外科を含めた治療方針も一案として提案することになります。私の場合、成人の方の反対咬合の場合は、外科を行った場合とそうでない場合の治療前、治療後の顔貌の変化をコンピューター上でシュミレートして、何通りか治療方法の提案するようにしています。
今回は、外科矯正の頻度の一番高い反対咬合の治療方法のほんの入り口について、触れてみました。外科矯正の適応症としては、反対咬合のほかに、顎変形症(顎が左右どちらかに大きく変位している)が挙げられます。上下の顎の前後的または左右的ずれに対して行われることが大半でした。
ところが、最近では、成人の骨格性の開咬(上下の前歯がかみ合っていない)に対して、積極的に外科矯正を行う歯科医が増えています。その理由としては、歯の移動による矯正では、後戻りが非常に起きやすいからです。当医院のサイトにも、開咬治療後2、3年で後戻りをした、という相談が最近ありました。当医院へ矯正相談で来院される患者さんの中にも多数います。
外科処置を併用した矯正を行えば、後戻りが起きにくいです。顎の骨切りまでしなくても、部分的なコルチコトミー(詳細については、歯並びの話のページ第12回を参照)をすれば非常に効果的です。当医院の場合、入院の必要な外科処置については、口腔外科医と連携して行っていますが、歯槽部の骨切り等外来で行える処置については、自医院で可能な体制をとっています。
次回からは、反対咬合以外の歯列不正に対する外科矯正の治療例や、骨の延長術、頤(オトガイ)部の外科処置による顔貌の改善方法等について触れてみる予定です。