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第25回 上の一番前の歯が生えてこない!

歯列不正は、幼児期、小児期に始まります。ですから、異常が見つかれば、できるだけ早く軌道修正して、正しい成長、発育のレールの上へ乗せてあげることが重要です。

 親御さんが気づいた時には、すでに必ずといっていいほど何らかの異常が起きています。私たち歯科医は、口の中のことに関しては専門家ですので、親御さんが気づく前に指摘できなければいけないですし、適切な処置を施せることが当然と考えます。

 下記に提示した症例の患者さんは、他院で
「永久歯に生え変わるまで、様子を見ましょう」と言われたが、不安に思い当医院へ来られた患者さんです。歯列不正に関していえば、放置していて自然治癒することはありません。 
11才の男の子です。上の一番前の歯(中切歯という)2本が生えてこないことを主訴に来院しました。

 個々の歯の名称については、歯並びのページの第14回 「理想的な歯並びとは!・・・(前歯編)」をご覧ください。

 図Dが正面観です。図Cが上の歯列、図Eが下の歯列です。

 まず、上の歯列についていえば、中切歯の横の歯(
側切歯という)が左右ともにほぼ生えているのに、中切歯がまだ生えていないのは、正常とはいえません。

 また、右上側切歯(向かって左になります)は、下の歯の後ろ側(
反対咬合)に生えています。また、歯が並ぶスペースが不足しているため、乱杭歯状態になっています。以上大きく3つの問題が発生しています。

 下の歯列(
図E)については、乱杭歯という状態です。

 
図Aは、横顔で、黄色丸のアップが、図Bです。上の前歯が、下の前歯より2~3㎜前方にあるのが正常ですが、上下の歯が揃った感じになっています。上顎骨の劣成長が起こっているといえます。
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e20
もし、放置しておくと、上下の歯のガタガタがさらに悪化するとともに、中切歯が生えないことから、上顎骨の前方への成長がさらに抑制されますので、口元(特に上唇部)が貧弱になり、鼻の下がへこんだ感じになり、顔貌への影響が計り知れません。即刻治療を開始しました。

まず、上下ともに、歯が並ぶスペースが不足しているので、可綴式(取り外し)装置にて、側方拡大(左右へ拡げる)を行いました。図F、G、H、が上顎の2ヶ月間の治療経過、図I、J、Kが下顎の3ヶ月間の治療経過です。

 
図C図H 図E図Kを比べると、かなりスペース不足が解消されているのがおわかりいただけると思います。

 実は、上顎については、側方への拡大が目的ではなく、
正中口蓋縫合(詳細は、「第24回外科矯正って・・・???②出っ歯(その他)」をご覧ください)への刺激、若干の離開を促すことにより、未崩出中切歯周囲の歯槽骨の活性化に主眼をおいています。

 下顎に関しては、
図Kに認められる中切歯間のスペースを利用して、ほぼ乱杭状態からは回避でき、理想的な歯列弓への仕上げをすればよいだけです。
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i16
g16
j13
h17
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上顎については、外科的に中切歯を引っ張りだしました。最初にお話しましたように、側切歯がすでに生えているのに、まだ中切歯が生えていない場合は、自然にはまず生えてきません。

図Lのように、切開を加え、図Mのように、歯ぐきを反転させて埋伏している中切歯を露出させます。

 骨性の癒着
アンキローシスという)している場合が多いため、慎重に亜脱臼させた後、被覆されていた歯ぐきを除去した後縫合します。図Nが術後1週間です。

 次に、予め用意しておいた
牽引装置図O)を口腔内に装着して、ゴムで上方へ引っ張り挙げます。牽引は、非常に弱い力で行わなければいけません(図P)。

 
図Qは、図Pを拡大したところです。装置は、かみ合わせたとき、下の歯と当たらないよう、また、牽引方向をある程度変えれる設計しておく必要があります。

 図Rは、2ヶ月経過し、中切歯がかなり出てきたところです。右上側切歯(画面上では左)は、下の歯に対し、反対咬合になっていたため、裏側から唇側(前方)へ押すワイヤーを組み込んでいます。

 図Sが、ほぼ中切歯の牽引が終了したところです。この状態になるまでに、初診から5ヶ月かかっています。 その後は、MFT(咀嚼訓練)を行いつつ、通法による第一大臼歯(6歳臼歯)の遠心(後方)移動を行い、叢生の改善を行い、下顎(図T)との咬合の緊密化をはかりました。図S、T以降の治療経過については今回お話したいテーマーと少しずれますので省かせていただきます。

 歯を牽引(引っ張り出す)する際の外科処置、および、装置の設計、方法には、いくつかのポイントがあります。年齢や、残存歯牙の状態によっては、牽引方法を変えなければいけない場合も多々あります。
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t
歯の生える順番には、一定の法則があります。歯科医ならだれでも知っています。小児期の異常は、小児期に取り除き、歯列の正しい育成をする、というのが矯正治療の常識になりつつあります。「様子を見ましょう!」というような、無知からくる無責任な歯科医がいることは残念でなりません。

 私たちホームドクターは、専門家として、正しい知識を、年齢や、その時々に応じて、来院された方に提示できるだけのあらゆる分野の知識を習得しておきたいものです。治療するかどうかは、最終的に患者さん自身が決めればいいのです。

 現在では、矯正治療と外科処置は、表裏一体といえます。コルチコトミーやインプラント矯正も必須のアイテムとなってきました。

 虫歯や歯周病が予防に重点がおかれるようになっているように、矯正も治療から予防の時代に入りました。「病気を未然に防ぐ!」、というのが医療の理想像です。

 十分な知識がある歯科医が診れば、就学前(小学校入学前)に、間違いなく将来の歯列不正の有無がわかります。