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第66回 ”裏側矯正”の最新事情・・・①

歯並びを治す”矯正治療の手法”には、実に様々なやり方があります。

そんな中、「見えない矯正」、「審美的矯正」など一般の方にわかりやすい言葉で表現することがある”裏側矯正”による治療を希望される方が、当クリニックの場合、圧倒的に増えてきました。

歯科治療全般が、審美面を重要視するようになってきた時代の流れにも後押しされて、歯の裏側に部品をつけて治療する見えない方法を選択する方が、成人だけでなく、中高校生にも増えてきました。

”裏側矯正”を行っている歯科医院は、まだまだ少ないのが現状だと思います。そして、裏側矯正といっても、実は、何種類かのブレース、テクニックがあります。一世を風靡した”Karz”というスタンダードなブラケットから”Stb”に代表される比較的小型で異物感の少ないものまでさまざまです。

最近では、日本の矯正医の中に、独自に開発した裏側用のブラケットを使用して治療を行っているドクターがいます。しかしながら、一長一短で試作品、模索段階というものがほとんどです。
なぜなら、歯牙の裏側は、表側に比べ個人個人によって形状にかなりばらつきがあります。それを既製品で一律のパーツにしてしまうことの限界、問題点が多くあるからです。

当クリニックの場合、3種類のリンガル(裏側)ブラケットをケースや患者さんの要望によって使いわけているのですが、やはり、一押しは、”Incognito(インコグニット)”です。世界的に見ても、私の知る限り、現状では、裏側矯正のパーツとしては、最も進化した欠点の少ないブラケットと言えます。

当クリニックでは、裏側矯正の約8割の方がIncognito(インコグニット)を選択します。Incognitoの詳細については、このページをご覧ください。

今回は、Incognitoの有意性について、他のリンガルブラケットと比較しながらケースを通じてお話してみたいと、思います。

何といっても、ブラケット、ワイヤー全てがオーダーメイドであるため、小型であることはもちろん、メカニクス的にもメインワイヤーと歯面との距離が近くなることは、患者さんにとっては非常に不快適が少なく、しかも効率良く歯牙移動が行われます。

専門的ではありますが、歯牙の回転中心に近い場所に矯正力をかけれる、ということは、患者さんの快適性もさることながら、効率よく歯牙移動が行われるため、治療の質や時間の短縮に多大な影響を及ぼします。

また、ローフリクションを達成し、早期にレべリング、アライメントといった叢生改善に一躍買うスロットルを追加できるオーダーメイドならではのメリットがあります。そのため、飛躍的に治療期間の短縮や十分なトルクの発生をもたらします。

では、ケースを通じて御説明します。

図A~Fが初診時の状態で、成人女性です。主訴は、上下前歯部の叢生(乱杭歯)でした。

図A(上顎咬合面観)、図B(下顎咬合面観)のように、上下顎ともに、前歯部分に中程度の叢生(乱杭歯)が認められました。

図C(正面観)のように、過蓋咬合(かみ合わせが深い)のため下顎前歯部がほとんど見えない状態でした。図D(下方向からの前歯部分の拡大)からも、上下顎の前歯部に叢生が中程度認められることがわかると思います。

図E(右側面観)、図F(左側面観)です。臼歯部(奥歯)の咬合関係は、Angle Ⅰ級の正常な状態でした。

この患者さんは、Incognito(インコグニット)による裏側矯正ができる歯科医院が近隣にない、との本人談で、わざわざ山陰地方から通院することになりました。

裏側矯正の中でも、Incognito(インコグニット)の場合、特に精密な歯牙、歯列の模型が必要です。歯牙に装着する全てのパーツを一つ一つオーダーメードで作成します。

わずかな不適切な印象(型採り)が、パーツの精度に影響します。細部まで、正確に型取りが必要なので、最も時間をかけ、慎重に行うべき行程といえます。

図G、Hのように、精密な型採りができる材料で印象採得を行うとともに、図Iのように、咬み合わせの採得も確実に行います。

そして、型採りした印象材に石膏を流して模型にしたのが、図J(上顎)、図K(下顎)です。治療前の歯列模型(図J、K)から治療後の理想的な歯列模型(セットアップ模型)を作成します。

図L、Mがセットアップされた模型です。
セットアップ模型の作製のための細かな指示は、治療に直接影響がでますので、非常に重要です。

ドクターと技工所とで何度も打ち合わせをして治療目標の各歯牙の位置決めをします。顎関節、顎運動に問題のある方は特に綿密な指示を出します。

ブラケット、ワイヤーの作製は、ドイツの技工所でセットアップ模型をCAD/CAMで取り込んで、全てPC上で行います。

そして、図N、Oのように2重構造になったトレーを作製し、内部に全てのパーツを収め、”インダイレクトボンディング”というのですが、口腔外で、装着のための全ての準備が整います。

ブラケット装着は、図Pのように、片顎14本を同時に行います。非常に短時間で、しかも正確に行えます。2重構造のトレーは、内面がソフトタイプで、外側がハード(硬い)な材料でできているため、しっかりと口腔内で保持できて、しかも、着脱は容易です。

