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第39回 抜歯?非抜歯?大臼歯(奥歯)の後方移動は難しい!②

前回歯並びの話 第38回大臼歯(奥歯)の後方移動は難しい!・・・①の続きの話をしていきたいと思います。

 今回も写真が多めです。視覚的にとらえてもらうことで、一般の方でも十分理解ができる内容になっていると思っています。文章だけですと、とてもつまらいページになってしまいます。編集には、かなりの時間を割いていますが、治療経過の閲覧が当サイトの特長ですので、今後も、情報の発信をできるだけ多くしていきたいと思っています。
 非抜歯で治療を行う場合、前方、側方、後方のいずれか、あるいは2者、3者の方向への拡大を行わないときれいな歯列になりません。前方や側方への歯牙の移動は、いろいろな装置で比較的簡単に行えますが、後方への移動は、各種装置がある反面、一長一短というか、万能な装置がない、という現状があります。注意点が多くあることも、前回お話しました。歯牙年齢を考慮して、適切な装置を選択する必要があります。

奥歯(大臼歯)を後方へ動かす場合、どんな装置を使用しても、反作用で前歯が前方へ移動しようとします。完全な固定源(動かない場所)をつくることはできません。小臼歯を固定源にしたいところですが、大臼歯を後方移動したい時期は、大抵小臼歯が萌出直後か、萌出中のため利用できないことが多いです。
 前回お話したGMDペンデュラムが使用できない時期でも利用可能なBDA(バイメトリック・ディスタライジング・アーチ)という装置の症例をご紹介したいと思います。
症例1は、10才の男の子です。上下顎とも叢生(乱杭歯)でした。最初は、可撤式の装置(床装置)で治療していたのですが、装着時間が短かすぎて、なかなか治療が進まず、半年が経過しました。
 しかたなく、固定式の装置にして、図A(上顎)の状態まで治療が進みました。治療前から図Aの状態までの治療経過は、今回のテーマからずれますので、省略します。
 図Bの左右赤丸の位置に生えるべき犬歯のスペースが足りませんでした。犬歯の後方の歯牙である小臼歯は、萌出途中だったためため、固定源として利用することができませんでした。ヘッド・ギアーと呼ばれる顎外装置で、口の外から大臼歯を後方へ押すことは可能ですが、床装置を装着してくれないのに、ヘッド・ギアーを装着してくれるはずはないと思い、固定式の装置でなにが利用できるか、悩みました。
 今回は、図Cの黄色矢印の方向に第一大臼歯を移動させる方法に、BDAを使用してみました。BDAは、実は、結構昔に開発された装置なのですが、私的には、適応症を選べば、非常に有効だと、今回強く感じました。一石二鳥いや三鳥といえるくらい、いくつかの作用を同時に期待することができます。
 小臼歯を全く利用しなくていいこと、そして、顎間ゴム(上下の歯列をつなぐゴム)さえ、きちんと装着してくれれば、アンカーロスである前歯の前方移動は、全く起こりません。それどころか、前歯の後方への移動も若干おきます。
 図DがBDA装着2ヵ月後で、犬歯の萌出スペースがほぼ確保されたところです。
 図Eが歯列全体をコーディネートし終わったところです。
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図F(右側面観)、図G(左側面観)は、BDA装着直後です。左右ともに、犬歯の生えるスペースがないため、かなり上方から萌出しようとしています。
 犬歯の生えるスペースを確保するため、大臼歯の後方移動をBDAにて開始しました。
 「BDAによる上顎大臼歯の後方移動のメカニズム」についてですが、図Hのように、装置は上顎4前歯と第一大臼歯のみに装着します。青矢印のループ(オメガループという)と、緑矢印のスプリングの開く力で大臼歯の後方移動を行います。調整もこの2箇所を口腔内で行うことが可能です。
 反作用として、前歯が前方へ動こうとする力に対しては、黄色矢印の上下にかけたゴム(Ⅱ級ゴムという)の力で抵抗させます。上顎犬歯のフック(赤丸)と、下顎後方の第一大臼歯にかけたゴムの力で下顎を前方に誘導できます。
 BDAの最大の長所は、前歯と大臼歯の間にある小臼歯を全く利用する必要がない点です。前歯4本とゴムの力をアンカー(固定源)として上顎大臼歯を後方移動できます。
 また、上顎前突の症例の大半に見られる下顎後方位の是正(前方誘導)も同時に行えます。
 さらに、過蓋咬合(かみ合わせが深い)に対しても、下顎大臼歯の挺出(歯牙が歯茎から出てくる)が起こり、正常咬合へ導けます。一石三鳥といえます。
 図I, 図Jが、BDA装着2ヵ月後です。犬歯の生えるスペースができたため、自然に定しい位置へ萌出してきています。ゴムの作用により、咬み合わせも少し挙上され、過蓋咬合も改善されつつあります。
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図K図LはBDA装着3ヶ月です。犬歯の萌出スペースが確保されたため、全歯牙にブレースを装着して、歯列を整えています。
 今回のテーマからはずれますが、下顎は、リップバンパーという装置で、第一大臼歯の後方移動を行っています。口唇力を利用した装置で、固定式、術者可撤式、可撤式と装着方法を選択できる、という利点があり、混合歯列期には頻用されている装置です。
正面観で治療経過を見てみますと、図Mが治療前、図NがBDAを3ヶ月装着した後です。
 下の前歯が見えるようになっていることから、咬合が挙上されていることがわかると思います。犬歯もスペースができたため、自然萌出して、歯列上へ並びつつあります。
 今回の症例では、BDAの作用により、十分なアンカーの下、上顎大臼歯の後方移動はもちろんのこと、咬合の挙上、下顎骨体の前方への誘導も合わせて行えました。
下顎の歯牙移動の話も少ししておきます。図Oが、レベリングといって、理想的な歯列弓上へ、ほぼ各歯牙を並べたところです。
 ところが、実際は、図Pの黄色矢印のところに、もう1本歯牙が生えるスペースが必要です。そこで、図Pの矢印のところにスプリングを入れて、大臼歯の後方移動を開始しました。
 約2ヶ月後が図Qです。頬側からだけ後方へ押すと、第一大臼歯が回転しやすいです。
 そこで、2ヵ月後から、リップバンパーに変更して、回転させることなく、後方へ移動させる装置にしました。図Rがさらに2ヶ月経過したところです。小臼歯1本分の生えるスペースは確保されました。
 今後は、牽引装置にて、歯牙を強制的に引っ張り出すことを、計画しています。
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BDAという装置は、症例によっては、使用してはいけない場合があります。例えば、咬合を挙げてはいけない「開咬」の方とか、「下顎骨を前方へ誘導してはいけない症例」、また上顎前歯が挺出(下へ降りる)傾向にありますので、「ガミースマイル」といって、笑った時に歯茎がよく見えるタイプの方などには禁忌症です。
 ただ、「叢生」で「上顎前突」で、後方移動が必要なケースの大半が症例1のようなBDAの適応の方です。
 他の後方移動装置が使用できない時期(小臼歯を利用できない時期)には、非常に有効と考えます。 注意点としては、ゴムの装着は必須です。また、ゴムの強さを、適切に指導することも大切です。
 いつも申し上げていますが、数ある矯正装置のどれをどの時期に使うか?適材適所で使用できるか?が、歯科医の腕の見せ所といえます。


