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第22回 大人でも増えている歯科矯正!

 今回は、朝日新聞(2003/5/5)の記事を題材に話を進めてみたいと思います。

成人の矯正治療というと、一昔前まではほとんどどこの医院でも行われていませんでしたが、器具、材料やテクニックの進歩に伴い需要の増加とも相まって急速に増えてきました。
当医院でも、矯正治療患者の約3割は成人です。まずは、下記の記事をご覧ください。

成人の方の矯正治療が増加している理由として、”美意識の向上”という今日の社会的な環境の変化が、一番の要因と考えられます。年齢を問わず、美しくなりたい、口元もきれいにしたい、という願望を持った人が急速に増えてきたからだと思います。

 最近の矯正治療の治療法の進歩には、目を見張るものがあります。上記の記事のように、多くの症例が非抜歯で行えるようになったことや、インプラントや外科を利用すれば、治療期間の大幅な短縮も可能になってきました。

 しかし、その一方成人矯正特有の問題点や注意すべきことがあるのも否めません。その辺りについて少し触れてみたいと思います。

図Aの方のように、歯石が多量がついて来院される方がいます。このような場合、矯正治療にはいる前に、歯周病の治療を徹底的に行う必要があります。

 矯正治療時には、歯に少なからず力をかけます。歯を支えている歯茎やその下にある骨(歯槽骨)が病的な状態ですと、矯正力により悪化し、最悪の場合はぐらぐらになって、使い物にならない歯になる可能性もあります。

 成人は、小児に比べ、骨代謝が悪いため、一旦破壊された歯槽骨の回復はほとんど望めません。矯正力も、極力弱い力で行う必要があります。

成人矯正の問題点を症例を挙げながら、解説してみたいと思います。

症例1

図Bは、”下の前歯がガタガタなのを治療してほしい”、ことを主訴に来院された50代の患者さんです。歯周病が中程度に進行しているため、積極的に大きな歯の移動を行うには多大なリスクを伴います。

 小児の場合ですと、顎を広げたり、かみ合わせにもよりますが、前方へ移動することも選択肢としてはありますが、成人、しかも50代で、今後歯周病がある程度進行していく可能性が十分あることを考慮して、現在最も歯周病が進行した歯を1本抜歯しました(図C)。

 抜歯後、矯正装置により図Dのように各歯牙を歯列弓内にコーディネートさせました。

C

D

E

4本では並びきらなかった場所を3本にすることにより、歯と歯の間の清掃性が改善され、審美的に良好な結果が得られたと思われます。

 中高年の歯周病が明らかに認められる患者さんに対しては、過大な治療方針をたてて小児の成長期と同じ方法で治療を行うと、逆に歯の寿命を縮めてしまうことあるので、最小限の移動で済む治療方針を立てることが重要です。

次に、成人矯正を行う上で非常によく遭遇する症例に対する処置法を考えてみたいと思います。

 左図Eのように、1本の歯の欠損を長期にわたり放置していると、黄色矢印の欠損部に周囲の歯が移動してしまい、噛み合わせが大きく変わってしまいます。

 模式的に示すと、図Fのように、欠損部の方向へ歯が傾いていきます。傾いた方向の歯槽骨(矢印の部分)が溶けていきます図Gのように、矯正治療によって、歯を元の傾きに治してあげることにより、歯槽骨が回復します。

 治療の際のポイントは、非常に弱い力で、若干圧下の方向へも力をかけることです。

 傾いた歯を前の歯にくっつけるように動かす、というのも理論上は可能ですが、成人、特に中高年の場合、奥歯1本分の歯根の移動は現実的に難しく、整直(元の傾きに治す)させて、補綴的(被せやブリッジ、インプラント等)で最終処置を行うのが肝要と考えます。

E

F

G

”顎の偏位”というのはある日突然起こる現象ではありません。遺伝や先天的な異常で胎児の時に既に顎がゆがんでいる人は非常にまれです。

大半は、成長の過程で、不適切な噛みあわせを放置していたために、顎の位置が偏位した状態で発育してしまい、左右の顎の大きさや形がアンバランスになってしまうのです。つまり、小児の時期が重要なのです。次の症例を見て下さい。

症例2

H(治療前)

I(矯正治療中)

J(矯正治療後)

K(治療終了時)

症例2は、6歳臼歯を抜歯したまま20年以上放置していたため、図Hの真ん中の歯(第2大臼歯)が前方へ傾いてきたのをなんとかしてほしいといって来られた患者さんです。

  親知らず(図Hの一番左の歯)を抜歯した後、矯正器具にて第2大臼歯の整直を行いました(図I)。図Jが矯正治療後です。図Hと図Jの図第2大臼歯の前方(近心側という)を比較すると、歯槽骨が回復しているのがご覧いただけると思います。その後、図Kのように患者の希望により、ブリッジで最終処置を施しました。

 昨今、年齢を問わず美への意識の高まりから、成人矯正が急増していますが、成人矯正特有の難しさ、問題点があることを、我々歯科医は熟知しておくことが必要です。

 全顎的な矯正、部分的な矯正にかかわらず、成人の場合、骨の代謝がゆっくりであることから、不適切な方向への矯正力や、力の大きさによっては、歯に不可逆的なダメージを与えてしまう危険を波瀾でいます。矯正治療中の歯周病のコントロールも重要な要素です。また、欠損があったり、固定源が得にくいため通法の治療法では行えない症例にも多々遭遇します。

 歯の移動による矯正治療で全ての治療をしてしまおうとするのではなく、症例1、2のように、動かす歯は最小限にし、補綴的(被せやブリッジ、インプラント等)な処置も視野にいれた総合的な治療計画をたてる必要があると思います。

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