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第53回 ”先天性欠損歯”への対応・・・(小児編)①

”先天性欠損歯”とは、生まれながらに歯がない状態のことを言います。
当医院では、メインテナンスに入った方を除いて現在約200人近い方が矯正治療を受けられています。

毎日、たくさんのお子さんの口の中を診ていて感じることですが、永久歯が何本かない方が非常に多いことを実感しています。先天性欠損歯がある場合、単に1、2本の歯が少ない、ということだけでは済まされないいろいろな問題が生じてしまいます。

前歯、奥歯ともにかみ合わせが不具合になることは当然として、上下顎骨の正常な発達が妨げられ、左右的、前後的、上下的にアンバランスな状態に陥り、しいては顎の変形、顔貌の変形にもつながります。

先天性欠損歯は、通常ホームドクターである”かかりつけ歯科医”が小児期に最初に気づく場合が大半です。顎の成長余力がある幼児期から適切に管理することが非常に重要で、ホームドクターの責務と考えています。

顎の成長が終わり、顔貌の変形が生じてしまった成人の場合は、治療法が限定されてしまいます。ですから、できるだけ早期からの継続的な治療、管理が必須なわけです。

当医院で行われている、先天性欠損歯への対応を、事例を挙げてお話してみたいと思います。放置することによる諸問題についても、私見を述べさせて頂きたいと、思います。

図Aを”パノラマレントゲン”と言います。どこの歯科医院でも設置されているX線装置で撮影可能です。パノラマX線の詳細な見方については、院長のメッセージの<第26回 レントゲンを知ろう!・・・②をご覧ください。

図Aの方は、25才の女性です。上下左右合わせて28本(親知らずを除いて)の歯牙が存在する全く問題のない方です。

一方、図Bは7才の男の子です。パノラマ像では、上下の顎骨全体が写りますので、まだ生えてない歯牙の本数、生える方向の異常などを観察することが可能です。

図Cは、図Bと同じ方なのですが、下顎の歯牙について言えば、黄色丸青丸に、まだ生えていないこれから生えてくる永久歯がしっかり写っています。

赤丸部分が既に生えきった永久歯の下の前歯4本です。黄色丸部分に左右の犬歯、小臼歯合わせて6本存在します。青丸は、左右の第二大臼歯で、12才前後に生えてくる歯牙です。

つまり、6才前後のパノラマ像を見れば、先天性欠損歯があるかないか、人目でわかるということです。
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次に、先天性欠損歯が存在する事例でお話してみたいと、思います。

下記の
図Dは、6才の男の子です。”下の前歯の間が空いていること”を主訴に来院されました。”先天性欠損歯”の疑いがあったため、パノラマを撮りました。下の前歯部分(青四角)に問題があることが判明しました。

図Dの青四角部分を拡大したのが図Eです。わかりやすいように、現存する歯牙を図Fのように丸で囲んでみました。

図Fで、2つの黄色丸が永久歯の中切歯(ど真ん中に生える歯)です。中切歯の両隣の2つの赤丸は、乳歯の犬歯です。その下には、永久歯の犬歯(ピンク丸)が控えています。青矢印の方向に永久歯の犬歯が移動して、赤丸の歯牙と置き換わります。

正常な方の場合、左右の黄色と赤丸の間に側切歯と呼ばれる歯牙が存在します。
ですから、左右の側切歯が”先天性欠損”ということになります。2本分歯牙が少ないため、歯牙の並ぶスペースが余り、前歯に隙間のあるスキッパの状態になっていたのです。

図G~Lが初診時の口腔内です。図G(正面観)において、上顎の正中に約2㎜のスペースがあり、下顎前歯は、4本あるべき場所に2本しか存在しません。図Hが下方向から見上げた前歯の噛み合わせです。上下の前後的なずれ(Over jet という)が13㎜(正常は2~3㎜)といわゆる”出っ歯”の状態でした。

図Iが下顎咬合面観です。歯列弓は半円形が理想的なのですが、前歯部分が一直線の台形様形態をしており、先欠が原因で中切歯部分の前方向への発育の不良が認められます。図Jの口元のアップでは、出っ歯の様相が顕著であることがわかります。

重度の上顎前突(出っ歯)の原因ですが、「上顎前歯の唇側(前方向)への転位、傾斜」と、「下顎側切歯の先欠による両側中切歯後退」の両方が重なっているためと考えられます。
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図K(右側面観)、図L(左側面観)において、臼歯部のかみ合わせには問題がないことが見て取れます。

上記のケースをもし放置した場合、上顎骨の前方向への過成長及び下顎骨の前方向への劣成長が進行し、上下顎骨の前後的な成長アンバランスが生じてしまいます。幼児、小児期から治療、管理していかなければいけないケースといえます。

では、実際、どのように治療を進めていくかお話ししてみたいと思います。

図Mが、上記の症例の口元のアップです。意識していない場合、口はいつも開いた状態のお子さんでした。口がいつもポカーンと開いていて、鼻呼吸をほとんどしていないことが明らかでした。

図Nで、理想的な赤ライン(Ethtetic line)から、上唇は前方へ(青矢印)、頤は後方へ(黄色矢印)大きくずれていました。原因は、上顎歯牙の前方傾斜と下顎前歯部歯牙の後退位です。
まず上顎へのアプローチですが、舌突出癖(舌で上の前歯を後ろから押す悪い癖)を防止するために、図O~Qのようなタング・ガード(舌癖防止装置)と呼ばれる矯正装置を装着しました。)図Qで、黄色矢印の方向に舌を前方向へ出そうとしても、ワイヤーの壁がありますので、前方へ出すことができません。上の前歯を必要以上に前方に押すことはありません。

