第42回 “シーラント”は善か悪か!
”シーラント”とは、虫歯になりやすい奥歯の溝のところに、虫歯予防のために、詰め物をすることをいいます。
シーラントについては、学生の頃(15年くらい前)私は、生えてまもない幼弱な永久歯に対しての有効な処置として、教えられましたし、実際開業してから、多くの患者さんに行ってきた治療法なのですが、正直言って、最近は、ほとんど行っていません。その辺りの私見を述べてみたいと、思います。
学生時代の講義では、萌出まもない奥歯の溝(小窩裂溝という)へのシーラントは、ブラッシングでは届かない溝の奥深くへのプラークの浸入を防ぐため、”虫歯予防には欠かせない処置”、と教わりました。ところが、現実には、自医院、他医院を問わず、シーラントを施した歯牙の2次カリエスを、日常的にあまりにも多く遭遇します。
図Aのような患者さんは、シーラントをしたことによって、安心して日々のブラッシングが雑だったのか、歯科医のシーラント治療の施術に問題があったのか、のどちらか、あるいは両者なのですが、全く無意味な処置であったことは、事実で、悲しい限りです。
A
B
シーラントは、通常萌出まもない第一大臼歯(図Cの左図)に行うことが一番多いです。咬む面の溝は深く複雑な形態をしているため、一旦浸入したプラークの除去が難しいので、通常のホームケアでは虫歯の回避は不可能といわれています。
シーラントは、全ての方にするのではなく、カリエスリスクの高い人に行います。
具体的には、サリバテスト(唾液の性状を調べる検査)で、虫歯菌が多いと判断した場合や、唾液分泌量が少ないとか、粘稠度が高い場合、唾液のPHが低い、既に虫歯に罹患した歯や修復物が多くある場合、歯や裂溝に変色は脱灰が認められる場合、予防意識が低い、などの方に通常行います。
明らかに、シーラントによる充填の失敗例といえます。シーラント剤の過剰充填や緊密に充填されなかった場合は、明らかに歯科医側に落ち度があるのですが、私の10年間の臨床経験からいいますと、適切な施術を行っても剥離してくる例が結構ありました。
C
D
あくまで私見ですが、シーラント剤自体の強度、耐磨耗性に問題があるのではないか?また、シーラント充填の際は、基本的に歯面の清掃だけで切削はしませんので、エッチングという歯面処理のみです。各種シーラント剤全てにいえますが、接着が強固ではない、と思われます。定期的な来院により早期に部分的な剥離を発見できればいいのですが、長期安定という面では、非常に不安です。シーラント剤メーカーは、”フッ素徐放性”といって、フッ素成分が歯の中に徐々に取り込まれ、歯質を強化する、と謳っているのですが、それ以前に、機械的強度や接着不足の問題が2次カリエスの誘発につながることを問題視する必要がある、と思います。
ですから、最近は、咬む力のかかる咬合面(咬む面)へのシーラントを、ほとんど行いません。
この場所には、強い力はかかりませんので、剥離することは、まずありません。
E
F
シーラント充填後の2次カリエスを経験していない歯科医はいないはずですし、咬合面へのシーラント処置に疑問を持っている歯科医が多くいるのではないでしょうか?
私見ですが、虫歯予防という観点から言えば、食事指導、おやつ指導は当然で、フッ化物配合の歯磨剤の常用やキシリトールガムを噛む習慣づけをするといったホームケアとともに、チェアーサイドでは、3DS(dental drug delivery system)や定期的なPMTCを行うことが、現状では、最善の方法と考えます。3DSについては、またの機会にお話したいと思います。