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第44回 ワイヤーのこと知ってますか?

”歯並びの相談”の時に、”歯が動く時は痛くないのですか?”という質問をよく受けます。
痛いか痛くないかは、適正な矯正力が各歯牙に作用しているか?で決まります。
適正な矯正力がかかっているか否かは、術者の”ワイヤーの選択”にかかっているといえます。

前回は歯牙に装着するブラケット(ブレース)に対する私の考え方の一端をお話しました。
そこで、今回は列車でいえばレールに相当する”ワイヤー”の話を少ししてみたいと、思います。

患者さんサイドに立てば、”白く目立たないワイヤーが良いかな?”くらいで、術前のコンサルテーションで、使用するワイヤーの種類についてはあまり話題に上らないし、歯科医側も、ほとんど説明をしないのではないでしょうか?

色ということでいえば、白くコーティングしたもの以外に、レモン色、ピンク色などもありますが、ほとんどの歯科医は、メタル色(銀色)のものを使用していると思います。

ところが、材質、性状という点で考えると、見た目はメタル色なのですが、各メーカーからいろいろな製品が発売されています。
ですから当然、使用するブラケット、テクニックによって、使い分けが必要です。

ブラケットと同様、適材適所でワイヤーを選択することにより、治療をスムーズに行うことが可能になります。

まず、ワイヤーについての最低限必要な基本的な情報、知識をお話します。
 図Aのようにアーチ状に曲げられた既製品を使う場合と、真っ直ぐなワイヤーを患者さんの歯列の形態に合わせて曲げて使用する場合があります。

図Bは、金属の表面を白っぽくコーティングして目立たなくしたワイヤーです。治療の初期に使用します。
 治療の初期には、形状記憶されたワイヤー図C)を使用することにより、図Cから図Bの形態にワイヤー自体が戻ろうとする力を利用することにより、弱い力が持続的に歯牙にかけれるようになりました。
 そのため、患者さんの治療中の痛みが、一昔前に比べると、格段に軽減されるようになりました。

図Dのように細いワイヤー数本ををより集めたレスポンドワイヤーツイストワイヤーは、治療初期に使用することが多いです。弾力があるため、比較的弱い力で歯牙の移動を行えます。

次に、ワイヤーの断面の形状ですが、図Eのようなラウンド(丸い)のものと、図Fスクエア(四角)のもがあります。図Gが拡大した図です。当然用途が異なります。
 ブラケットの溝(スロット)は四角ですので、丸いワイヤーの場合、スロット内でのワイヤーのすべりがいいので、通常治療の初期から中期の大まかな歯牙の移動に使用します。

 角ワイヤーは、治療の後半に歯牙に回転力(トルクという)をかけて、仕上げの段階に使用することが多いです。
 また、形状記憶でないステンレス製のワイヤーを主に使用するループ・メカニクスで治療をしていく場合は、治療の比較的初期の段階から使用します。

角ワイヤーを自由に屈曲(ベンディング)できるスキルがあるかないかが、治療の最終的な仕上がりに影響します。

A

B

C

D

E

F

G

H

図Hリバースワイヤーレトロアーチワイヤーなどという)のように、既製品でワイヤー自体にカーブがついているのもあります。形状記憶のワイヤーですので、元の形状に戻ろうとする力で、前歯と奥歯の上下的なコントロールがある程度できます。カーブの大きなものから小さなものまで何種類かあります。後方部は真っ直ぐになったものもあります。ワイヤーの形状と歯列弓の問題箇所を十分把握して使用する必要があります。

 図Hのワイヤーはあくまで既製品ですので、治療初期の大まかな是正しかできません。形状記憶のワイヤーは、基本的に、治療初期にしか利用できません。

次に、ワイヤーの特徴上、弾性力、元に戻る力(形状記憶力)が強いものから列挙します。
①~④を巧みに使い分ける、あるいは組み合わせることによって、治療効率が格段に上がります。