”インダイレクト”によるボンディング(接着)にもいくつかの手法があるのですが、工夫された2重構造のトレーの影響で、非常にエラーの少ない各歯牙への装着が可能となります。

図Qは、セットアップ模型と装着予定のワイヤーの形状を見比べているところです。図Rがセットアップ模型を上下咬合させたところです。

現在のところ、ドイツの技工所でしか作製することができないのが難点ですが、世界最小のブラケットであることは紛れもない事実です。

”Incognito(インコグニット)”システムは、開発者による正規の講習を受講しないと使用のライセンス許可がおりません。現在日本では、約40ほどのクリニックでしか行われていないシステムです。

しかし、ヨーロッパでは、リンがル矯正のシステムの中で、現在最も普及している、という皮肉な現状があります。

図Sのように、オーダーしたワイヤーは、寸分違わぬ形状で、しかも径の選択も自由に選択できます。

図Tは、治療目標の歯列形態に合ったワイヤーか、見比べているところです。ロボットアームによりワイヤーが作製されるため、どんなに熟練した矯正医がベンディング(屈曲)するよりも正確です。

そして、図U、Vは、実際の術前模型と完成したワイヤーの相関関係を見ています。技工所が、私の指示通りの形状でブラケット、ワイヤーなどを作製しているか、チェックしていることろです。

現地(ドイツ)の技工所との詳細な打ち合わせは、電話、メール(もちろん英語です)を通じて密に行います。
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A
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B
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C
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D
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E
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H
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S
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V
次に、装置装着後の歯牙移動、変化についてお話します。

既製品のブラケットとの大きな違いは、実際に歯牙を動かす時のメカニクスを考慮し、ブラケット自体に、自由自在にパーツ(オーギジナリー)を最初から組み込めることです。組み込むパーツの大きさ、位置、方向なども治療プランにそって自由に選択できます。

図W、図Xは装置装着直後の上顎と下顎の咬合面です。
一方、図&、図Yは、装着2ヶ月後の上下顎咬合面です。

私の経験上、Incognito(インコグニット)以外の舌側用のブラケットを使用したとしたら、4~6か月はかかる歯牙の動きです。

なぜIncognitoは歯牙が早く動くのか?ですが、もちろんHeavy force(強い力)をかけたわけではありません。Light force(弱い力)で無理なく動くオーダーメードならではの有利な点があります。

矯正力!という力の話をする上での原理・原則があります。作用点、力点、支点の相互関係を常に考えながら治療の方向性を熟慮します。

一言でいえば、作用点と支点が近いため、矯正力をかけた時のロスが非常に少ないのです。

例を挙げますと、図Zは、左下の犬歯相当部とその隣在歯なのですが、犬歯(黄色丸)は初診時かなり歯列からはずれていました。

そこで犬歯のブラケットに通常のスロットルの溝とは別にもう一つスロットルを組み込みました。

図①のように、自由にワイヤーが動けるフリクション(摩擦)が小さい溝へワイヤーを通すことにより、痛みもなく効率よく非常に短時間で歯牙が歯列内に組み込まれます。

同じ患者さんの図②は左下1番相当部なのですが、図②の黄色丸を拡大したのが図③です。

歯冠側よりの通常では存在しない場所へパーツを組み込む図③)ことにより、ワイヤー挿入が可能になります。

フリクション(摩擦)が低い構造になっているため、クラウディング(叢生)改善のためのレべリング・アライメントの期間を大幅に節約することができます。

図④が治療前、図⑤が治療開始2ヶ月後です。たかが2ヶ月でレべリングが完了しました。

同じく図⑥、⑧が治療前、図⑦、⑨が2ヶ月後です。

舌側へ装着しているブラケットが非常に小さいため、咬合挙上が最少限に抑えられており、臼歯部の離開がほとんど起こっていないことも特質すべきことです。
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W
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X
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&
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Y
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Z
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現時点では、最も進化した裏側矯正の装置である”Incognito(インコグニット)”の特徴が、たった2ヶ月ですがお分かり頂けたと思います。

各患者さんの各歯牙を全てオーダーメイドで作製、しかも形状、形態は自由にオプションで追加できることは、プランニングの自由度が広がります。

また、装置装着は、”インダイレクトボンディング”ですのでシンプルかつ精度高く行えます。そして、万が一ブラケットの破損や紛失が生じた際も、保存データからCAD/CAMを利用して寸分違わないブラケットがすぐに供給されます。

”カリエスリスクの高いバンド冠は原則不必要であること”、”ワイヤーシークエンスの単純化”、”術者のスキルによるエラーがないこと”など、他にも多くのメリットがある装置です。この辺りについては、またの機会にお話します。

矯正治療に使用する装置にはさまざまなものが存在します。どんな装置を使用するにしても、”治療前の正確な診査・診断が大前提”であることに変わりはありません。

そして上記に示した”Incognito(インコグニット)”を利用することにより、”より快適な審美的な矯正治療”が行えるようになってきたことは、歯並びの改善に躊躇されていた方への朗報であることは間違いありません。