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第68回 ”親知らずの難抜歯”のオンパレード

親知らず(真ん中から数えて8番目の歯)は、顎骨の中に斜めや真横に向いて埋まっていることが多く、抜歯するのに一苦労することが多く、いわゆる”難抜歯”と呼ばれる場合が多い。

当クリニックの場合、矯正治療に支障をきたすとの理由から、生えかた、埋まり方の悪い親知らずを抜歯させて頂く場合が頻繁にある。
そして、最近は、他歯科医院からの抜歯依頼の紹介が非常に増えた。親知らずと神経が通っている管(下歯槽神経)とが近接しているとの理由から、CTで確認してから処置、抜歯してほしい、との依頼である。

親知らずの歯根と神経管(下歯槽管)がパノラマ像(2次元)では重なっているように見えても、CTで確認すると、ほとんどの場合問題ないほど離れている。しかし、稀に非常に近接している、接している場合がある。

ごくごく稀ではあるが、歯根が3つ、4つある場合は要注意である。歯根と歯根の間に神経管がトンネルのように入り込んでいる場合がある。

毎週火曜日は、大学の口腔外科で研鑽を積んでいる歯科医とともに診療している。そして先週火曜日の午後は、4人の方の難抜歯を2人で行った。どの方も、非常に顎の骨深くに埋まっているケースであった。歯根が4つある親知らずにも出会った。

下の親知らずの抜歯を行う場合、下顎の中を走行している下歯槽管との位置関係を十分配慮し、慎重に周囲の骨、歯牙の分割を行わなければならない。滋賀県の歯科医からの紹介でわざわざ来院された方は、3日間だけの岡山の滞在中に上下の親知らずを抜歯してほしいと来院された。

4人の方全員がパノラマ像では、上顎骨の奥深くに埋まっていたり下歯槽管と重なっていて、水平埋伏(真横に埋まっている)の状態でした。

一人目の方のパノラマ像が、上の図Aになります。矯正治療に支障をきたすため、赤四角部分の右上親知らずを抜歯することを計画しました。

図Aの赤四角部分を拡大したのが、図Bです。口腔内には全く萌出しておらず、X線上でも上顎骨の深い位置に埋まっている状態でした。パノラマ像では、何となく2つの歯根があるのかな?という印象でした。2次元のパノラマ像での診査の限界があります。そこで、当医院に設置している「歯科用CT」でさらなるX線診査を行いました。
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B
図Cのように、CT像ですと、3方向から、0,2mm単位で任意のセクションで切り取り観察することが可能です。また、3D画面を使用して、さまざまなシュミレーションが可能ですので、患者さんへの説明ツールとしても利用できます。

図Dが抜歯予定の親知らずの中央部での断面像です。図Bのパノラマ像でぼやけて見えない歯根の形態が、図Dでは鮮明に読影できます。頬側(外側)、口蓋側(内側)の歯槽骨内にどこまで埋まっているか、埋まっている方向、長さ、歯根の数も高解像度のため、非常に情報量が多いです。

図Eのようにクロスセクションでも2根存在することから、この親知らずは、4根であることが、術前に判明しました。周囲の歯槽骨との関係、厚み、骨を開創、削除すべき場所、アプローチ法など、多角的にプラニングできることは、術者にとっても、安心して抜歯処置に臨めます。
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E
図F、G、H、Iが実際に抜歯した歯牙です。図Iのように4根からなる稀な歯牙でした。抜歯施術一つとっても、治療前に、3次元画像によって2次元では見えないエリアの情報が詳細に見えることの患者さん、術者の安心感は計り知れません。どきどきしながらの施術から開放され、結果的に施術時間の短縮にもつながります。

術者の解剖学的知識、外科処置の基本的スキルは前提として、適切、的確な、そして安全、安心な治療が行えます。
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F
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G
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I
2人目の下記の方は、パノラマ像(図Jの赤四角の親知らず)ですが、完全に顎の骨の中に真横に埋まっている状態でした。
他歯科医院からの紹介ですが、CTによる画像診断がなければ、怖くて誰も処置できないケースと思われます。

図Jの赤四角部分に埋まっている右下親知らずですが、病名をつければ、「骨性完全水平埋伏歯」と呼びます。顎の骨深くに埋まっている状態です。歯茎を切開して剥離しても、歯牙が全く見えない状態でした。外科処置にある程度の経験、自信がないと手が出せない症例です。

また、隣在歯の根尖近くまで親知らずが入り込んで、わかりやすく言えば、食い込んでいる状態ですので、隣在歯への配慮も必要なケースでした。

図K図Jの赤四角部分を拡大したところです。
図Lの青曲線が歯根の外形で、2本の赤線部分の幅で神経管(下歯槽神経)が通っているのですが、歯根と神経管が重なっているように見えます。抜歯時にこの神経を損傷することは絶対に避けなければいけません。
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そこで、CT画像で検証しました。図Mの3方向からの各画像を順次スライス面をかえながら移動させ、抜歯予定歯牙と周辺の顎骨、神経管などとの解剖学的位置関係を詳細に観察していきます。

3方向からのセクション像である図Mのうち赤四角部分(クロスセクション像)を拡大したのが図Nです。0.2㎜単位で神経管の走行を順次表示できます。

図Oのクロスセクション像の1画像である赤四角部分のスライス像を拡大したのが図Pです。距離計測はもちろん、CT値から、各エリアでの顎骨の硬さもある程度把握できます。

さらに、図Pを拡大したのが図Qです。図Qにおいて青丸部分が親知らずの断面で、赤丸部分に神経管が走行しています。図Qは実像をより約3倍に拡大していますので、歯牙と神経管が非常に近い位置(1~2㎜)にあることがわかります。

実測し、距離を測定し、実際の抜歯処置の際は、どの方向からアプローチするのが安全か?プランニングします。舌側側のConcave(くびれ)、皮質骨(表面の硬い骨の厚み、形状)なども十分に観察できますので、非常に多くの情報を提供してくれます。
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あと2人の方も、2人目の方とほぼ同じ深さに親知らずが埋まっていました。「CTによる画像診断」は大きな武器になるというより、診断、治療には絶対必要な検査機器です。

抜歯処置に限らず、顎の骨の情報が3次元の世界で治療前に詳細にわかるということは、あらゆる歯科疾患の診断、そして治療法の選択に役立つことは言うまでもありません。
また、遅ればせながら、歯科界でこれからの時代必ずクローズアップされてくる自医院を守る意味での「危機管理」という側面からも、CTによる診査・診断は、有効性というより必要不可欠な当然の検査機器として認知される日が来るであろう。