①ニッケル・チタン
②カッパー・ナイタイ
③TMA
④ステンレス・スチール

①については、メーカー各社から発売されており、どこの製品も大差ありません。治療初期の歯列の乱れた時期には、超弾性であるため、非常に有効に使用できます。①の中に、熱が加わると形状記憶の力が加わる、ヒート・アクチベイティングワイヤーというのがあるのですが、私は、ほとんど使用しません。理由は、患者さんが痛がることが多いからです。低温の場合、永久変形しますので、多少位置がずれた歯牙にも太めのワイヤーをつけれるのですが、体温による温度上昇によって、元の形状に戻ろうとする時に、適正な力以上の強い力が歯牙にかかってしまうことがあるからです。

②については、使用している歯科医と使用していない歯科医が半々といったところではないでしょうか?①ほどの弾性はないのですが、多少のベンディング(曲げること)ができるのが、長所です。舌側矯正時に使用することが多いです。レベリング(治療初期に行う歯列の平坦化)とリトラクションプロトラクション(治療中期に行うスペース閉鎖)の両方に使用することが可能です。

③についても、使用している歯科医と使用していない歯科医がいると思います。私の場合、比較的年配の歯周病等があり、過度な矯正力は禁物な方に使用します。弾性がある程度あるにも関わらず、④のステンレス的な使用もできますので、仕上げ用のワイヤーにも利用できます。

④の中にも、軟らかいものから硬いもの、つまり弾性の多少あるものからほとんどないものまで各メーカー何段階かで取り揃えています。治療の終盤になるのつれ、弾性のないものを使用して、理想的な歯列に仕上げていきます。

昔は④だけで最初から最後までの治療を行っていました。そのため、ワイヤー自体にループや曲げ、ねじれを何箇所にも入れなければいけなかったので、歯科医側に相当のスキルが必要でした。

現在は、①と④で治療している歯科医が大半だと思います。私的には、”②と③も組み合わせることにより、さらに、治療がスムーズに、そして、患者さんに痛みの少ない”やさしい”治療が可能”だと思っています。

いつもお話しています。臨床はケースバイケースです。材料についても、適材適所で組み合わせていくのが良いに決まっています。

では、当医院の症例で、具体的にワイヤーをどのように使い分けているか話してみたいと、思います。

図Iの方は、成人女性で、上下顎叢生を主訴に当医院へ来院されました。
 図Iは、最初に装着したワイヤーです。上顎は目立たない白くコーティングしたワイヤー(図B)で、ニッケル・チタン製の形状記憶のものを使用しました。

 通常ファーストワイヤーは、断面の直径が0.12インチまたは、0.14インチのニッケル・チタン製のラウンドのワイヤーを使用します。非常に弱い力しか働きませんので、通常2,3日で歯牙の鈍痛や圧迫感がとれます。1週間以上も痛みが続く場合は、矯正力が強すぎるということになりますので細いワイヤーに交換する必要があります。

図Jから図Sまでの10枚の写真は、別の同じ患者さんの口腔内です。
 図Jがファストワイヤー装着時で、図Kが3ヵ月後の正面観です。.012→.016→.020のNi-Ti(ニッケルチタン)から、Ca-Ni(カッパーナイタイ)TMAに一ヶ月ごとに太く弾性力の小さいワイヤーに交換していきました。
正面からだとわかりづらいのですが、図L(術前)と図M(3ヵ月後)の右側面観を比べると、ワイヤーが真っ直ぐになって、歯列が整いつつあるのが、おわかり頂けると思います。Ni-Tiは、永久変形しないので、レベリング(歯列の平坦化)には最適のワイヤーといえます。

上顎に関しては、図N(術前)から図O(3ヵ月後)では、かなり歯列弓の半円状に歯牙が並んできたのがわかると思います。
 但し図P1本だけ内側に大きく引っ込んでいた歯(右上側切歯)だけは、隣の犬歯を後方(遠心)へ動かさないとスペースがないので簡単には歯列上へ出せません。

 図Pを拡大したのが図Qです。主線である太目のワイヤーにスプリングを入れて犬歯を遠心へ移動させながら(黄色矢印)細いワイヤーで側切歯を前方向へ押し出しています(ピンク矢印)。主線に太いステンレス製を使用することにより、反作用となる両隣の中切歯と犬歯が内側(口蓋側)には、最小限しか動きません。
 2本のワイヤーを重ねて使用できるのは、.022スロットのブラケットの長所の一つといえます。