症例2の方の図Sが、治療前の上顎の咬合面観です。
成人の男性です。矯正治療を手がけた方ならわかると思いますが、一言で言うと、かなりの難症例です。
 図S黄色の場所の歯牙左右1本が既に抜歯されており、スペースが閉じていました。子供の時(10才くらい)に抜歯して少し矯正をしていたそうです。
 図Tが、横からの口元のアップで、重度の上顎前突(出っ歯)でした。下顎は、ほぼきれいな歯列弓の形態をしていました。ということは、非抜歯で上顎前突を改善するためには、後方への移動を13㎜もしなくてはなりません。前突が半端でないため、こういうケースの場合、通常上顎の歯牙を左右1本づつ抜歯して後方へ移動するのが一般的です。側方への拡大は、下顎歯列弓が正常なため、できません。
 ところが既に2本抜歯していますので、まさかもう2本抜歯しましょう、とは患者さんにはいえませんし、実際の治療方針としても良いとはいえません。
 小児期の抜歯による矯正治療で、結果として全く歯列不正が改善されていませんので、抜歯しての矯正には抵抗感が強いのは当然です。抜歯しての治療計画の話はできませんでした。ただ、非抜歯ですと、上顎大臼歯の後方移動を左右とも13㎜くらいしないと、正常な咬合関係になりませんし、前突が改善されません。成人であることも考慮すると、とてつもなく大きな移動量なんです。反作用によるアンカーロス(前歯群の前方移動)はただの0.5㎜でもあってはならない症例です。
 そこで、装置としては、図UGMDを用いました。GMDの詳細については、前回<第38回 の歯並びのページ>で触れましたので省略します。図Vが治療3ヶ月目の右側面観です。上顎の前突観が、かなり改善されてきているのが、お分かり頂けると思います。
 注目してほしいのは、図Vのアップの図Wです。 
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図Wの黄色丸は、骨内に埋め込んだ小さなインプラント(人工歯根)です。矯正治療に使用するインプラントについての詳細は、<歯並びの話 第30回 最新の治療法(インプラント矯正)をご覧ください。インプラントは、通常固定源(動かない場所)として使用します。絶対に動かない場所(黄色丸)と、青丸の歯牙を細いワイヤーで固定することにより、前歯群が前方へ移動してしまうことは絶対ありません。症例2のように、わずかなアンカーロスも起こってはいけない症例には、インプラントは非常に有効です、というか、これしか方法がないといえます。アンカーロスのことを考慮する必要がないというのは、画期的といえます。
 矯正治療に使用されるインプラントは、ここ1~2年で急速に普及しています。形状、大きさ、長さなどを、用途によっていろいろ選べるようになってきました。あくまで私見ですが、メリットだらけで、デメリットは材料代がかかるくらいで、ほとんどない、といえます。 臨床上は、なくてはならないアイテムです。あと1年もすれば、インプラントを使用しない歯科医はいなくなるのではないでしょうか?
 
 当医院でも、成人の方の場合、インプラント矯正については、全ての方に説明をしています。3人に1人くらいの割合で使用している現状があります。また、近いうちに、症例を上げて、説明させて頂きたいと、思います。

 大臼歯の後方移動は、非抜歯治療を前提とする場合、どうしても必要なケースが増えてきます。術前の正確な診断と、治療計画、そして、適切な装置の選択が、最も難しいといえるのではないでしょうか?