ページトップへ戻る

第95回 歯牙の保存、天然歯を活かすために!・・・①

99
前々回<院長のメッセージの第93回>の続きの話をしましょう。
私たち歯科医は、日々の診療の中で、虫歯や歯周病に罹患した歯牙に対して、”保存か?抜歯か?”という究極とも言える選択を行っています。

可能な限り抜歯をしない治療法を模索するのだが、”明確な抜歯基準が存在しない!” 言いかえれば担当医の裁量に委ねられているというのが現実である。

欠損後の歯槽骨を温存するためという名の下、”戦略的抜歯(Strategic extraction)”が比較的安易に選択されている現状を目の当たりにすることは、個人的には由々しき問題であると思っている。

私たち歯科医が治療介入する上で、最も考慮しなければいけない原理・原則の一つに、”天然歯を保存し、長期的に安定した機能が営む環境を整備すること!”が挙げられる。オプション的手法が必要な最も歯科医の力量が試される場面と考えます。

前医に、多数歯を抜歯するしかない!と言われた事例について、当クリニックの天然歯保存への取り組みについて紹介してみたい。


図Aが当クリニック初診時の治療前の上顎咬合面観です。全顎的に不適合な補綴物(被せ)が装着されていました。

図Bが上顎の前歯部分ですが、被せと歯肉との境から歯根の奥深い所まで虫歯が進行し、歯肉炎を併発している状態で、保存することが難しい(Questionable)状況の歯牙が何本か認められました。

図Cが補綴物を除去した状態です。特に赤丸の3本の歯牙に関しては虫歯が歯肉の中深いところまで進行していて、この状態で適合の良い被せを作製することは不可能でした。

このように生物学的にも問題があり、Biologic width が確保されていない状態の場合、通常補綴前処置として歯槽骨の整形を行い、臨床的に歯冠長を延長する処置が必要になります。術式としては頻用されているAPF(Apical position flap)が適用されます。

また、X線上歯肉縁下カリエスが顕著な左上3番(図Dの真ん中の歯牙)については、APFの前処置として挺出(Upright)を行うこととしました。図Eのように、術前の唇側面観では歯肉縁下にしか歯牙が存在せず、前医が抜歯という診断を下したのも致し方ない状態でした。
1044
100-1
1e
156
223
図F,Gが挺出するための矯正装置を装着して、矯正を開始したところです。

図H、Iが2か月経過した状態です。赤矢印の方向(歯肉から引っ張り出す方向)の矯正力をかけることにより、図Eに比べ、図Iでは歯肉より若干歯質が見える状態になりました。

約2.5㎜移動しています。歯肉レベルも歯冠側へ移動するため、最終的に隣在歯との歯肉ラインを揃える時の自由度が増します。

その後、図Jのように、全歯牙の全周が歯肉より上になるように”確定的外科的処置(APF)”を施します。歯肉より上に健全な歯質を設置することにより、適合の良い補綴物の作製を行え、如いては歯肉を正常な状態に保つ環境を整備することが可能になります。

図Kは挺出させた左上の3(犬歯)を中心の拡大像です。図Cの赤丸のエリアが術前ですが、比較すると、図Kでは歯牙の全体像が確認できます。何度も言いますが、適合の良い補綴物を作製するためには必ず必要な処置といえます。

図Lは前歯部分の外科処置直後、そして図Mがオペ当日に仮歯を装着したところです。創傷の治癒を待って、歯牙の形を修正しつつ徐々に被せの境の位置を歯肉近くまで伸ばしていきます。

図N、図Oは若干後方の歯牙の外科処置直後の状態です。一週間後の抜糸を待って、仮歯の形態を支台歯に適合するよう調整していきます。
325
F
418
G
6d
H
5c
I
5a3
J
810
K
1092
L
1114
M
4c
N
1019
O
図P図Bと同じく治療前の状態です。図Qは、抜糸が終わった一週間後で、支台歯の概形成、及び仮歯を仮着した状態です。歯冠長が長くなっているのがおわかり頂けます。

まだこの段階では最終的な歯冠形態は決定していません。顔貌を含めてトータルでの審美的な上顎前歯部切端の位置を、基準となるガイドラインに沿って模索するとともに、上下の咬合関係や下顎の歯牙の位置も含めて総合的に評価、思考錯誤していきます。

図R、Sが全顎的に”臨床的歯冠長延長術”を行ってから2週間後の状態です。外科的浸襲による歯肉のダメージが少しずつ回復しています。
100-1
P
1213
Q
1312
R
714
S
分かりやすい表現のため、患者さん向けには”仮歯”という表現を使用しますが、本来は”プロビジョナル・レストレーション”という表現が正しい言い方です。

治療の流れとしては、資料採得に始まり、診査・診断を下した後、上記の事例のように、可能な限り歯牙を保存するというスタンスを念頭に置き”確定的外科処置”を行った後、プロビジョナル・レストレーションにて再評価します。

プロビジョナル・レストレーションを改変しながら、歯周病的に問題のない環境作りやアンテリアガイダンスに代表される機能的な咬合(力のコントロールを含む)を構築していきます。もちろん顔貌を含めた、審美的な観点からの評価も組み込みながら最終的な上部構造の形態が決定されます。

どのようなプロセスで最終補綴物を決定していったか?については次回お話します。

タイトルの話に戻ります。”歯牙の保存、天然歯を活かす”ためにあらゆる治療法を駆使することは、私たち歯科医が最も勢力を費やすべきことと考えます。

要するに、”抜歯基準”は、歯科医の知識・技術・経験によって大きく左右される!ことは、知っておいて頂きたいです。