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第134回 歯周病と歯列不正の関係

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本ページのタイトルで、「歯のポジショニングの重要性」というサブタイトルの下、一昨日は大阪で、昨日は福岡で依頼講演をしてきました。その時話した内容を少しだけお話ししてみたいと思います。

天然歯の保全の重要性を感じ、如何にすれば残存している歯を長期的に保存できるか?を、誠実な歯科医程、真摯にそして真剣に取り組まれているのではないでしょうか。

上図の赤丸のところには、当クリニック来院時、動揺の著しい歯が存在していました。抜歯後の遠心側隣在歯の近心側根尖付近には歯石沈着が認められました。後ほど治療経過について触れます。

私も歯科臨床家として20年以上となり、自身が行った10年以上前の症例の経過を追って検証していると、やはり人為的に人工物に置き換えた物の寿命は総じて短いと感じることが多いです。歯・歯周組織の生体適応能力、回復力を最大限活かす臨床を行うことが基本概念として必要と最近特に感じます。

歯周病は、言わずと知れた歯周病菌による感染症で、バイオフィルムの機械的除去が治療の基本であるのですが、局所・全身のさまざまな増悪因子(リスクファクター)によって、重症化の程度や進行度が異なるとともに、治癒の成否や治療難易度が変わってきます

そして、歯科治療の大原則である”天然歯の保全”といういことを第一に考える上では、一度歯周病に罹患した歯への力の与え方、一口腔としてどのように力を制御するのか?は治療の成否や予後を左右する重要な因子であり大命題といえます。
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図A~Dが当クリニック初診の状態です。図Aの赤丸のエリアの歯5本は中程度~重度の歯周炎で、前医では、図Bの青いバツにしている4本の歯を抜歯して、欠損部へはインプラントにしましょう、という提案でした。図Aの赤丸部分は叢生(乱杭歯)のため長年清掃不良の状態で、図Cのように対合歯との咬合関係も悪く、咀嚼障害をて呈していました。図Dが同部のX線像で、歯槽骨の吸収が左上456ではかなり進行している状態でした。

歯列不正(特に叢生)があると、うまく歯ブラシが届かないばかりか私たちが行うスケーリング・ルートプレーニングをする器具も到達しずらいため、歯周病のコントロールが難しいです。当クリニックでの処置は、抜歯は左上48のみ行い、抜歯スペースを利用して残存歯の再排列をすることで欠損補綴の必要はありませんでした。

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術後が図E、Fになります。図Eの67の暫間固定は、リテーナー装着後3ヵ月で除去し、咬合面を修復処置にて置換しました。術後5年経過していますが、咀嚼障害は改善され歯列形態や咬合接触に著変もなく、歯周病の再発所見も見られません。最小限の浸襲により既存組織の保全に努めれた、と感じています。


治療経過ですが、左上4の抜歯と平行して、全顎的な歯周病初期治療を行いました。特に重度歯周炎に罹患していた左上5のデブライドメント、内縁上皮の不良肉芽の除去はマイクロスコープ下で徹底的に行いました。

歯周病のコントロールをした後、3カ月後より図GのようにMBSにて歯の移動を開始しました。一度歯周病に罹患した歯の場合、移動中支持組織へのダメージを最小限にする工夫が必要です。矯正力の大きさや方向、移動様式への配慮を使用するブラケットやワイヤーで適宜調整していきます。

具体的には、使用するワイヤーはニッケルチタンを中心に、サイズ交換をまめにサイズアップを順番に行う、また交換のスパンを長めにするなどです。

図Iのように捻転した左上5番については、頬側と口蓋からCCW(反時計回り)の矯正力を作用させます。

図Jの10か月で、ほぼ動的治療は終了しました。左上6近心側の歯肉レベルが初診時(図C)と比較し改善しているのがおわかり頂けると思います。

歯根面の適切なデブライドメントと、矯正により隣在歯との歯槽骨レベルの調和・平坦化による改善が達成され、生活歯の歯根膜が温存されたままの治療は、生体の治癒能力を最大限発揮させうることができると感じています。

図Kの術前(左側)、術後(右側)の比較でも、歯槽骨レベルの改善が顕著に観察できます。

歯列不正は、歯周病を増悪させる局所の因子の中でも非常に重要な位置づけと考えておく必要があるのではないでしょうか?

ポケットデプスは全て3㎜以下で、上皮性付着により歯周環境も改善したと考えられます。
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天然歯の保全という観点からすると、「歯のポジショニングの重要性」について、全ての歯科臨床家に熟慮して頂きたい。

理想は幼年期からの咬合誘導によって健全な機能咬合を獲得することですが、歯列不正が成長期に放置され、成人になって歯周病に罹患した場合においても、安易な抜歯によるインプラントに代表され欠損補綴の治療プランを考える前に、天然歯を利用して咬合の再構成・再構築ができないか?を考える習慣を身につけてほしいと思う。
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上記は日本歯周病学会が公表している歯周病の分類の抜粋であるが、歯肉炎、歯周炎と並んで”咬合性外傷”という項目が歯周病の3大項目の一つになっていることを注目して頂きたい。如何に咬合と歯周病との因果関連が大きいか!配慮すべきか!が見てとれます。

言い換えれば、咬合力に代表される力を如何に各歯に分散させコントロールさせるか?が、歯周病治療の成功の成否に大きく関わっているのではないでしょうか?

