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第141回 包括臨床の勧め・・②(咬合を診る)

大変ご無沙汰しており、私の担当のページの更新が途絶えていました。申し訳ありません。依頼講演や外部向きセミナーの準備、医院改革や院内セミナーの開催などなどに追われていました。

スタッフの増員(歯科医師、歯科衛生士、受付)によって、歯科医師は5名、歯科衛生士は8名となりました。これで診療部門は、歯科医と歯科衛生士のみでの体制が整い、より品質の高い専門性を活かした取り組みが行えると思われます。

さて、タイトルの話をしましょう。
咬合(噛み合わせ)の不具合・不調和を主訴に来院される方が後を絶ちません。若い歯科医と話をすると、咬合の概念はわかっていても、実際の臨床の場で、”咬合異常・咬合不全”を訴える患者さんに対してどのように診断を下し、治療を進めていくのかわからない?と相談を受けることが多い。

実は、咬合へのアプローチは、医師には発想すら思い浮かばない、歯科医だからこそ取り組まなければいけないとてもやりがいのある分野であると言える。
下記の症例を通じて、当クリニックで行われている機能的咬合を獲得するためのアプローチの一端が窺い知れたら幸いです。
17d
A
18a1
B
19a2
C
20a5
D
図Aが、当クリニック初診時の正面観である。主訴は、”右側で咬めない!”であった。上顎の前歯の正中に対して、赤矢印の方向に下顎の歯の正中が約3㎜左へ偏位している状態で、咬み合わせが深い過蓋咬合を呈していた。
図Aの右側臼歯部(図Aでは画面左側が右側奥歯になる)は、すれ違い(交叉・鋏状)咬合で、多数の補綴物が臼歯部を中心に装着されていて、下顎位が不安定な状態であった。詳細は後述するが、咬頭嵌合位と咀嚼終末位が一致しない2態咬合が観察された。

図Bが治療後の正面観である。上下の正中は一致し、左右均等な咬合接触と安定した下顎運動が行えるアンテリアガイダンスを付与した。
図Cが初診時パノラマX線、図Dが術後のパノラマX線である。初期治療に続いて咬合の安定化を図った後、適正に配備されたインプラントによって、臼歯部で緊密な咬合接触を与えた。
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E

さて、初診時の状態(
図Eの6枚)を少し詳しく観察してみよう。一言で言うならば、上下左右臼歯部に装着されていた補綴物に問題があり、咬合への配慮を全く無視した咬合面形態が作製・装着されていた。特に上下顎左側臼歯部のブリッジは、前医の削合によって咬合面が平坦化し、咀嚼能率、咀嚼力ともに十分に発揮できる形態ではないことは明白であった。

図F、Gのように、診断用模型をCR(中心位)CO(中心咬合位)で咬合器にマウント(装着)し、そのずれ及び側方運動時のガイドティースを観察する。
図Hは、右側臼歯部の咬合関係であるが、水平的なずれによって、全く上下の歯が咬合接触していない状態であった。図Gのように垂直的にも対合歯の欠損による右下5の挺出が起こり、咬合平面の乱れ、咬合干渉・早期接触を引き起こし、円滑な偏心運動が妨げられていた。

図Iは、機能分析の評価の一法で、下顎運動測定器(ALCUSdigma)によるデジタル解析の結果である。咬頭嵌合位(上下の歯牙が最大面積で接触している咬合位)と習慣性咀嚼終末位が全く一致していない(未収束という)ことが観察できる。

わかりやすく言うと、患者さんが本来咬みたい場所ではない位置で咬み合うように補綴物(かぶせ物)が作製されている、ということである。
4a7
F
2115
G
3a6
H
6a6
I
図J~Kは本題からそれるが、当該患者さんへの欠損部へのインプラント治療を行う際の、ハード・ソフトティッシュマネージメントの一端の処置である。審美ゾーンの歯頚部ライン調和を図るためや将来的に歯肉の退縮を防ぐためには、繊細な術式・手技が必要となる。

図J~Kでは、右上6への2次オペ時に、右上8相当部の結合組織を唇側の軟組織が不足してる部位(右上3)へ図L、Mのように移植を行っている。右上3部は、マイクロサージェリー用メス(図K)でフラップ(歯肉弁)を開かず横切開部からパウチを作製しで移植片を潜り込ませている。図Lのように採取した移植片は2枚おろしにして、唇側と歯槽頂部へと移植した。幅と高さの両方の増大を図るためである。
7a7
J
8a2
K
9a2
L
10a4
M
図Nのように、。6ヵ月かけて、顎位の診査と、前処置となる欠損部へのインプラント埋入を行い、その後6カ月かけてプロビジョナルレストレーションの改変を繰り返し、機能的に安定する下顎位を模索しました。
図Oが治療開始12か月後です。正中は一致し、左右臼歯部での咬頭嵌合は得られ、形態としてはゴールに近づいてきました。

ここで重要な点は、人為的に作製したプロビの形態が下顎運動と調和しているかです。図Pが機能分析の結果・評価です。咬頭嵌合位と習慣性開閉口の咀嚼終末位が一致するようになりました。この結果を受けて、最終補綴物へ移行できます。

図Qが治療前と最終補綴物作製直前の治療開始12か月後の右側面観と正面顔貌です。顔貌正面ですが、治療前わずかに左偏位していた頤の位置が左右対称な位置へ改善しているのがわかります。形態と機能の調和がとれた状態と判断しました。
11a2
N
12a2
O
22a2
P
13a5
Q
図Rが、治療前、治療後の口腔内です。患者さんにはとても満足して頂けました。
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今回は、当クリニックで行っている形態分析と機能分析のほんの一端を御紹介しました。形態と機能は、相思相愛といいますか、双方の調和が必要不可欠です。そのためには、治療の各ステップでの再評価を繰り返すことが求められます。

咬合”という目に見えにくい雲をつかむように思える分野を、如何に”可視化”し、それを治療に反映させるかが咬合治療成功へのストラテジー(戦略)と考えます。

今日からスタッフ数名とともに、東京で開催される”日本顎咬合学会”に参加します。日頃お世話になっている多くの著明な歯科医との交流が楽しみです。私自身も短い時間ですが一般口演を行い、多くのご批判・批評を受け、次へのステップにつながればとも思っています。