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第43回 最良のブラケットとは?

ブラケットとは、矯正治療時に歯につけるボタンのようなポッチのことをいいます。ブレースともいいます。
現在、多種多様のブラケットが世の中に出回っています。使用するテクニックの違いによって使い分けが必要です。

では、”どのブラケットが最良なのか?””患者さんにとって、術者にとって最善のブラケットとは?”
このテーマに絞って話を進めてみたいと思います。

患者さんが考える良いブラケットと、術者が考える良いブラケットには、少し温度差があります。
患者さんにとっては、目立たず、違和感が少ないものが理想なのですが、術者側からすると、どうしても治療効率ということを一番に考えてしまいます。目的とした方向へ早く確実に動くブラケットが一番優れている、ということになります。

私は、矯正治療を始めて10年を過ぎました。治療を始めた当初は、あまりにいろいろなブラケットが市販されているので、正直どれが良いのわかりませんでした。講習会にいけば、その講習で使用したブラケットの優れた点を強調しますし、メーカーの製品カタログには、自社製品の優れた点を強調している記載しかないのが実情です。

結局、いろいろなブラケットを自分で使用してみて、自分で評価するしかない、と思いました。
歯を動かすテクニックによって、使用するブラケットが違う場合も多く見られますので苦慮した記憶があります。
ですから、20種類以上は試しました。いろいろなブラケット、いろいろなテクニックで100症例ほど行った頃に、何となく各ブラケットの特徴が自分なりにわかってきた気がしました。

臨床医、開業医というのは、最終的には自分で判断、評価するしかないと常々思っています。ある人物に勧められた製品やテクニックを自分で試してみたがうまくいかないことはしばしばあります。そのテクニックの基本的な特性、特徴を押さえた上で、自己流にいかにアレンジしていける能力があるかないかがとても重要な点だと思っています。

ですから、現在では、私の場合、同じ患者さんでも、歯牙によって装着するブラケットの種類を変えることはしばしばあります。上下顎前歯の8本はAという製品、上下顎犬歯4本はBという製品、奥歯はCという製品、なんていうのはざらです。
カタログ上は、右側の歯牙に使用するよう記載されているブラケットを、意図的に左側につけることもしばしばあります。治療上有効だからです。
術前の歯牙の位置を念頭に、治療する上で動かす方向を考え、ゴールの歯並びをイメージして、各ブラケットの特徴を最大限引き出せる製品を使用します。

では、具体的な症例でお話してみたいと思います。

ブラケットの色ということで言えば、図Aのような金属色の製品と図Bのような白色、あるいは乳白色の大きく2種類が存在します。
 ただ、金属色(銀色)の場合は、成分としては、通常ステンレスとスチールの合金でできているのですが、アレルギー体質の方には、チタン製のブラケットも製品としてあります。金属製の最大の長所は、ワイヤーとの摩擦抵抗が少ない(ローフリクションという)です。弱い力で歯牙が動きやすいということです。術者サイドからの治療効率という点では、メタル製品がベストといえます。

 図Cのようなおしゃれ感覚で星型やハート型のメタルブラケットも発売されています。 一方、メタルブラケットの唯一ともいえる最大の欠点は、審美的に悪いという点です。歯牙の裏側に使用するブラケット(図D)は、全てメタル製です。
 メタルブラケットは、どんどん小型化されています。

最近は、成人の方の矯正のニーズが増えましたので、現実問題として、メタルブラケットは敬遠され、好まれない、といえます。ほとんどの方が白いブラケットを選択されます。

白いブラケットの種類としては、セラミック図E)、プラスチック、すりガラス状、ジルコニア(人工宝石)、グラスファイバー、溝だけメタルのセラミックやプラスチック(図F)などがあります。製品自体の強度を増すために、メタルよりも一回り大きくなりますので、異物感がどうしてもあります。プラスチックは安価ですが変色や磨耗しますので、あまり使用されていないのが現状だと思います。
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図Eのように、白いブラケットに白いワイヤーを使用すれば、表側からの矯正でも、ほとんど目立たなく治療が可能です。但し、白いワイヤーは表面を白い塗料でコーティングされたものなので、微妙な凹凸があり、フリクション(摩擦)が大きいことや、トルクが効きにくいので、治療の初期や軽度の叢生の方しか使用できないという欠点があります。

