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第55回 最善の義歯(入れ歯)治療とは!

まずは、前置きの話をちょこっとしましょう。
私は、大学卒業後、補綴科(入れ歯や被せ、顎関節症の治療を行う)に5年在籍していました。
ですから、開業直後、”先生の専門は何ですか?”と患者さんや同業の歯科医に聞かれれば、迷わず”補綴、特に義歯(入れ歯)です”と返答していました。

私が卒業した18年前、補綴科といえば、ある意味花形でした。補綴科はとても人気があり、優秀な学生には、医局員からの勧誘も結構ありましたし、入局するための倍率が高かったです。最近はというと、”?”ということにしておきます。

医局時代には、いろいろな種類、パターンの義歯を作製しました。コーヌス義歯(後述します)に始まり、複雑なアタッチメントを組み込んだ義歯も、数多く作製しました。自分で納得いくまで技工していたので、午前様の帰宅は当たり前でした。

開業し、技工よりも診療が中心になり、自身の作製した義歯を毎日のように患者さんに装着し、経過を年単位で観察していると、いくつもの壁にぶち当たりました。無調整で良い状態で経過するケースがとても少ないのです。

部分義歯の場合は、バネをかけた歯牙が、順番にダメになっていくのです。総入れ歯の場合は、何年かに一回は、裏側(粘膜面)を張り替えなければいけないのです。5年以上修理や補修などなしに経過する入れ歯は、10%にも満たない状態でした。粘膜負担にたよっている義歯の限界を感じながら、日々苦悩しています。

それでは、義歯への私の取り組み、そして、最近流行の義歯の動向について、お話してみたいと思います。


図A
の上顎用の部分義歯は、私が5年前に作製しました。
現在まで、問題なく使用されています。ご本人も大変満足されており、裏側を薄い金属にしたことにより、違和感も全くなく快適に使用できているとのことです。

図Bは、一部分を拡大したところです。部分義歯の場合、通常クラスプ(バネ)が必要です。クラスプにより、義歯を動かなくしています。レストと言われる歯の上にあてるポッチを付与することにより、義歯が沈むのを防ぎます。

図Cは、別の患者さんの上顎の総義歯です。中央部を金属にすることにより、薄くできるため、快適な装着感が得られます。6年前に作製しました。現在まで、裏側を張りなおすといったことは一切していません。しかし、粘膜の形状がほとんど変化しないケースは稀なため、裏打ちをしなおしたり、再製せざるを得ないことが多いケースが大半です。


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A
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B
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I
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J
次の症例(図K~P)についてですが、バネのないコーヌス・テレスコープ義歯といいます。詳細については、院長のメッセージの<第24回 バネのない入れ歯の話>をご覧下さい。5年以上無調整で経過しているケースです。私が大学の補綴科にいた頃、コーヌス義歯は花盛りでした。支台歯への負担が軽減された理想的な部分義歯の形態と言われていました。私自身何十、いや100症例以上は作製してきました。

図Aのようなバネのついた義歯に比べると、断然臨床成績が良いです。図Kが義歯非装着時の下顎咬合面観です。内冠と呼ばれる白金加金製の被せを支台歯に装着します。図Lが義歯装着時、図Mが義歯の全体像、図Nが義歯の右側面観、図Oが右側臼歯部咬合面観、図Pが左側臼歯部頬側の拡大です。外冠と呼ばれる被せを義歯と一体化させ、支台歯を2重の被せにすることにより、双方の摩擦抵抗が義歯の維持力になっています。

コーヌス義歯は、技工操作に熟練が必要なのが難といえます。各支台歯の平行性、各歯牙の軸面のテーパ度をどうするか?などをミリング操作をしながら決定していきます。予後に当然影響します。維持力が弱ってきた場合への対応も、義歯に組み込んでおく必要があります。
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K
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O
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P
現時点で、支台歯に優しい義歯ということでは、マグネットかコーヌスは欠かせないと思っています。

上記のいくつかのケースのように、5年以上無調整で使用できている義歯は、”良い義歯”に決まっています。ただ、このページの冒頭でお話しましたように、常に変化していく粘膜への負担に少なからず頼っている義歯の多くは、定期的な修正が必要です。

次に、少し工夫をして作製した義歯や最近はやりの義歯の話をしてみましょう。

図Q、R、Sは、同一の方です。上顎の部分義歯です。図Qのように、クラスプ(バネ)だけでなく、土台の床の部分は全て金属(チタン)で作製しました。また、図Rが前歯の部分を拡大したところですが、通常歯の欠損部に使用する人工の歯を、メタルの裏打ち(メタルバッキングという)をした特殊な形態にしました。

図Sが正面観です。義歯にはつきもののピンク色の床は全く使用していません。非常にコンパクトな設計のため異物感がほとんどありません。また、歯の表側の白い部分は、ハイブリッド・セラミックで作製しているため、経年的な変色もほとんどありません。
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Q
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R
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S
次の図Tは、別の患者さんの部分義歯の一部分を拡大したところです。図Tの青丸部分を拡大したのが、図Uです。”CIアタッチメント”という部品を義歯の内部に組み込みました。図Uの出っ張った金属の部分は、中にスプリングが組み込まれていて、青矢印の方向に押せば動くし、離せば元に戻ります。支台歯側がフィーメル部の凹みになっており、義歯を口腔内に装着すると、カチッと音を立てて、はまり込む構造になっています。審美面からクラスプをかけたくない場所に最適のアイテムです。
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T
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U
別の症例です。通常義歯を装着すると、図Vのように、クラスプが見えてしまいます。そこで、図Wのような目立ちにくい白いクラスプ(アセタルクラスプ)をつけることがあります。

図Xが口腔内に装着したところです。図&が義歯のみの全体像です。少数歯の欠損で、支台歯への応力があまり集中しない限られた部位に適応可能です。

図Y、Zのように、白いクラスプ部分は、審美的には目立たなくて良いのですが、素材はプラスチックですので、耐久性や劣化、そして維持力の低下に対する調整も限られていますので、現状では、症例を選んで選択せざるを得ないというのが、私の感想です。
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V
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W
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X
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&
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Y
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Z
自身で何度も作製しましたが、維持装置の必要条件である3要素のうちの保持、把持については”可”ですが、維持力については、”疑問符”といえます。厚み、幅についても、強度を持たせるためにメタルよりも、分厚く大きくなるため、装着感は悪くなります。

上記に挙げたものが、義歯のタイプ、種類の全てではもちろんありません。アタッチメント類を一つ一つ例に挙げれば、何十という義歯の設計が可能です。

卒後補綴科に在籍し、その後約15年以上に渡って、欠損部への義歯作製、調整に悪戦苦闘してきた一歯科医の出した現時点での結論は、”シンプルな設計がベター”ということです。特に、マグネット義歯は、支台歯を長期に渡って温存できると思いますし、コーヌス義歯も長期的に良好な予後が望める捨て難い設計の義歯と考えます。

医局時代、医局の助教授が言っていた言葉があります。図Zのレスト(クラスプの構成要素で支台歯の咬合面にあてて義歯の沈下を防止する出っ張り)が50μ(0.05mm.)浮いていたら、もうレストの役目は全くないんだよ!そんな精度で全てのレストを浮かないように義歯が作製できると思うかね!”
確かにその通りです。そんな精度で義歯を作製するのは不可能です。”だからクラスプ義歯は、確実に支台歯の寿命を縮める!”と。

健康保険では、クラスプ義歯しか作製できません。不条理な制度としか言いようがないです。
理想を求めた本当に良質な歯科医療の提供と、現実とのギャップを感じながら日々苦悩しています・・・。