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第50回 矯正治療を始める前に知っておいてほしいこと・・②

前回の歯並びの話 49回 矯正治療を始める前に知っておいてほしいこと・・・①の続きの話をしたいと思います。
今回は、反対咬合(受け口)のタイプ分け、見分け方、要注意のタイプとは?などなどです。

前置きを少ししましょう。
反対咬合を主訴で来院される方は、当医院の場合、1割といったところでしょうか?
”日本の場合、東へ行くほど、そして北へ行くほど反対咬合の割合が増える”といわれています。
北海道は、反対咬合の宝庫と言われています。友人の北海道の先生に聞いたところ、歯列不正の5割近い患者さんが反対咬合と言ってました。

反対咬合に限ったことではないですが、診断、治療をする際、歯牙の問題(歯槽性)上下顎骨の問題(骨格性)どちらに原因があるのか、又は両方に問題があるのかを常に考えておかなければいけません。

反対咬合の場合、骨格性の要素が非常に顕著な方が他の歯列不正に比べて多いのが特徴です。言い換えれば、遺伝的要素が強いということで、家族暦(親御さん、兄弟等の同種の歯列不正の有無)をしっかり把握しておく必要があります。

骨格性の顕著な症例の場合、上下顎骨の成長発育曲線が、一般型とは全く異なるため、長期に渡っての経過観察が必須となります。20歳前後からの晩期成長をする方もしばしば見られます。他の歯列不正以上に、できるだけ早期(3、4歳)から治療を開始することにより、平均値からの大きな成長曲線のずれを回避することができるといわれています。

では、症例を見ながら、タイプ分けや症例の難易度について触れて見たいと思います。


図A~Iは、6才の男の子の初診時の状態です。ご覧のように、図A(右側面観)、図B(左側面観)図C(正面観)です。上下の前歯が反対咬合になっています。

図D(上顎咬合面観)、図E(下顎咬合面観)です。上下ともに歯牙萌出スペースは足りています。下顎は、4前歯が永久歯なのですが、スペースが余っているくらいです。上顎はスペース的には足りていますが、若干唇側(前方)へ傾斜していることがうかがえます。

反対咬合の場合、下顎骨又は下顎歯列が前方向へ位置しているのか?それとも、上顎骨が劣成長又は上顎歯列が口蓋(裏側)へ傾斜していて、下顎が突出しているように見えるだけなのか?双方が混在したタイプなのか?の診断が治療上非常に重要になってきます。

側貌の口元のアップが図Fです。前回お話した鼻唇角は8才にしては大きいですので、上顎骨の劣成長又は、上顎歯牙の唇側傾斜が疑われます。下顎の前方位は、側貌からは顕著には認められませんでした。典型的なⅢ級(反対咬合)的顔貌ではありません。

図Gが口元の横からのアップです。上下歯牙の前後的なずれが約5mmあり、過蓋咬合(咬み合わせが深い)も認められます。幼少期の過蓋咬合を放置していると、上顎前歯部の前方への発育が抑制されますので、骨格性の要因があるなしに拘らず、正常被蓋(上顎前歯を下顎前歯より前方へ出す)にしてあげることは、非常に大切なことです。

また、この時期に正常被蓋に改善させてやることは、下顎歯列の前方移動の抑制、下顎骨の前方への成長抑制にもなりますので、鉄則ともいえる最初に行う治療といえます。

反対咬合に限らず、上の歯牙、下の歯牙、上顎顎骨、下顎顎骨の4つのエリアのどこに問題があるのか診断上非常に重要です。そのためには、図Hの側貌レントゲン検査が必須となります。

図I赤線をMcNamara lineと言って、上下顎骨の前後的位置のバランス、評価に頻用されます。上顎骨最前方位であるA点までの距離である緑線(McNamara line to A)がー3mmでした。6才児の標準が+1±2mmですので、若干上顎骨が後方位、つまり劣成長ということになります。

一方、青丸部分の下顎については、下顎骨最前方位であるP点(ポリオン)までの距離(McNamara to P)が0mmでした。標準がー6mm±2mmですので、かなり前方位にある、つまり、下顎骨自体が、前方に位置していることになります。

このお子さんは、骨格性の要素をある程度含んでいるといえます。

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反対咬合の難易度(治療する上での難しさ)には、いくつかの要素があります。

