第89回 ”高度かかりつけ総合歯科医”を目指して・・・②
「インターディシプリナリー(Interdisciplinary)治療」の是非???
について私見を述べてみたいと思う。テキスト(文字)が多く、硬い話になることをお許し下さい。
ここ2,3年、歯科専門雑誌には、「インターディシプリナリー・セラピー(Interdisciplinary therapy)」という言葉が随所に出てくる。高品質な治療結果を残すためには、インターディシプリナリーなアプローチは必要不可欠な時代と謳っている。
だが、果たして現実的な話なのだろうか?「かかりつけ歯科医(ホームドクター)」が目指す診療スタイルはいったいどこにあるのか?私見を述べて見たいと思う。
言葉の定義は、以下のようになっている。(Interdisciplinary Dentofacial Therapy by Roblee RD 1994)
1)Unidisciplinary therapy
診査、治療計画立案からメインテナンスに至るまで全て自分の持っている能力とバックグラウンドの
中で1名の歯科医師が行う
2)Multidisciplinary therapy
複数の専門医が連携して治療にあたるが、互いのコミュニケーションや他分野についての知識が十分
でないためにしばしば治療期間の延長や妥協的な結果、失敗を引き起こす
3)Interdisciplinary therapy
各分野における最高の専門性と技術を最大限に生かし、複数の専門医が治療計画段階から密に
連携して行う。それにより一貫して最善の治療結果 に到達できる
私を含め、開業している多くの歯科医は、上記の1)~3)のいずれかの診療スタイルを実践している、もしくは目標として掲げている、あるいは意識していなくても1)~3)のいずれかで行っているのである。
冒頭に記載したように、3)Interdisciplinary therapyが本道・王道であり、全てのの歯科医は、3)を目指さなければいけない!というような論調が書籍、歯科雑誌には踊っている。
ところが、日本の場合、歯科領域においては、専門性が浸透しておらず、現実的には上記2)のMultidisciplinaryの状況下に陥っている歯科医院が大半である。理想論として3)があったとしても、現実的には、99%の歯科医院が2)に甘んじているのが真意である。誌上での臨床と現場の臨床とのギャップは大きく、由々しき問題である、と感じている。
少し専門的な言い回しの話をすると、
臨床家が一口腔単位での歯科医療を行う場合、通常「基礎資料採得(Basic data gathering)」→「問題点の抽出(Making of problem list)」→「総合診断・治療計画の立案(Sequential treatment planning)」というステップを踏んだ後、初期治療(Initial preparation)を行う。
初期治療は準備治療(Provisional treatment phase)とも呼ばれ、炎症抑制が主目的であるが、各歯牙への過重負担を分散させて一口腔としての咬合の安定化を図ることも重要項目である。
その際、生体に調和した機能咬合を修復治療(人工的な被せや詰め物)で行うのか、それとも矯正治療を絡めた治療にするのかの選択に迫られる。歯牙の切削による修復処置といった不可逆的な行為は必ずしも長期的に良い結果を生むとは限らない。
現在では、MI(Minimal intervention:低浸襲)の概念が提唱、浸透されており、初期治療と再評価の過程であらゆ る分野の知識を駆使して総合的な治療プランニングを検討することが、臨床家が最も時間と労力を費やす重要なステップであるとともに、力量が試される工程とも言える。
図Bの赤丸の場所に14本の先天性欠損歯(生まれながらにして永久歯が存在しない)を認めるケースである。
補綴的(被せやブリッジ)なアプローチのみ、あるいは矯正治療のみで解決できるはずもなく、顎顔面の成長余力の残ったSkeletal(骨格的)なファクターを考慮しつつ、矯正と補綴をどのように組み合わせた治療を、誰が?いつ?そして具体的にどのような処置を行うのか?
将来的に欠損部へのインプラント(人工歯根)補綴を計画するのであれば、そのための口腔内環境を整備しておかなければいけない。
かかりつけ医であるGP(General Practisioner)こそが、ロングスパン(20歳前後まで)での壮大な治療介入のスケジュールを決定するプロデューサーでなければいけないのではなかろうか?
A
B
要は、臨床家にはバランスが大事であり、図Cの左図のように、歯科医療の4本柱を平等に提案するべきであり、図Cの右図のようなコンサルテーションは好ましくない。
図Dのように、かかりつけ歯科医として、可能な限り多くの治療オプションを患者さんに提示することが、患者本位の歯科医療の出発点となる。
一方、患者さんサイドに立てば、1歯科医が1人の患者に対し、さまざまな治療オプションを提示でき、長期間に渡って管理することは、コストパフォーマンス、タイムセービング、責任の明確化、治療目標にぶれがない、などの多くのメリットがあることは言うまでもない。
限られた治療プランによる歯科医主導の「インフォームド・コンセント」より一歩進んだ、さまざまな治療選択肢を平等に提示し説明することによる患者主導の「インフォームドセレクション」が可能になることは、生涯に渡ってかかりつけ医として患者と向き合い信頼関係を構築していく上でアドバンテージとなる。
よって、前半に記載した1)~3)の内、1)のUnidisciplinary therapyを目指すのも、一つの方向性と私は考えている。
私を含め、開業している大半の歯科医はGPであることから、図Eのように、「高度かかりつけ総合歯科医」を頂上と設定するならば、当然「矯正」を含めた4つの柱(保存・補綴・外科・矯正)を同じ土俵に置いて均等に臨床スキルを上げていくべきである。
C
D
E
私たち歯科医が、治療介入の際最も留意しなければいけないのは、一口腔単位で総合的な治療計画を立てることであり、その際、偏った分野からのアプローチのみの提案はコンセンサスが得られないばかりか、予知性も疑問符となる。
「思考する能力(Critical thinking)」が試される時代に入った、と実感する。
続く・・・・。