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第50回 ”ブラックライン”をなくすには?

このページも、いつの間にか50回を迎えることとなりました。いつも頂く一般の方、歯科関係者からの多くのご意見、ご感想有難うございます。
臨床(診療)に関わることを題材に、できるだけ画像を多く掲載し、一般の方に視覚で理解しやすいように心掛けてきたつもりです。
日々奮闘している一歯科医の考え方や治療経過を、反省や失敗も踏まえ、いろいろな治療法の長所に潜んだ短所にも具体的に触れてきました。歯科治療を受ける際のヒント、参考にして頂ければと思っています。
 続けることによってしか得られないものがあると信じています。微力ですが、100回を目指して頑張りたいと思います。取り上げて欲しいテーマ等ありましたら、ご連絡頂ければ幸いです。
では、本文に入りたいと思います。

”審美的な治療”
を行う上で、避けては通れないテーマに、”ブラックライン”があります。なかなか処置が難しいケースもあります。
 そういえば、当HPの「スタッフのメッセージ」の第58回 診療ナビゲーション・・④(ブラックマージン)で、最近スタッフが、ブラックラインについて触れていましたので、歯科医の立場から、もう少し詳しくお話してみたいと思いました。

歯科用語で、「ブラックライン」といえば、歯と歯肉の境が黒っぽく見えることをいいますので、当然審美的な問題となります。

ブラックラインが生じてしまう原因には、実は、いろいろなパターンがあります。原因が違えば当然対処法も変えなければいけませんし、あまり問題視されていませんが、どんな方法をとったにせよ、人工材料を使用すれば、経年的には、必ず変化していきます。永久的にブラックラインが生じない方法というのはない!その辺りについても触れてみたいと、思います。

歯と歯肉の境付近が黒く見える主な原因を列挙しますと、
 ①被せの内面に使用している金属色が透けて見えている
 ②歯肉が痩せて、歯根の一部が露出し、黒っぽく見える
 ③歯根が虫歯になると黒く見えてくる
 ④支台として使用している歯根に埋め込んだ心棒に使われている金属が見えている
 ⑤歯肉へ心棒や被せに使用されている金属の切削片が取り込まれたり、
  一部が溶出
して黒く見えている(メタルタトゥーという)

一番多いのは、上記の①でしょうか。①~⑤が混在したケースも多々あります。
まずは、いくつかの症例で、ブラックラインのイメージをつかんで頂ければと思います。


図Aは、40代の女性、当医院初診時の正面観です。4年前に上下の前歯12本に被せを装着したが、治療直後から、ブラックラインが目立っていたとのことです。
 この方の場合は、被せの境の金属が透けて見えているのと、歯根が露出して黒っぽく見えているのと、歯肉自体も黒っぽく変色している状態でした。
図Bは、同じ患者さんの下顎前歯6本を拡大したのですが、切端(歯の先端)に、金属色が見えています。レジン前装冠(金属の表面にプラスチックを貼り付けたタイプ)は、プラスチックが経年的に磨耗して金属がみえてしまうことがよくあります。

図A、Bのように、レジン前装冠の場合、レジン部分の変色、磨耗という材料自体の物性が変化してしまう、致命的な欠点があります。健康保険適応の修復法なのですが、理想的な審美修復の方法とは、お世辞にもいえない、妥協の産物といえます。
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A
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B
一方、図Cは、前歯4本が陶材焼付冠(通称メタルボンド)による被せで、金属の表面にセラミックを築盛して作られているのですが、2年ほど前に他医院で行った治療とのことです。最近ブラックライン図Dの青丸の歯と歯肉の境の黒っぽい感じ)が気になりだしたといって来院されました。
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C
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D
図Eが治療後です。オールセラミック、つまり金属を使わない被せで修復しました。
図F黄色丸の部分のブラックラインが消失しているのがおわかり頂けると思います。
 金属を使わないオールセラミックは、メタルボンドに比べ透明感や、色、艶が出しやすいため、審美修復の材料としては、現時点では最良といえます。図Gが治療前の咬合面観、図Hが治療後の咬合面観です。