一方、上唇の力(口唇力)を強くして上の歯を後方へ押す力を引き出すために、図Rのような装置でリップトレーニングを自宅にて行って頂きました。
そして、耳鼻科の医師との連携も重要です。鼻疾患の有無、治療を行い、口呼吸の是正も併用します。
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小児期に上顎の前歯が過剰に前方へ出てしまいますと、上顎骨自体も前方向へ成長しすぎますので、不可逆的な様相、現象に陥ってしまいます。成人になってからですと、外科的な矯正でしか治療できなくなる可能性が高くなります。

下顎についてですが、下顎骨自体が後方位にあるのではないため、下顎前歯部を、前方向へ動かす装置を装着することになります。下顎の中切歯が萌出しきってから行う予定です。

治療上一番重要なのは、上顎前突の顔貌を小児期に確立させてしまわないことです。口唇癖などの悪習慣を除去し、鼻疾患があれば耳鼻科と連携して治療し、正常な上下顎の発育のレールに乗せることです。そして、”先天性欠損歯”への対応としては、萌出してきた歯を前方向へ誘導し、余ったスペースについては、長期的な視野に立って、将来補綴的(インプラント等)に対応するのが一番良いと思われます。

次の症例ですが、下記の図Sが術前で、6才の男の子です。”顔貌に対して、上の歯の真ん中が左へずれていること”を主訴に来院されました。

図Tが下顎咬合面観、図Uが上顎咬合面観です。
図Tは一見異常がないように見えますが、両側犬歯間には4本の歯牙があるべきなのが、3本しか存在しません。図Uについては、口腔内だけ診ますと問題は見当たらないのですが、レントゲンで異常が判明しました。

図S図Vは同じレントゲンです。図V青枠と赤枠の場所に”先天性欠損歯(先欠)”が発見されました。

図Vの赤四角枠を拡大したのが図W,青四角枠を拡大したのが、図Xです。
図Wにおいて、やはり4本あるべき場所に3本しかありません。顎骨内にも存在しません。

図Xにおいて、青丸のところにあるべき左側側切歯が存在しません。上顎の歯牙が、片側性に欠損している(左右片方だけの歯牙が欠損している)場合、顔貌と歯牙の正中が必ずずれてしまうため、審美的な問題が生じます。このケースであれば、歯牙が全体に左側(画面上は右方向)へ動いていきます。

また、図Xの赤丸の乳歯と生え変わるべき永久歯も存在しません。
このケースのように、上下顎に多数の歯牙の先欠がある場合、治療計画の立案が難しくなっていきます。なぜなら、いろいろな治療法が可能だからです。上下顎骨の成長余力が十分あることも考慮しなければいけませんので・・・。

小児期の治療で私の考え方の基本であり、念頭においているのは、”顔貌”です。顎骨の大きな成長アンバランスを回避してあげることが治療の主眼になります。それから、永久歯を抜歯しない方向で咬合を確立していきます。先欠がある場合、そうでなくても歯の数が通常より少ないのですから、これ以上抜歯することは極力避けたいからです。

図&が初診時です。図Yのように側方拡大装置にて左右へ拡大しました。図Zが拡大後で、図#の装置で中切歯2本を揃えて正中へ寄せています。両側の側切歯部分については、将来補綴的に審美修復することにしました。拡大せずに中切歯を口蓋(内側)へ移動する治療計画ですと、顔貌(特に上唇)が凹んだ貧弱な口元になってしまうからです。
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このケースは10年スパンで取り組まなければいけないので、歯科医サイドの管理能力、今後発生する不確定要素への対応も含め、十分な知識、スキル、経験が必要ではないかと思います。

上記に挙げた2つの症例のように、”先天性欠損歯”が1~4本くらいまでですと、治療プランにそれほどバリエーションもないのですが、さらに欠損の本数が増えてくると、いわゆる難症例と呼ばれる部類に入ってきます。どのような咬合関係に仕上げていくのか、審美面も含め悩むところです。

次回の予告をしておきます。下記がパノラマ像です。10才の女の子です。まず生えてこないであろう永久歯も含めると、6本の先天性欠損歯が存在しますどの歯かわかりますか?
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矯正治療を長年していて思うことですが、一般的に、歯の本数が揃っている方より、歯の本数が少ない方の方が、断然難易度が高くなります。
また、成人の場合、顎骨、歯の位置が今後自然に位置を移動するということはありませんので、提案できる治療選択肢は限定されます。どちらかと言うと、テクニック論に終始する感があります。

一方、小児の場合は、顎骨の成長という可変するファクターが存在するため、不確定要素が常に付きまとい、十分な知識、経験が要求され、治療難易度が増します。しかし、放置=悪化することは明らかですので、治療を早期から取り組むことがどうしても必要になってきます。

幼児期からの矯正治療に取り組むためには、テクニックもさることながら、豊富な知識、経験、そして10年後、15年後を想定した治療計画を常に意識しておくことが求められます。

次回は、”多数歯(6本以上)の先天性欠損歯がある事例”のお話を、そして、”成人の方で先欠がある場合の当医院での取り組み、考え方”についても触れて見たいと思います。