第7回 矯正装置あれこれ ・・・第1話
今回から数回に分けて、「矯正装置」には、どんな種類があって、どの症例にはいかなる装置が使用されるか、について、お話していきたいと思います。また、最近はどんな装置が多用されているか?等もまじえながらわかりやすく解説していきたいと思います。
まず、総論的な話として一般的によく使用される装置を以下に挙げてみました。
上記に挙げたのはほんの一部の矯正装置で、分類のしかたによっては、100種類以上あります。各装置に適用とされる症例があるのですが、どの装置を使用するかは、最終的には、歯医者の経験によるものが大きいです。
結果的に歯列不正が治れば良いのですが、装置の選択を誤れば、歯や顎が思ったとおりには動かないこともありえます。歯医者サイドは、いろんな装置について熟知していて、テクニックも持ち合わせておく必要があります。
では、ここから本題というか、具体的に症例を挙げて、どんな治療を行ったかお話します。
下記の写真をご覧下さい。ごく最近当医院に来られた10歳の女の子(Mちゃん)です。
左が術前です。「開咬」という歯列不正で、奥歯でかみ合わせたときに、前歯に隙間が開いていました。右が術後の写真で、3ヶ月で治りました。
ではここで問題です。いったいどんな矯正装置を入れたでしょう。
詳しい解説は後で触れますが、実は、何も装置は入れていません。
術前
術後
「開咬」という歯列不正は、幼年期の悪い癖(悪習癖) や、口腔内や口腔周囲の 筋肉の萎縮、発育不足などが原因でほとんどの場合起こります。思春期まで放置してしまうと、上下の顎の発育量、発育方向に異常をきたし、 主に、マルチブラケット装置(固定式のブラケットとワイヤーによる歯の3次元的な移動装置)による治療になってしまいます。
なぜ、歯並びが悪くなったかを考える必要があります。
「開咬」の場合、いくつかの悪習癖(指しゃぶり、舌癖、口唇癖、鼻疾患による口呼吸等)が考えられます。もし、舌の突出癖があれば、下の写真のような歯の裏側に沿って突起のついた装置(タングガード)をいれて、舌が前へ出ないようなことを行うこともあります。ただ、タングガードをはずせば、舌の突出癖が治ってなければ、「開咬」が再発する可能性も多分にあります。
Mちゃんにはタングガードは使用していません。口を閉じること(リップシール)がもっとも大切です。唇の力を強くする訓練(クリップをくわえた下の写真)をしてもらいました。
ほかにもいろいろな訓練法があります。唇の筋肉(口輪筋)の力が強くなれば、分厚かった上唇、下唇もうすくなるし、前歯を押すので、「開咬」は、自然に治ります。この治療法を、筋機能療法(MFT)とか、生物学的機能療法といいます。口の機能が正しく働くと歯は正しい位置に自然と並びます。
歯列不正の治療方法には、機械的な治療(マルチブラケット装置、床装置等)と、生物学的機能療法(MFT、咀嚼訓練、悪習癖の除去等)の大きく2つがあります。
幼年期であれば、Mちゃんのように後者のみで治療が終わり、後戻りがまず起きません。放置しておくと、メカニカルな治療にたよらざるを得ないことと、後戻りの問題がつきまといます。
歯列不正のタイプや年齢にあった装置には、どんな種類があるか、歯医者サイドは熟知しておくことが求められます。顎の成長が止まる思春期前のほうが装置の選択肢が広がるのはいうまでもありません。
矯正装置はたくさんあります。歯医者の知識と経験、そして、装置を実際に使用、装着する患者さんの忍耐力、適応力が一番必要です。