”目立たない装置”とか”舌側からの装置”を希望される割合が、欧米人に比べ、日本人は圧倒的に多いのです。
欧米人は、思春期(中、高校生)の時期にほとんど矯正治療を終了してしまいます。経済的余裕のない層の人は治療自体ができませんので、治療していることが、逆にステイタスのようになっています。ですから、目立つ装置を好む傾向にあります。

日本の場合、小児期の矯正治療の重要性の認識が浸透しておらず、成人になってから一丸発起して治療される方の割合が多いため、仕事や周囲の目などの社会的制約から、どうしても目立たない白いブラケットを使用するようになります。

色と材質の話は、どこの歯科医院でも話題になりますし、聞くことが可能です。ネットで調べれば、確固とした情報として入手できると思います。

次に、もう少し専門的な話をかみくだいてしてみたいと思います。
”ブラケットの形状”についてです。

実は、実際治療を行う際のメカニクス、テクニックによって、ブラケットの形状が違います。というか変えないといけません。
患者さんが装着しているブラケットを、知識のある歯科医が見れば、どんなシステム、テクニックで矯正治療を行っているかすぐにわかります。歯科医サイドからいえば、ブラケットの選択は、治療の質にかかわる重要な要素なのです。

Aさんという方には、どのシステム、どのテクニックで治療するのが一番適しているのか?を考えた上で、ブラケットを選別します。

舌側矯正に使用するブラケットを除くと、現在90%以上の歯科医が、エッジワイズブラケットに改良が加えられたもの(図G)を使用しています。図Gのようにワイヤーの入る溝(スロット)は角型をしていて、4つのウイング(引っ掛け)がついたツインタイプのものが基本的な構造です。ウイングが2つのシングルタイプのものもあり、シングルとツインを組み合わせることにより、治療効率が上がることもしばしばあります。

図Gの溝の部分を拡大したのが、図Hです。
溝の形状である深さ(図Hの青線)と溝の縦の長さ(図Hのピンク線)の規格が2種類あります。
0.18(縦)×0.25(深さ)0.22×0.28の製品です。単位はインチです。症例によって溝の大きいものと小さいものを使い分けします。溝の大きいもの(0.22×0.28)は、細いワイヤーと太いワイヤーの2本を同時に入れることが可能なので、バリエーション豊富な治療法ができるという利点がありますが、太いワイヤーサイズを使用する時のフォースコントロールに気をつけないと、患者さんが苦痛を訴える場合があります。

一方溝の小さいブラケット(0.18×0.25)は、細めのワイヤーを使用しますので、弱い力しか歯に作用しないため、患者さんにはやさしい治療なのですが、治療法のバリエーションが限られるという欠点があります。
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ブラケットを全歯牙に装着してワイヤーを組み込むシステムを、マルチ・ブラケット・システム(MBS)といいます。
MBSのの主流であるエッジワイズ法の中には、ストレートワイヤー、バイオプログレッシブ、マルチループ、ツイード、レベルアンカレッジ、等があり、使用するテクニックによってブラケットの使い分けをします。各テクニックの特徴については、使用するワイヤーやベンディング(屈曲の仕方)の話になりますので、次回以降にワイヤーとのからみの話としてしようと思います。今回は、ブラケットの話を中心にお話します。

ストレートワイヤー法一つとっても、開発者の名前から、ロス、アレキサンダー、アンドリュース、リケッツなどがあり、ベース面(歯牙と接着する面)と溝との角度に固有の特徴があり、仕上がりの歯列形態、個々の歯軸に差が出ます。

エッジワイズ法とは別の主流であったベッグ法というのがあります。現在、ベッグ法は少数派ですが、ベッグ法の良い点をエッジワイズ法に取り入れたティップエッジ・ブラケット(後述します)というのもあります。

線路に例えるなら、レールがワイヤーであり、車輪がブラケット、列車が歯牙ということになります。レールに沿って歯牙を移動させるのですが、動かす方向、動かす量によってブラケットを替えた方が効率よく移動します。一番問題なのが、ブラケットとワイヤーとの間に生じる摩擦抵抗(フリクション)をいかに抑えるか!です。

