第22回 金属を使わない治療最前線
金属は、加工が容易で強度的に優れているため歯の治療には欠かせない材料で、現在でも幅広い用途に使用されています。
ただ、現在では金属色からくる見た目の悪さや、金属アレルギーの問題から非金属材料が求められる傾向にあります。
また、非金属材料(セラミックスやレジン系)の新しい材料の開発や、歯との接着剤の進歩により、患者さんへの治療でも確実性の高い方法として応用されるようになってきました。
そこで、今回は、非金属材料には、どんな種類があって、どんな治療方法が行われているか、問題点等にも触れながら、最近の動向も含めて話を進めてみたいと思います。
歯科で使用される非金属材料は、大別すると、
①レジン(プラスチック)系
②セラミックス系
の2種類です。各材料には、長所、短所があります。
①レジン系は、操作性が良く、口腔内で使用(直接法という)でき、健康保険が適応されていることから、主に、前歯の小さな虫歯や欠損を充填(詰める)材料としては、現在でも頻用されています。
図Aのような歯と歯の間の小さな虫歯、欠損にはレジンによる充填をすると、図Bのように、一見非常にきれいに治ります。しかし、5年以上経った時に、同じ状態か、というと、疑問が残ります。レジン系には、”変色”と磨耗”という大きな欠点があります。
図Cは、術後約6年。歯と歯ぐきの境に充填したレジンが変色してきています。
図Dは、術後約8年。レジンの変色とともに、歯質との境界に褐線が認められ、接着しているとはいい難く、図Eに至っては、術後9年で脱落してしまっています。
10年前に比べれば、現在のレジンは、組成の改良により、より硬く、変色しにくくはなっているというものの、セラミックスに比べると5分の1程度の硬さしかありませんので、脱落や磨耗、変色がつきまといますので、永久的な修復材料とはいい難いです。
では、②セラミックス系についてお話しますと、現在、審美的な被せの中心的存在なのが、メタルセラミックス(金属焼付ポーセレン)と呼ばれる金属の強度とポーセレンの審美性を兼ね備えたものです。40年ほど前には実用化されており、通称メタルボンドといい、今日まで理想的な人工的な被せといえば、メタルボンドですというくらい歯科医師の間では普及しているセラミックスです。
ただ、内面に金属を使用するメタルボンドの問題点である歯と歯ぐきの境の金属の露出、金属のコーピングによる不透明感、金属アレルギーの不安などの欠点が常につきまとっていることは否めません。
1980年代になり、金属に対する問題点を解決したセラミックスが開発され、オールセラミックス(金属を使わないセラミックスだけを使用した被せ)の製作が可能になりました。
しかし、
硬いが脆いという性質があるため、図Hのように、十分なセラミックスの厚みを取らなかったり、歯科医が適切な歯の形を考慮せずに作製された被せは、破折してしまうことがあります。990年代の後半になり、セラミックスの硬すぎて破折しやすい性質の問題点を解決する材料として、ハイブリッド系高分子材料が開発されました。従来のレジン系に比べると、大幅に強度が向上しており、単独での被せはもちろんのこと、ファイバイーを編みこんだフレーム(図I)を使用すれば図J,Kのように1本欠損のブリッジにも応用できるようになりました。
従来から、奥歯のかむ面(咬合面)へのセラミックスの使用は、破折やかみ合う歯(対合歯)の磨耗を起こすことからあまり使用されなかったのですが、ハイブリッド系材料は、従来からあるレジンとセラミックスの中間的な性質をもっており、”天然歯にやさしく、しかも強度がある程度ある”ので、今後は非金属材料の主流になるのではないでしょうか。
ただ、経年的に不変的な材料か、といえば、優れた表面性状を保つためには、適切な研削、研磨が必要で、そのための研磨剤(
図N)や専用のドリル(図O)が、効果的といわれています。金属を使わない、という観点からすると、生体への適合性や審美面から天然歯の性状に近い
ハイブリッド系材料による差し歯の土台となる心棒(図P)も、今後普及していくと考えられます。現在の非金属材料であるセラミックス系、レジン系ともに必ずしも万能とはいえませんが、金属を使用しないことは、生体へ”やさしい”ことと”審美的”であることは間違いありません。
セラミックス系、レジン系、そして中間に位置するハイブリッド系高分子材料には、組成、成分などの違いにより其々10種類以上製品化されています。個々の製品の成分や特徴について触れると、非常に話が煩雑、難解になりますのでしませんが、用途に合わせて選択する必要があります。 我々歯科医は、各種非金属材料の特徴について熟知し、用途や患者さんの希望に合った一番適切な材料を選別できなければいけません。 また、詰め物や被せの土台となる歯牙の削り方を誤ると破折や脱落の原因になりますので、この点は、歯科医の技術的な要素が大きいといえます。 今後も、改良、進化し続ける非金属材料の特徴を把握し、うまく組み合わせることが大切である、と考えています。 |
今後も、進化・改良されていく非金属材料の特徴を十分把握し、他の材料ともうまく組み合わせることによって”患者さんの治療方法への高い要求にも答えられる”治療の幅が広がることは確かです。 |