歯周病の細菌学検査で菌種の同定や菌数が少なくても同定できる精度が増した昨今、歯周病の原因菌であると言われてきた細菌が健常者でもかなりのパーセンテージで定着(上記参照)していることがわかり、現在では歯周病原生菌は、日和見細菌つまりは口腔常在菌という発想にかわりつつあります。

冒頭にお話しましたように、歯周病は感染症であり炎症のコントロールは必須です。が、一旦中程度以上の歯周炎に罹患すると、各歯の歯周組織の力への支持閾値を超える荷重負担により力の制御が不能に陥り、しばしば病的な歯の移動が起こります。もし元々歯列不正があり咬合に不調和があるとなおさら病的歯牙移動が加速度的に誘発されます。

ですから、歯の病的な移動が存在する場合は、位置異常を是正し、可能な限り咬合力が各歯の長軸方向にに均等にかかるようにすることが、予後を左右する歯周病治療の重要事項といえます。

次の症例をみてみたいと思います。

上図4枚が当クリニック初診時の診査資料の一部になります。上下全顎的に中程度歯周炎で、特に図Mの赤丸のエリアの下顎前歯部はポケットデプスが4~7㎜と深く、BOP(出血)も認められました。注目すべき問診事項として、患者さん曰く、10代の頃は今のように出っ歯ではなく、下顎前歯もこんなに重なっていなかったとのことです。

図N、Oが側貌X線及び側貌です。ANB:3.3、FMA:21、Interincisal angle:115、U1-SN:114 と歯性の上顎前突(Angle ClassⅡdiv.1)に分類されました。

短顔型で咬合力が強いことが推察され、歯周病の進行に伴い上下全歯が、近心移動(前方)し、上顎の前突観と下顎前歯の叢生が重症化したと考えられました。

治療方針としては、歯周基本治療による歯周組織の安定を図った上で、上顎前突と下顎叢生改善のため
①上下左右の小臼歯4本を抜歯しての再排列
②上下全歯の後方移動によって再排列
が考えられました。

歯周病患者の歯の移動は最小限に留め、術後歯の長軸方向へ力がかかるよう歯軸を改善させる、歯根間距離を適正に改善しケアしやすい環境にするなどを考慮し、上記①を選択しました。もちろん後方移動できる歯槽突起のスペース(ポステリアスペース)が存在することが必要要件になります。


図P~Uが治療経過と術後評価の一部になります。詳細な説明は割愛しますが、下顎叢生の改善により清掃しやすい歯周環境が整備され、術後4年を経過していますが、ポケットデプスは3㎜以下で安定しています。主訴であった上顎前突、叢生は、8番抜歯のポステリアスペースを利用してインプラントアンカーにより28本の同時の後方移動を行いました。U1-SNが114→108、FMAが21→25と改善されました。

歯周病患者への小臼歯抜歯矯正には注意が必要です。なぜなら歯の移動距離が多くなり、歯周組織へのダメージが大きくなる傾向だからです。プランニングの際、歯の病的移動を起こしたと思われる場合、以前はどのような歯列であったのか?を念頭に、トーキングの矯正力は極力控え、術後には歯の回転中心に可能な限り力がかかるよう咬合平面と歯の長軸を直角にするゴールを目指すのが得策かと思われます。

ブラキオタイプの方は、通常咬合力が強い場合が多いので、歯列の安定・リラップスの防止の観点から矯正終了後の咬合調整は欠かせません。特に後方歯へのクロージャーストッパーの付与は重要と考えます。咬合接触点への配慮とともにプロテクトスプリントの常用もお願いしています。5年経過していますが、歯列不正の再発は見られず、歯周組織も安定しています。
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歯周治療の本丸として図V,Wの手技のような、垂直性骨欠損(例:右下6近心 2~3壁)への再生療法(EMD法)が主流となってきたが、原因が咬合に由来していることが多々あります。
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歯周治療を成功に導くための臨床的基準の中に、”咬合性外傷への対応”が組み込まれています。何度も言いますが、歯列不正の改善は、歯の保全、歯周治療成功の観点から最重要項目と位置づけておくことが必要と考えます。

現代の歯科臨床には、さまざまなオプションが存在します。天然歯の保全、歯列・咬合の安定のために、歯の位置づけをどうするか?は最も重要かつ最初の段階で思考することが求められます。

歯周病患者ならなおさらです。仮に歯列不正を残存したままの連結固定による歯周補綴での機能回復は、問題を先送りにすることになるばかりか、短期間での再治療を余儀なくされます。

今も昔も変わらない真意として、先人の歯科医たちは、”炎症の制御と力(咬合)の制御が達成されなければ、口腔の崩壊を止めることはできない!”と教示してくれています。

審美的側面以上に機能的側面から、歯列不正を置き去りにしての歯科臨床はあり得ない!と断言できます。