症例によって、あるいは同じ患者さんでも歯牙によってブラケットの種類を変えることにより、効率よく治療が進みます。

当医院の症例で見てみましょう。
図Iは、前医院で両側上顎第一小臼歯(4番目の歯牙)を抜歯して矯正治療したが、最近あと戻りして来られた方です。上下全歯牙に、ロスタイプでツインのエッジワイズブラケットを装着しました。一番使用されているブラケットです。上下非抜歯の場合によく使用します。

図Jは、図Iの一部分を拡大したところで、右側は溝だけ金属のセラミックブラケットを使用しています。トルク(歯根の移動)を効かせるのには、溝はメタルのほうが良いです。セラミックですと、太めの断面が角のワイヤーを押し込む時割れたり、自宅で”パキッ”と音がしたと言われて急患で来院され、割れていることがあります。

セラミックブラケットは、審美的に優れている、という点を除いては、治療上の利点はないといえます。すべり(フリクション)がメタルに比べると悪いです。
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図Kは、全歯牙メタルです。拡大した図Lを見ますと、3種類の違うブラケットを使用しているのがおわかりいただけると思います。
青丸は、リケッツのツインのエッジワイズブラケット緑丸は、アレキサンダーのシングルタイプピンク丸は、ティップエッジブラケットにしています。
犬歯(青丸の歯)は、歯並びにおいてキーとなる歯です。犬歯の歯の傾きをどのように仕上げるかは、顔貌や口元、、各歯牙の形状によって替えるべきです。犬歯を目立せるのか?控えめな目立たない犬歯にするのか?によってブラケットの種類を替えています。

シングルタイプ(緑丸)は、ワイヤーの弾性をほとんど損わないので、私の場合、小臼歯に使用することが多いです。スライディング・メカニックスを使用する時に多用します。

ティップエッジブラケット(ピンク丸)は、抜歯症例に有効で、抜歯スペースを早く閉鎖するのに適しています。歯をワイヤーに沿って平行に移動させるのではなく、ローフォースで歯冠部だけをまず傾斜させて移動させ、抜歯スペース閉鎖後にトルク(歯根部を動かす)をかけて仕上げていきます。アンカーロスが最小限にできるメリットがあります。

別の症例ですが、図Mの方は、初診時上顎前突でした。前歯を引っ込めるために、黄色丸(第一小臼歯)を抜歯しました。
 図Nの青矢印の方向に、前歯6本全体を後方へ移動することが治療のメインな部分です。ティップエッジブラケットを使用すると6本同時に後方へ移動できます。青矢印の方向へまず傾斜させながら移動させます。ローフォースで移動しやすい構造になっています。

図Oが前歯の後方移動がほぼ完了して抜歯スペースが閉じたところです。図Nから図Oまで、5ヶ月を要しました。図O青丸のインプラントをアンカー(固定源)に使用することにより、奥歯が前方に来ることはありません。
 
この症例をティップエッジブラケットを使用しない場合は、両側犬歯だけ移動して残り4本をその後移動する方法になるので、治療期間が倍かかってしまいます。
 その後、図Pの青矢印の力(トルク)がサイドワインダーという部品を各歯牙につけることによりかかります。
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図Qは、5年ほど前に開発、製品化され、改良が重ねられている、私が現在一番頻用している”デーモン3”というブラケットです。
通常、ブラケットとワイヤーは、けっさつ線(ワイヤー)かけっさつ用のゴムで固定します。どうしてもフリクション(摩擦抵抗)が生じます。
デーモン3は、図Rのようにスライドさせてスロット(溝)を閉じる形状になっていますので、けっさつしません。ワイヤーは、スロットの中で、自由に動ける状態(パッシブ・セルフライゲーションという)です。ローフォースでローフリクションが持続されますので、歯に非常に優しいといえます。スライディング・メカニクスでの治療には、非常に有効なアイテムです。

私は、このブラケットを使用しだして1年足らずですが、トータルの治療期間が短くなるという実感はあまりないのですが、来院回数が少なくなるのは確かです。

シンプルな形状のブラケットからティップエッジやデーモンのような若干メカニクスとテクニックを知った上で使用すべきブラケットを使い分けたり組み合わせることにより、治療効果、治療効率が格段に上がることは間違いない、と考えています。