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第23回 顎関節症治療でやけど!

今回は、岡山の地方紙(山陽新聞)に2003/1/15に掲載された記事を下に話を進めてみたいと思います。 まずは、右記の内容をご覧下さい

「顎関節症の治療に使用されるマウスピースの作製の際、使用されたレジンでやけどを負った」との 記事ですが、私なりの見解を述べてみたいと、思います。
 レジンという材料は、歯科の分野では、非常に幅広く利用されています。レジンというのはプラスチックのような樹脂を想像して もらえばいいのですが、種々ある製品のうち、使用する時に粉と液を混ぜる(練和する)タイプのものがあり、その時に熱 (硬化熱)を発生します。
瞬時には、60℃以上になる製品も あります。最近市販されているレジンは、硬化熱を極力抑えたものが多く、硬化する時に特有の刺激臭も発生するのですが、 その点も改良はされてきています。
 私は、卒後5年間岡山大学の補綴科に在籍して、顎関節症の治療のためマウスピース(正確にはスプリントといいます)を数多く 作製してきました。スプリントの作製法には、
即日患者さんの口腔内で作製する ”直接法”と、歯型を採って 口腔外の模型上で作製する”間接法”、とがあります。 緊急性を有する場合は、直接法で行いますが、頻度からいうと、関節法でのスプリントの作製が大半です。なぜなら、直接法での 作製は、レジンの性質上、ある程度の熟練が必要です。硬化熱と刺激臭による患者さんの負担もさることながら、硬化する 際レジンは収縮(ちぢむ)するという、やっかいな性質をもって います。硬化し始めた時に取り外しを何回せずに、完全に口腔内で硬化させてしまうと、取れなくなってしまいます。 スプリントは、普通全歯牙を覆うタイプなので、使用するレジンも、1本2本の仮歯を作製する時のレジンの量に比べると 多いので、硬化の際の熱が、口の中全体に及ぶので、注意が必要です。取れなくしてしまうと、口腔粘膜に当たっている部分 には激痛が走り、ただれたり、潰瘍ができてしまい、上記の記事のような事故になりかねません。
 間接法で作製したスプリントの微調整として、レジンを盛り足すことはしますが、少量を一部分の歯牙に覆うだけですので、 問題はまず発生しません。

レジンが硬化することを重合というのですが、重合の様式から、 常温重合、加熱重合、光重合のものを用途によって使い分けする 必要があります。私が岡大の医局に在籍していた頃(10年前)は、直接法でのスプリント作製は、常温タイプ(粉と液を室温にて 混和すると硬化する)しかなかったため記事のような事故が起きないよう細心の注意が必要でした。現在は、 光重合タイプ (ハロゲン光やプラズマ光を当てることにより硬化する)が主流です。光重合は硬化熱が発生しませんので、非常に安全です。 ちなみに、加熱タイプは、外部から熱を加えることに より硬化するタイプで、間接法(口腔外)で使用します。

さらに、最近は、プラスチックの板を加圧器でプレスし成形して、微調整は口腔内で行う 非常に短時間(一時間程度)で作製可能なスプリントも多用されています(図A、B )。ただ、このスプリントは、全ての顎関節症患者に適応することはできませんが、バイトプレート (咬合挙上)的な要素が主目的で治療していけば良い症例には有効です
 私の場合、顎関節症が疑われる自覚症状で来院した患者さんに対しては、顎関節症用の問診票の記載、視診、触診、 顎関節の開閉口時のレントゲン写真、歯の模型の作製等から診断を下します。主に、スプリントによるによる治療を中心に 行っています。作製は、間接法で、加熱重合型とし、数種類のタイプのスプリントを使い分けています。どんな病態の方には、 どのようなタイプのスプリントが有効か等については、近いうちにお話するつもりです。

話がレジンのことから逸れてしまいましたが、顎関節症の治療にスプリントは、絶対必要ですし、 使用する材料は、現在のところレジンしかありません。レジンは、非常に操作性がよく、足したり削ったりが容易にできるからです。 ただ、常温型レジンを大量に口腔内で硬化させて発熱させるような診療は、 ここ数年はどこの医療機関でも行われていないはずです。記事のような悲劇は二度と 起してはなりません。
 歯科材料のなかでも、レジンの進歩は一番目覚ましいものがあり、種種多様の製品が次々に商品化されています。 金属へのアレルギー感を持っている人は多いですし、レジンと歯牙は接着しにくいという点についても、ほぼ技術的にには、 確立され問題なく使用できます。近い将来、いくつもの欠点を有している常温レジンは姿を消し、光重合型と加熱重合型の レジンに全て置き代わっていくのではないかと、思います。

顎関節症の治療に欠かせないスプリント作製の材料として使用されている常温重合型のレジンを、 口腔内で歯列全体を覆うタイプに使用することは禁忌といえます。操作性がよく、患者さんへの負担、危険のない光重合型を多用する ことが、賢明と思われます。

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