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第48回 安全なインプラント治療最前線!

歯が欠損した場合、一昔前までは、どこの歯科医院でもブリッジか義歯という選択肢しか提示できなかったのですが、昨今では、インプラント(人工歯根)治療を含めた3つの治療法を比較検討して治療方針を決める、というスタンスをとることが可能になりました。その中でも、インプラント治療の進歩は著しく、安全で長期的にも安定した予後が望める処置になってきました。

2004年度において、日本全国で8万人以上の方がインプラント治療を受けたそうです。今年初頭のある歯科雑誌のアンケート結果では、半分以上の医院がインプラント治療に取り組んでいる、というデータが載っていました。

今回は、安全なインプラント治療を行うために、現場ではどんなことが行われているのか、お話してみたいと思います。

インプラント治療は、ご存知のように骨の中に穴を掘るという外科処置を伴います。患者さんの立場で考えますと、”怖い””危険はないのか”といった不安が当然あります。
 手術を伴う不可逆的な行為を行うわけですので、絶対失敗の許されない治療です。99%の成功率では意味がありません。これから治療しようかどうか迷われている方が、100人のうち1人の失敗になってはいけないのですから・・・。

リスクをできるだけ回避するためには、術前の診査、診断が重要であることはいうまでもありません。インプラント(人工歯根)を埋める場所の顎骨の形態、形状、性状を治療前にできるだけ詳細に把握しておくことが何より重要です。

日本においては、5年ほど前から、治療計画(プラニング)用のシュミレーションソフトが、急速に普及してきました。私の知る限り、3Dシュミレーションまで可能なソフトが数社から発売されていますし、2D画像まででしたら、10社ほどの製品が存在します。

何をシュミレーションするかといえば、CT断層画像を解析して、治療前に施術部位の分析はもちろんのこと、インプラントの上部構造である歯の修復の治療計画の検討を行います。
 そして、実際の施術時の器具の位置、角度、深さを計画し、ガイドとなる指標の装置(ステント)を利用してオペを行うことにより、ほぼ計画通りの位置へインプラントを埋入することができるようになりました。

さらに、最先端の器具を使用すると、リアルタイムに治療用具の深さ、位置、角度を把握しながら施術できますので、250ミクロン以下の誤差という精度で正確なドリリングをナビゲーションしてくれます。

当医院では、1~2歯欠損の全く問題のないケースを除いて、2社のシュミレーションソフトを利用して治療計画を立てるようにしています。

どのようなことがシュミレーションできて、その事が、安全な外科処置にどのように反映されるのか、について、お話してみたいと思います。


CT画像を解析し、歪み補正することにより、図Aのように3Dの画面として表示されます。
 図Aの画像は、下顎骨の全貌で、患者さんへのコンサルテーション時に一番威力を発揮します。どの部位にどのようなインプラント体をどのように埋めるのか、イメージとして捉えてもらうことが可能です。そのために、実際に画面上でインプラント体を埋めた状態を表示しますと、とても理解が深まります。

私たち歯科医が骨の形状を把握するために一番必要なのは、図B、C、Dの各セクションでの断面像です。
 0.5~1.0㎜幅で3方向から骨の形状を観察できます。
 図B(Panorama View)は前面から、図C(Axial View)は上方から、図D(Cross-sectional)は、輪切りの状態で、克明に表示されますので、術前の治療計画には、必須のアイテムとなっています。

図Dのように色補正すると、CT値から骨質を明瞭に識別できますので、軟弱な骨の場所がどこに存在するか一目瞭然です。
 また、下顎へのアプローチで一番問題となる神経束(下顎管)の走行やオトガイ孔の位置も正確に把握できます。
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A
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B
c4
C
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D
そして、図B~Dの画像から、図Eのように埋入位置やどのメーカーのどのタイプのインプラント体が適しているかプラニングします。上部構造の咬合ポイントを考慮した設計を立案することが可能です。
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E
次に上顎骨について少しお話します。
上顎骨の上部は、下顎骨に比べ非常に複雑な形態をしていることが多いため、シュミレーションソフトの利用価値がさらに増します。上顎骨上部の上顎洞と呼ばれている空洞の形態を十分把握しておかなければいけません。

 図Fの赤枠の部分が上顎骨で、3D化したのが図Gです。
 図HのCross-section、図IのAxial画像により、上顎洞までの距離や洞底粘膜の肥厚の有無、隔壁の場所などを正確に把握することができます。
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F
f4
G
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H
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I
図JのPanorama像だけで治療計画を立案してオペに臨むのは非常に危険を伴います。
 一例を挙げますと、図Kのパノラマ像ではオトガイ孔(神経束が骨面から出てくる場所)が一箇所のように写っているのですが、CT画像を解析した図Lの3D画像では明瞭に2つあることがわかりました。

安全な外科処置を行うためには、術前にオペする部位の詳細な解剖(骨の形状や骨質)を知っておくことは、非常に大切なことです。術式のイメージトレーニングをしておくことが安全な治療を行うための第一歩と考えます。
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J
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K
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L
そして、治療計画通りの位置へインプラントを埋入するための装置(外科用ステント)も、現在では、色々考案されています。
 図Mは、従来から使用されているタイプの一般的なステントで、図Nのように、ドリリングする時のガイドとして利用します。位置と方向の指標として使用します。

図Oは、骨支持タイプのステントで、多数歯欠損の場合に頻用されます。図M、図Oのいずれかのタイプを使用してオペを行っている医院が大半だと思います。シュミレーションソフトとステントにより治療計画通りの安全なインプラント治療が行える時代になりました。

さらに、1年ほど前より話題となっている機器があります。”3Dでリアルタイムにナビゲーションしながら手術をする”、というシステムです。モニター上で治療器具の位置、角度、深さを3次元ガイドで見ながら施術できます。術前のプラニングと違った方向へのドリリングや神経損傷の危険がある下顎管に近づくと、アラームが鳴り、警告してくれます。まさに、目に見える安心なわけです。最先端の安全なインプラント治療と呼べるのではないでしょうか。
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M
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N
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図P図Qが実際にオペを行っているときのモニター画像です。現在この機器は、日本で10台ほど稼動しています。あまりにも高価なため、一般開業医に設置することは難しい現状があります。当医院では、設置施設とのネットワーク契約を近々結ぶ予定ですので、紹介という形で行えます。ご興味のある方は、問い合わせてください。
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P
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上記のナビゲーションシステムの機器も、発売当初に比べると、半分以下の価格になりました。
”より安全に!”ということを考えると、ナビゲーション手術が近い将来一般開業医にも普及していくことは間違いありません。

シュミレーションソフトと、ナビゲーションシステムを組み合わせることにより、危険な手術を回避できるということは、従来は困難とされていたケースも行えるということであり、適応症の拡大につながります。

最後になりましたが、インプラント治療が一般開業医の間に急速に普及してきているということは、患者さんにとっては治療選択肢が増えるのですから、非常に喜ばしいことです。
 その一方、患者さんのニーズに答えうるだけの知識、技術、設備が歯科医院側に備わっていることが大前提であることは言うまでもありません。

孫子の兵法(謀攻篇)の中に、「彼を知らず己を知らざれば戦うごとに必ず危うし」という紋々があります。
医療に置き換えれば、「患者さんの病態に対する情報処理が不十分で、自分自身の知識、技術が未熟で正しい判断が行われないことへの危険性」を指しています。

過信、慢心は禁物ですが、上記のアイテムを利用することにより、より安全、安心なインプラント治療が行える時代に入ってきました。