但し、セラミックという材料の最大の欠点に、硬いが脆いという点があります。時として、セラミックは、破折するこがあります。
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E
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F
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G
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H
セラミックによる修復を行う場合、セラミック自体の厚みを十分確保することや、咬合関係(前方、側方運動時に干渉をさせない)を十分配慮すること、重度の歯軋りをする方にはスプリント(マウスピース)の装着の義務付けなど治療上注意しなければいけない点が多々あります。
 
ブラックラインという面でいえば、オールセラミックですので被せの内面の金属色が何年かして透けてみえてくることはないですが、歯肉が痩せて、歯根面が露出すると、ブラックぽい色が出てしまうので、永久的な修復法と考えるのはいいすぎです。

次に、歯肉自体に被せや土台に使用した金属成分が溶け込んでいる場合があります。たばこのヤニのように表層に沈着している場合と違って簡単には除去できない場合もあります。
図Iは、つい最近他医院にてオールセラミックによる処置をしたが、治療直後から歯肉と歯との境に黒いブラックラインがあるのを気にされて来院しました。

オールセラミックによる修復を行う前に、歯肉部のブラックラインを取り除く何らかの処置をしたのか疑問が残ります。

図Jのようにレーザーにて歯肉の表面(上皮)だけを焼き切りました。図Kが術後です。図Iに比べるとブラックラインがほとんど目立たなくなっているのがおわかりいただけると思います。ご本人は大変満足しておられるのですが、若干暗い感じが残っています。歯肉の深部まで浸透しているためです。もし、完全に取り除こうとすれば、変色した部分の歯肉を完全に除去した後、歯肉整形術GTRを併用した歯冠側移動術や遊離歯肉移動術、結合組織の移植等)の適応になります。患者さんはそこまで大掛かりな処置はしたくない、とのことで本症例は行いませんでした。
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K
図L図Mのように、図Iに比べるとブラックラインが非常に鮮明で、深部まで浸透している場合は、歯肉整形処置を行う必要があります。

一方、図Nのように、歯肉が痩せて、歯根が露出しており、真っ黒になっている場合があります。この場合、ブラックラインというより、根面カリエス(虫歯)です。この状態になるまでには、10年以上は経っていると思われます。前歯3本を除去したところ、歯牙全体が真っ黒です。
 歯根自体が黒くなってしまうと、オールセラミックで修復しても若干歯頚部が暗い感じが残ってしまいますので、審美修復処置が難しくなってしまいます。
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このように、歯と歯肉の境が黒い”ブラックライン”、と言っても、実はさまざまの要因から発生しています。
もう一度原因をキーワードで大別しますと、
①被せ
②土台の心棒
③歯根
④虫歯
⑤歯肉


このいずれか、または混在して問題が発生しています。どのケースに該当するのか、適切な診断を行った上での治療が重要です。

最近では、審美的な要求の非常に高い方が増えてきたことや、金属アレルギーの問題もあって、メタルフリーの修復というのが盛んに行われるようになり、”ブラックライン”を主訴に来院される方は減ってきました。
しかし、適合性、強度という面では、金属修復が優れているのは事実です。

とは言っても、時代のおおきな流れからいって、やはり金属修復は、いずれ行われなくなると思います。

最近行った当医院の症例をご紹介します。
図Pは、メタルボンド(被せ)が原因のブラックラインを主訴に来院された方です。

図Qが治療後で、上顎前歯6本をオールセラミックで修復しました。、但し、その前に、歯と歯茎の境のラインが不揃いなため、左右対称になるように歯肉整形をしています。
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最後になりましたが、”ブラックライン”に対して、どんな完璧な審美修復を行っても、被せ(オールセラミック)や貼り付けたもの(ラミネートベニア)といった人工物である限り、永久的に変わらない方法などありません。
 なぜなら、歯根は変色していきますし、歯肉の位置は変化していきます。特に、歯肉の変化を完璧にコントロールできる人などいないからです。”永久的にブラックラインが再発しない方法はない”ということです。

”ブラックライン”に対して治療を行うの際は、原因が何で?それに対する処置にはどんな方法があるのか?そして長期的な安定させるためには、どうすればよいか?等十分担当医と話し合ってほしいものです。