下顎に関しては、図R(術前)から図S(3ヵ月後)には、見違えるようにアーチ状に歯牙が並びました。スペースを作るための側方拡大をしながらレベリングを行いました。

I

J

K

N

O

P

Q

R

S

ニッケル・チタンとステンレス・スチールワイヤー、それから両者の中間的な性状のワイヤーを組み合わせることにより、治療の初期段階であるレベリングは、通常3ヶ月~6ヶ月で終了できます。 但し、上下顎の咬合関係がⅠ級(正常)で、前歯部のOver bite (上下的なずれ)が正常(2~3㎜)に近い場合という条件つきです。
 術前に上下、前後、左右的な咬合関係に大きな問題がある場合は、ワイヤーの選択、ベンディング(屈曲)に一工夫も二工夫も必要ですし、使用するテクニックによってワイヤーの太さ、断面の性状、ベンディング法が変えていかなければいけないのは言うまでもありません。専門的かつ、難解な話になりますので、またの機会にします。

次に、似たような症例をもうひとつと、ベンディング(屈曲)が必要な場合のワイヤーの使用法、選択法について話してみたいと、思います。

図Tから図Zまでの8枚の写真は、成人男性で、同じ方の口腔内です。
 図Tは、ファストワイヤー装着時の右側面観です。図Tの黄色枠を拡大したのが図Uです。図Uの黄色矢印の歯牙(右上側切歯)は正面からはほとんんど見えないくらい完全に裏側(口蓋側)に隠れています。
 
図Vが上顎の咬合面観です。レベリングで歯列の平坦化をしながら、スプリングとゴム(パワーチェーン)により犬歯の後方移動を行って側切歯のスペースをつくっています。ワイヤーは、.020インチのNI-TIです。

 図Xは、3ヵ月後です。図Xを拡大したのが図&です。ダブルワイヤー(2本のワイヤー)を巧みに使用することにより、効率よく側切歯が前方向へ誘導されていきます。
 図Yはさらに1ヶ月経過した時の咬合面観で、図Zがさらに2ヶ月経過した時です。図Tから図Zまで6ヶ月かかりました。

前述の症例と同じように、前後的(近遠心)な移動と内外的(頬舌)な移動は、通常すべりの良い(ローフリクション)断面がラウンドのワイヤーで行います。

 但し、Ni-Tiを使用する場合は、バインディング(主線自体のたわみ)には要注意です。弾性がありすぎるのは、長所であり欠点でもあります。経験の少ない術者の場合は、大きな歯牙の移動を行う場合は、たわみの少ないステンレスで行ったほうが無難です。

次に断面が角(スクエア)のワイヤーについてですが、ループをほとんど使用しないスライディング・メカニックスの場合、通常、治療の後半に使用します。スペースが閉じた後に、歯根の移動(トルク)をさせて、歯軸を修正する場合に利用します。

図ⅠのSWA(ストレートワイヤーテクニック)の一種であるバイオ・プログレッシブ・テクニックも、ワイヤーベンディングの煩雑さや患者さんの不快感が大きいことから、シェアー的には衰退化しているといえます。

 現在は、SWA(ストレート・ワイヤー・テクニック)でアレキサンダーやロスタイプのブラケットを使用している歯科医が大半だと思います。図Ⅱは、治療後半で、4前歯を後方へ移動させるためにループを付与しており、ステンレス製の硬い角ワイヤーにて行っています。
 歯体移動(歯軸に平行に移動)させる時は、角ワイヤーを使用します

T

U

V

W

X

&

Y

Z

また、図Ⅲのように、Over jet が大きい(上下的なかみ合わせが深い)を改善する場合に、スポット的に太めのステンレスの角ワイヤーを使用して、上顎前歯に圧下(歯肉へ押し込む)の力をかけると、、図Ⅳのように、Over jet を小さくすることが可能です。

治療を行う際のワイヤーの選択については、アーチの形状、性状(硬さ、弾性)、太さ、断面の形状の4点を考慮します。既成の形状をした形状記憶型のNi-Tiワイヤーは便利で、治療の初期に有効なアイテムですが、弾性力がありすぎるが故、中期以降の治療には使いにくい、という欠点があるという認識が必要です。

矯正治療には、常に3次元的なコントロールが必要不可欠です。作用・反作用を念頭において、硬いワイヤーを自由にベンディング(屈曲)できるスキルは、身につけておきたいものです。

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