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第143回 インプラントを考える前に・・・

歯や歯周組織に問題が起こり、”歯の保存が可能か否か?”の判断に迷うことは、歯科医なら日常臨床において毎日経験する。しかし、現実には、”抜歯か非抜歯か?”の判断が担当の歯科医の裁量に委ねられているのが現状であろう。

下記の患者さんは、前医にて約6か月前に一度赤丸の歯に歯根端切除術(歯の根尖部の病巣を除去する外科療法)を行っており、再発したため、抜歯してインプラント!を勧められたとのこと。他の治療法はないのか?とのことで当クリニックに来院された。
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A

患者さんとしては、状況にもよるが、歯科医に抜歯と宣告された時、”できることなら歯を保存をしてほしい!”という素直な共通の想いがあるのは当然である。
歯科医療のプロである私たち歯科医は、その歯を保存することによる将来的な不確定要素も含め、十二分に患者さんと相談の上、歯の保存のために多種多様な治療選択肢を提示する義務があるのではなかろうか?。

”問題を抱えた歯は抜歯してインプラントにする!” という風潮がまかり通ることは絶対あってはいけない。インプラント治療の利点を踏まえた上で、歯の保存への取り組みこそが歯科医の力量が試される場面で、最も精力を果たし、研鑽していくべき分野であることを強調したい。

今回提示する2症例は、前医では保存不可能で、”抜歯してインプラントにしましょう!”と言われた歯である。第一症例の初診時の上図Aと、さらに病態の複雑化し悪化した第二症例について治療経過及び考察を加えてみたい。
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B

図Bは、第一症例の治療経過のデンタルX線像である。結論から先に言えば、当該歯は抜歯せず、2度目の”歯根端切除術”を施行しました。施術後6カ月では、病巣だったエリアへの骨梁の形成及び歯根尖周囲に歯槽硬線が明瞭化していることから、良好な治癒をたどっていると考えられる。
現在1年以上経過しているが、歯周組織は安定していて、咀嚼等の機能的な問題はなく、再発もなく推移している。患者さんの満足度は非常に高く、3か月後に来院時、良好な治癒経過をたどっていることを説明した時には、先生に出会えてよかった!と涙ぐんでおられました。


治療経過ですが、当該部位への歯内外科療法(歯根端切除術)は前医が行った後の2度目のアプローチになるため、”根尖周囲の感染源を絶対に残さない!根尖部の封鎖を確実に行う!”ことが最も重要である。

図C、Dのように、出血のコントロールをした上で、マイクロスコープを使用して徹底的な骨面の掻爬、歯根面のデブライトメントを行った後、汚染されていた歯根尖部約1.5㎜を切断し、ProRoot MTMで逆根管充填し封鎖した。

この際、歯根の裏側(口蓋側)をマイクロスコープ専用のミラーで観察し、感染した肉芽の取り残しがないことを8倍程度の拡大視野で確認しておくことがポイントである。文献的にも、再発の大半は歯根の口蓋側の見落としが指摘されている。

外科の基本は、直視・直達での処置である。根尖部は、拡大視野でマイクロインストュルメントを使用することにより清掃状態が確認できる。そのことにより予知性の高い治療結果が残せると考えます。
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C
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D
第ニ症例であるが、当クリニック初診時の上顎前歯部のデンタルX線像が下図Eの状態であった。

赤線を引いた歯の根尖部に大きな病巣(透過性の骨欠損)が認められた。この方も、前医にて歯根端切除術が一度行われいて、前医からの紹介であるが、第一症例との大きな違いがあります。前医では保存不可能との診断で、抜歯してインプラント治療をしてもらうよう依頼されて来院された。
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E

第一症例と異なり、右上2の根尖部の透過度が濃いことから、唇側から口蓋にかけて全く骨が存在しないと推察できます。右上1、左上12にも根尖部に病巣が存在します。

図FのCT画像は、図Eの赤線での切断面(断面像)です。歯槽骨が高度に水平・垂直に吸収していることが見て取れます。

もしこの歯を抜歯したとしよう。そしてこの場所にインプラント治療を行うとしたら、とても難易度が高いことは確実である。抜歯により歯根膜を失った周囲の歯槽骨は見るも無残に無くなり、両隣在歯と調和のとれた修復処置を行うのは、至難の業である。
この場所に審美的なインプラント補綴ができる!と断言できる歯科医が全国に何人いるだろう?皆無に近いと断言できる。

私は、再度の歯根端切除術を行うこととした。口蓋側まで大きく骨欠損が進行している場合、病巣の除去+骨造成が必要となる難易度の高い処置である。

図Gの左上の写真が右上1~3相当部の唇側面観で、前医が行った外科処置時の瘢痕(スカー)が残存している。図Gの右上の写真では、右上2の口蓋側に瘻孔(フィステル)が存在することから、口蓋の骨にも欠損が波及していることが観察できる。

瘻孔の多くは骨幅の薄い唇側にできるのだが、口蓋側にできていることから相当量の骨量が欠損していることが推察できる。図Gの左下の写真は、右上12部の病巣を除去し、欠損部へ填入する補填剤を濃縮フィブリンと混和して準備しているところである。

図Hでは、骨欠損のある口蓋側の壁として使用する2枚折りにした遅延性の吸収性メンブレンを置いているところである。もちろん根尖周囲の感染源の徹底的な除去と、歯根端切除した根尖部の確実な封鎖が前提である。
確実なステップを踏んだ操作を行うためには、出血のコントロールを確実に行っている点も見てほしい。

図Iでは、補填剤を填入し、さらに上皮が入り込まないようバリアの役目となるメンブレンを敷き、縫合を行った。一つ一つの操作を確実に行うことが、結果に結びつくと考えている。もちろん全ての処置は、マイクロスコープ下(4~8倍)で行っている。
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図Jが、当該部位のレントゲン像の経過である。術前に比較し、3カ月後には、右上12根尖部は、骨様不透過像に置換されつつある。10か月目には、新生骨に大部分が置き換わっているのが観察できる。経過は非常に良好である。
患者さんは、前医では抜歯!と診断されたのに歯を抜かずに済んだことに、何度も何度も感謝の言葉を言って頂きました。歯医者冥利につきる瞬間です。

上記の2ケースのような方の治療を行うと、やはり歯医者は、”歯を残してなんぼ!歯を残して長持ちさせることに全精力を傾けるべき!”で、そこに仕事のやりがいを見出さなければいけない!と考えてしまいます。


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歯を残すために、泥臭く複雑な治療経過を経なければ良好な治療結果を得ることができない場合も多々あります。

患者さんが歯科治療に何を望んでいるのか?どのような治療結果を望んでいるのか?歯1本1本へのこだわり・執着はどの程度あるのか?などを十分に話し合ってから、治療法を決定しなければいけない、と再認識させられる、今日この頃です。