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第62回 小さな異変を見逃さないで!

歯並びの異常は、ある日突然発見され、発症するわけではありません。”小さな異変を見逃さないこと”、そして”その時々に適切な治療を行うこと”が最も大切です。早期発見、早期治療という大原則があります。

下記のいくつかのケースは、小さな異変、異常に対し、的確に対処したことにより、重症に到らなかった事例です。

ホームドクターである私たち専門家は、親御さんが気づく前に、歯並びの異常をいち早く発見する義務と責任があります。

図Aが初診時の状態です。図Aの黄色矢印の歯牙(左上中切歯)が内側(口蓋側)に位置していて、反対の咬み合わせになっています。

図Bの正面観ですと、より鮮明です。黄色矢印の場所の左上中切歯が、上下逆のかみ合わせになっています。

図C(右側面観)、図D(左側面観)は奥歯の咬み合わせの状態です。
図Cの右側が問題です。上の歯牙のほうが外側(頬側)にあるべきなのが、逆に下の歯牙のほうが頬側にあります。この咬みあわせを、専門用語で交叉咬合といいます。図Dの左側は正常です。

この原因は、上顎骨の側方への劣成長(発育不全)に起因しています。上顎骨の劣成長は、顎の偏位を引き起こし、図Eの青矢印の方向(右方向)へゆがんだ状態になっていました。顔貌にも若干偏位の影響が出ていました。放置すると、年齢とともに悪化していきます。

治療経過ですが、図Fのように床タイプの可撤式装置で青矢印の方向へ劣成長是正のため側方(左右)拡大しました。図Gが若干拡大されたところです。

装置の真ん中に少し隙間があるのがおわかり頂けると思います。さらに2個目の装置で図Hのように側方拡大を続けました。

図Iが側方拡大が終了したところです。図Iの黄色四角枠を拡大したのが、図Jです。図Jの青矢印箇所にスペースができたので、中切歯を黄色矢印方向へ押し出すことが可能になりました。

図Kのように、2つの拡大用ネジを埋め込んだ装置で、反対咬合になっている2本の歯牙を唇側(前方)へ移動させました。拡大ネジを回す(約1㎜/月のスピード)ことにより、確実に歯牙移動を行うことが可能です。

図Lが2ヵ月後です。図Lの黄色矢印の方向に歯牙が移動したのが図Mになります。

図A図Mを比較すると、かなり歯列が整ってきたのがおわかり頂けると思います。反対咬合で生えそうとか生えてしまった歯牙は、できるだけ早い時期に、正常な咬み合わせにしてあげることが大事です。

図N図Mと同じ時期の正面観です。正常な被蓋に前歯部分はなりました。がまだ、微妙な凹凸があります。

そこで、図O,Pのような床装置で唇側(表側)と口蓋側(裏側)からサンドイッチするようにして、凹凸をとっていきました。

両側の乳歯の犬歯が永久歯に生え変わったため装置が不適合になり、再度同じタイプの床装置を作成したのが、図Q、Rです。

可撤式(取り外し)装置の長所として、装着時間を守って頂ければ、1本1本の小さな動きを1方向に確実に動かせる点があります。

混合歯列期(乳歯と永久歯が混ざった時期)には、適応症さえ誤らなければ、非常に有効に利用できる装置といえます。
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上記のように、大きな骨格性の問題がなければ、上下の前歯が生え始める5~7才くらいが治療開始の適齢期といえます。骨格的な重度の問題があるようでしたら、3才半くらいから治療を開始する必要があります。

その判断は、もちろん歯科医がするべきですし、親御さんから指摘される前に、どのような時期にどのような処置が適切なのか、を明確にお話できるだけの知識は持っておきたいものです。

左図の左縦欄(図S,U,W,Y)が治療前、右縦欄(図T,V,X,Z)が治療後の経過観察に入ったところです。

正面観では、図Sのように、反対咬合、顎の偏位も改善されています。幼年期の歯性の問題を放置すると、骨格的な問題へ移行する因子になるので早期に解決してあげることは大切です。

図Uの左側面観の変化ですが、しっかりとした上下1歯対2歯の咬合関係が確立されています。上顎骨の前方向への正常な発育も窺えます。

図Wの右側面観の変化ですが、前歯部から臼歯部に渡っての交叉咬合が是正されています。

図Yについてですが、歯列から外れた歯牙のある叢生状態から、左右対称な半円形の理想的な歯列弓形状になっています。

自我の目覚め以前の幼年期の治療は、精神的に不安定になりやすい思春期になってからの治療に比較して、大半がスムーズに治療が進みます。

予防的な小児期での矯正治療は、ごく当たり前の時代になりました。
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次のケースは、一見すると厄介というか、難症例と思われるかもしれませんが、治療開始時期のタイミングがよかったため、非常にシンプルでしかも短期間に治療を終えることができました。

図①が初診時の状態です。他県の歯科医院からの紹介でした。
後で触れますが、治療開始のタイミングはとても重要です。

図①の黄色四角枠の箇所で、右側犬歯が側切歯の唇側から出てきている(異所萌出という)状態でした。

図②図①の四角枠部分を拡大したところです。本来黄色丸の乳歯の犬歯が抜けて生えるべき青丸の永久歯の犬歯がとんでもないところから生え始めていました。

治療としては、図②赤矢印の方向に生えかけの犬歯を誘導することになります。

図③が右側面観です。青丸の箇所から異所萌出してきています。拡大したのが、図④です。青矢印の方向に歯牙の移動を行うことが治療目標です。

図⑤が正面観です。青丸の所から歯牙が萌出中で、図⑥の拡大図の青丸のような状態でした。

一刻も早く萌出方向の是正をしてあげないと、側切歯の唇側の歯肉のボリュームが足りなくなり、犬歯は移動したものの、側切歯の歯根が露出して、審美的な問題を来たします。

そこで、混合歯列期ということを配慮して、床装置を図⑦のように装着し、黄色四角の拡大である図⑧のように唇側のワイヤーの力を利用して黄色矢印の方向に犬歯を押しました。

図⑨は2個目の装置で、同じく図⑩のように、黄色矢印の方向に犬歯を誘導することにより、図⑪、⑫のように、ほぼ正しい位置へ萌出させることができました。図⑬が下顎咬合面観です。

このケースの最大のポイントは、犬歯が生えきった状態で紹介されてこなかったことです。萌出途中でしたので、自然萌出力を利用して、スムーズな定一への誘導ができました。

もし、萌出しきった状態で来院されていたら、全く異なる治療計画になります。もちろん、治療難易度も高くなります。
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親御さんが萌出異常(生え方がおかしい)に気づき、即座に前医が紹介して下さったことが功を奏しました。

小さな異常を見逃さないことです。そのためには、幼児期からの定期的な歯科健診に通って頂きたいです。歯並びの異常に関しては、放置=悪化という図式になっています。

そして、私たち歯科医には、小さな異常も見逃さない、”確かな目””確かな知識””確かな技術”を持ち合わせておくことが必要条件なわけです。