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第176回 インプラント講演会に参加して・・・

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この連休(10月9日、10日)は、I社主催のインプラント講演会に参加した。1000人以上が参加予定で登録していた、というから驚きとともに、I社の勢いを感じずにはいられなかった。

メーカー主催なのでしかたないのだが、多くの演者が商品の宣伝的要素をふんだんに盛り込んだ内容のため、営業トークが多かったのは残念である。新しい器具や術式を利用しての低浸襲が売りの成功事例を並べられても、欠点やリスクマネージメント・リカバリー法などをセットで話してもらわないと、即臨床に応用するのは難しいと言わざるを得ない。

テクニカルセンシティブな要素が多いと、万人に浸透する術式には成りえず、やがて誰もやらなくなる、というのが摂理であろう。

「最新・最先端=最良」とは限らないことは何処の世界でも言えることで、私たちは時として治療という名の下、人体にメスを入れるのであるから、限りなく100%に近い成功率を目指した安全な術式を第一選択肢にする、という姿勢が大切と思う。

もちろん、トレンド的な手技・術式の情報収集に常にアンテナを張り、自身の知識・経験から冷静に判断し、患者さんに迷惑がかからないところから臨床応用し、ステップアップしていく向上心・向学心も大事である。

インプラント関連の講演会の臨床ケースを見ていると、”なぜその歯を抜歯したの?残せるのでは?”という素朴な疑問が沸いてくる場面によく遭遇する。そして欠損部は、ほぼ100%インプラント補綴がなされている。今回の発表でも多々見られた。上部構造は、ほぼ100%最後臼歯までセラミック系の材料によるセメント合着である。とても違和感を感じた。

”For the patient(患者のために) ”とか、”POS(患者主導:Patient Oriented System)”という言葉を講演で安易に使う歯科医がいる。POSという考えの下臨床を行っているなら、現実論として全ての患者が欠損部へのインプラントを希望するはずがない。ましてや中間欠損がとびとびに点在するケースなら、力学的にブリッジで全く問題のないことも多々存在する。

この土日のインプラント講演会、そしてこの商業思考の強い講演内容に1000人以上集まることは、閉塞感のある歯科界がインプラントにすがる思いが強いことと、行き場のない溜まり場となっているように思えた。

私と同じように違和感を持った歯科医が会場に何人くらいいたであろうか?
自身が参加したにも拘わらずなぜ批判的な感想を述べているのかといえば、インプラント以外のオプションと並列で治療計画を立案したとは思えないケースが次々にプレゼンされたことが一番の要因で、本当に残念である。

また、当クリニックへのインプラント関連のトラブルで来院される方が急増している(毎月数名は来院される)ことを考えると、全国のどれほどの方に問題が起こっているのだろう、と危惧してしまう。

もちろん誠実な臨床をされていると推察された少数の演者もおられた、ことは付けくわえておきます。

極論を言えば、歯科医(術者)の経験の有無に拘わらずインプラントの10年生存率は95%以上である。しかし成功率は80%前後で、術者の技量・知識、補綴物の作製・調整法の差異、メインテナンス法や術後の外部因子や環境変化によっては、それ以下の成功率に甘んじているという事実がある。

インプラント治療後のトラブルシューティング(特にインプラント周囲炎)についてのガイドラインはなく、特効薬もないのが現実である。

私たち歯科医は、インプラント治療のマイナスのインフォフォメーションを治療前に患者さんに十分行い、リスクについても共有する、という真摯な姿勢が求められている、と改めて感じた。