1)骨格性の程度
小児で軽度の場合は、成長・発育のコントロールがある程度可能ですが、成人で重度の上下顎骨のアンバランスが存在する場合は、外科も視野に入れた治療計画が必要となります。

2)構成咬合は可能か?
機能的(仮性)に下顎が前方にある場合は、歯牙、歯列由来の反対咬合なので治療は易しいが、構成咬合(中心位において、切端咬合ないしそれ以上の後方位)がとれないケースは、骨格性の要因が強いと考えられ、難易度が高くなります。

3)家族暦、遺伝的要因は?
父母、祖父母などに骨格性が顕著な反対咬合の方がいる場合は、上下顎骨の成長・発育が同じパターンをとる可能性が高く、長期にわたる経過観察が必要な難症例といえます。

小児の場合、成長・発育の方向をある程度予測しておき、年齢に応じた長期の治療計画の立案が可能ですし、必要と考えます。

例を挙げますと、上記のお子さんのセファロ(側貌レントゲン)でお話しますと、図Jにおいて、赤線で成される角度(青)をNSaといいまして、125±5°が標準です。この角度が大きい場合、緑線方向つまり前方向への成長は軽度と予想さえ、反対咬合が今後、悪化する可能性は低いということです。

また、図Kにおける青の角度をY-axisと言って、緑丸の頤(オトガイ)つまり下顎骨の成長方向の指標に利用します。この角度が大きい場合、下顎骨が前方(ピンク矢印)への成長量が大きい可能性があるため、反対咬合が今後悪化するだろう、と予測できます。逆に、青の角度が小さい場合、下顎骨の下方への過度な成長が予想されます。

成長予測は推測ではありません。上記のほかにも、いろいろな計測値から、成長予測ができます。その結果を下に、治療計画し、装置の選択に反映させることが可能なわけです。

上記のお子さんの場合、NSaが標準より大きく(131°)、Y-axis が標準であることから、今後遺伝的、あるいは成長・発育による悪影響は出ぬくい症例と予測できました。
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日本人の場合、下顔面の成長方向は、水平方向より垂直成分の方が大きい長顔型(Dolichofacial pattern)が多いです。水平成分の成長の大きい短顔型(Brachyfasial pattern)かどうかのタイプ分けをしておき、上下顎骨の成長方向のコントロールを視野に治療目標の設定を行うことも可能と考えます。

次の症例を見てみましょう。

図L~Tは、8才の女の子です。主訴は、”上顎前歯の萌出中の歯牙が反対咬合で生えてきている”ことでした。

図L(右側面観)、図M(左側面観)において、左右ともに、奥歯が軽度の反対咬合でした。奥歯の咬合も反対咬合で、専門用語では、第二大臼歯がMesial step type(下顎近心咬合)といいます。骨格性の要素があることが予想されます。

図N(上顎咬合面観)、図O(下顎咬合面観)では、歯牙スペース、歯列形態ともに問題は見当たりませんでした。

図Pが正面観です。上顎右側中切歯がやや反対咬合になりながら萌出してきています。

図Q、Rの口元の側面からのアップで、よりおわかり頂けると思います。歯医者はどうしても、口の中だけ診て、判断しようとする傾向がありますが、顔貌の観察はとても大事です。

小児期特有の顔貌、特徴を把握した上で、問題点をピックアップしていきます。鼻唇角は正常の範囲で、オトガイの位置も問題なさそうです。

次に、図S、Tがセファロ(側貌レントゲン)ですが、図Sの青線(標準値)、赤線(今回の症例)をプロフィログラムといいます。上下顎骨の外形を結んだ線です。上下顎の前後の発育量や方向の異常を観察できます。

青線より赤線のほうが一回り大きいですが、ほぼ相似形であることから上下顎骨の発育のアンバランスは見当たりません。若干下顎が時計回りに、下方へ過成長ぎみと、読み取れます。詳細は、以下の計測値を分析することにより判明します。

図Tは、VTOと言って、各測定点を線で結ぶことにより、距離や角度を計測できます。小児の場合、咬合平面を補正、修正した上で、将来の予測値を設定することも可能ですが、かなり専門的で難解な話になりますので、またの機会にお話します。

