第14回 理想的な歯並びとは?・・・(前歯編)
私たちは、好むと好まざるに関わらず、美しさを意識する社会に生きています。矯正治療は、きれいな歯並びにすることを目標に行われますし、患者さんは、美しい理想的な歯並びになることを希望して、来院されます。
では、”理想的な歯並び”とは、いったいどんな歯並びを言うのでしょうか?”
この質問は、愚問と言えるかもしれません。例えて言うと”美人の顔は?”と、問うているのと同じです。
しかし、私たち歯科医が矯正治療を行う上で、基準となる”矯正学的正常咬合”というのがあります。目標とする歯並びの基準がある程度なければ、治療計画が立ちませんし治療のゴールも見えてきません。
左の女性は、完璧に近い比率を有しているので、「完璧な顔」といえるかもしれません。顔を直線Aにより縦に分割することができ、この線を正中線と呼びます。縦の線は目の虹彩(目の玉の中央部)から口角にも引くことができます(直線B)。
また、直線Cによって、3分割することもできます。顔の下3分の1はさらに、鼻の付け根から唇を合わせたところ(直線D)までの1/3と、そこからオトガイまでの1/3に分けることができます。理想的な顔の幅は、一方の目の幅(線EとEの間)の5倍とされています。
美容整形を行う外科医は、上記の基準に沿って治療を進めていきます。ただ、完全に左右対称の顔の人はいませんし、「完全な顔」が、必ずしもより良いとは、限りません。
A
B
では、本題の口元に目を移してみましょう。
左の写真のAとBの口元のどちらが美しいでしょうか?
もちろんBですよね。矯正治療では、Bのような口元を目指します。
具体的にお話ししますと、上の前歯の一番下を連ねたラインが、下唇の上のラインと一致しているのが、理想とされています。このラインをスマイルラインといいます。Aの口元は下の歯が見えすぎています。
次に、微笑(スマイル)した場合に、左右の口角の部分にAの場合、奥歯が見えない暗い部分(ブッカル・コリーダという)が認められますが、Bの場合、口角部分に奥歯まで、びっしり歯が連なって見えます。そのためきれいに見えます。
次に、個々の歯の並び方についてお話ししたいのですが、歯には、1本1本歯科用語としての名前がついていますので、下の写真Cを、参照して下さい。
一番前の歯を中切歯といい、その横の歯を側切歯、あとは、順次奥歯にいくに従って、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯(通称親知らず)といいます。
C
D
E
F
6本の歯が一直線に並ぶと、非常に不自然に見えます。
下の歯についてですが、図Eのように、左右の中切歯と側切歯の4本はほぼ一直線で、犬歯が、0,5㎜ほど上へでているのが、理想と、いわれています。
ただ、白人の場合、犬歯を口元のアクセントと考える傾向があるため、上の犬歯をさらに0.5㎜下方へ、下の犬歯は、さらに0.5㎜上方へ並べて、目立たせる場合が、多いです。
前歯については、個々の歯の歯軸(図D,Eの歯の中心を縦に結んだ線)も微妙に角度をかえていかないと、調和のとれた歯列にならないのですが、少し細かい話になるので、またの機会に触れたいと思います。
次に、上下の歯の噛み合わせを、横から見た図について、お話します(図F)。
上の歯と下の歯の上下的なずれをOverbite(オーバーバイト)、前後的なずれをOverjet(オーバージェット)といいます。どちらも、2~3㎜が理想です。仮に、Overjetが5㎜もあれば、見かけ上、出っ歯ということになります。矯正治療では、2~3㎜になるよう治療していきます。
奥歯の理想的な咬合については、またの機会にお話したいと思います。