セファロは、一方向からの二次元的な陰影ですので、頭蓋骨中のいくつもの構造物が重なって写ります。左右的な位置関係を正確に投影することも難しいですので、セファロが全てを表現しているわけではありませんが、傾向や問題点をピックアップすることは、可能です。
あくまで、数ある診断のための資料の一つというスタンスで観察、評価することが必要です。
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次の4枚の表の説明は、セファロ計測値からの評価です。少し難しい話ですが、ご了承下さい。

図URicketts&McNamara分析)の一部(緑四角枠)を拡大したのが、図Vです。Mandibular P(下顎下縁平面角)が若干大きいが、標準偏差内ですし、L1-APOも標準内ですので、骨格性の要素は少ないといえます。

また、図W(各種角度分析)の一部(緑四角枠)の拡大である図Xにおいて、A点、B点、Y-axisなどが標準ですので、やはり骨格性の要因は少ないと考えられます。
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列不正を大きく叢生(Ⅰ級)、上顎前突(Ⅱ級)、反対咬合(Ⅲ級)、という分け方をすれば、反対咬合はできるだけ早期に治療を開始することが望ましいし、治療の有効性も高いといわれています。
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左の図Yの表のように、Ⅲ級(反対咬合)は、乳歯列期、つまり幼児からの治療の有効性が高いことは、矯正界では、常識となっています。

その理由として、骨格性要因による悪影響を最小限に防ぐためには、低年齢児からの管理が必要ということです。逆に、成長・発育の終了した成人の反対咬合の場合、歯牙だけの移動には限界があり、抜歯や外科を含めた治療計画を立てないといけないケースが増えてしまいます。

上図の表のように、Ⅰ級(叢生)やⅡ級(上顎前突)については、混合歯列期が治療の適応時期といえます。装置のバリエーションも豊富で、目的に応じて、いろいろな治療計画の提案ができます。

ちょっと難しい話もしましたが、一番知っておいてほしいことは、繰り返しになりますが、”反対咬合の治療は、早期に開始べき!”といういことです。
悪習癖等の環境的因子よりも、遺伝的に問題があるケースが多く、骨格的な不調和をきたしてしまうと、歯牙の移動だけの矯正では良い結果を望めません。

最近当医院へ矯正相談に来られる方の大半は、非抜歯を希望されます。
非抜歯治療を否定するつもりは全くないのですが、非抜歯治療で行き詰って、転医されてくる方が増えいるのが、とても気に掛かります。

非抜歯治療は、テクニック、装置の如何に拘らず、側方拡大か後方移動が必要になります。側方拡大には限界がありますので、多くの場合、後方移動をします。限度を超えた後方移動が行われているケースによく遭遇します。
”限度を超えた!とはどういうことなのか?限度を超えると何が起こるのか?”を理解した上で治療しているとは思えないケースがたくさんあります。

多くの場合、第二大臼歯(親知らずを除けば一番後ろの歯)が犠牲になります。移動量の多少に拘らず、後方移動が第二大臼歯の萌出に多大な悪影響を及ぼす詳細なデータもあります。成人の場合、第二大臼歯が、周囲に骨のない場所へ追いやられます。小児期の後方移動の際の診査は特に重要といえます。7番が埋まったまま、それも横に向いて萌えてこれない状態になっているケースをいくつも見てきました。

私たち歯科医は、模型上の歯列の診査は、単なる指標の一つにすぎないというスタンスが大事です。上下顎骨の位置、形態、大きさとともに、小児の場合は、成長・発育余力の診断をしなければいけません。そして、軟組織はとても重要です。セファロ分析とと側貌写真の評価のどちらを信用するかといえば、もちろん側貌写真です。

欧米で発達してきたワイヤー・シークエンスの手法が、日本人には馴染まない場合も多いです。
Dolicho facial(長顔型)かBrachy facial(短顔型)か、あるいは、Mesio facial(中顔型)なのかの顔貌評価に始まり、正面と側貌セファロから骨格や歯牙の位置の評価をします。

今回は、治療法の話は、全くしませんでした。
家族暦のある骨格性反対咬合への早期アプローチに、チンキャップを使用していますか?という質問を先日ある歯科医から受けました。私の場合、イエス&ノーです。
ムーシールドを使っていますか?この質問に対しても、イエス&ノーです。適応症があります。治療の話は、またの機会に・・・・・。